「生きる意味って何だと思う?」
「生殖本能」
「身も蓋もない!」
読んでいる本から目を離さず友人の問いに答える。返ってきた叫びを無視してページを捲った。
「立派な生物の本能でしょ。生き物の遺伝子はそうやってここまで続いてきたんだから」
「そうだけどさぁ…現実的すぎるよ…」
しくしくと泣きながら友人は机に突っ伏す。項垂れた友人の下にはよれてに皺くちゃになったプリントが1枚あった。表題は【生きるってなぁに?】だ。
「課題は自分の力でやらないと駄目だよ」
「うぅっ…いじわる…」
「補習に付き合ってあげてるだけありがたく思ってほしいな」
「それはありがとう…好き…」
「はいはい」
適当に相槌を打ってまたページを捲る。私が教えてくれないことが分かったのか、友人は渋々といった様子で手を動かし始めた。
「…」
2人だけの教室にシャーペンが走る音が響く。遠くから運動部のかけ声が聞こえた。少しだけ顔を上げて目の前の友人を見る。
ふんわりとした焦げ茶色のくせっ毛。
集中して伏せ目がちの黒い瞳。
白くはないけれど健康的な肌の色。
知らず知らずのうちに本を持つ手に力が入る。お腹の中でぐつぐつと熱いナニカが渦巻いて今にも口から飛び出しそうだ。
「…やっぱり生殖本能よ、生きる意味なんて」
吐き捨てるように言った私にリアリストだなぁと何も知らない君が笑った。
4/28/2023, 9:01:05 AM