狼星

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12/29/2022, 1:52:41 PM

テーマ:みかん #47

※この物語は#20からの続編です

「ラクラくん。君はこの国の王子だね?」
そうサカキさんに言われて一瞬頷こうとした。でもここで頷いたら…。ミデルに自分のことを打ち明けたときのような緊張感が走る。
「はい…」
僕はそう言った。もしかしたら責められるかもしれないと。
「そうか…。やっぱりな……なぁに、そんなに強張った顔をしなくたって大丈夫」
僕を見てクシャっと笑うサカキさんにあぁ、この人は大丈夫だと思った。
「それじゃあ…時期、国王になるラクラくんに1つ、いいことを教えてあげよう」
サカキさんがそう言って、立ち上がると僕の隣に腰を下ろした。
「ミデルは魔法使いたちをまとめることができる子だ。『神の子』と呼んでいるのは、俺だけじゃない。彼女のことは誰でも知っているし、名1つ出せば魔法使いたちは動くだろう」
サカキさんは内緒話をするかのように俺に小さな声で言った。
「これは…ミデルの育ての親として、お願いしたい。これからのあの子の未来を明るくしてほしいんだ。特別何かを望むわけじゃない。今のあの子を『ラクラくんが』守ってほしいんだ」
サカキさんは今にも土下座しそうな姿勢になった。
「サカキさん、落ち着いてください! 僕は彼女を見捨てるなんてこと絶対にしません! 保証します」
僕が慌ててそう言うとポカンという表情で、僕を見つめるサカキさん。かと思えばサッと僕の手を取り
「かたじけない…」
目に涙を浮かべていた。

朝起きると、
ーードンドンドンドン
という足音が近づいてきた。
「ラクラくん!! 大変だ! これを見なさい!」
まだ寝ぼけている僕の目の前に文紙(新聞紙)を見せるサカキさん。僕は眠い目をこすりながらその文紙を受け取る。
「は…?」
僕は飛び込んできた文章に目を疑った。そしてその文紙に載っている写真を見た。
「父上と…母上と…セピア…?」
僕は嫌な予感がした。これが夢なら早くこんな悪夢から抜け出したいと思った。
「サカキさん。ミデルは?」
「今、朝ごはんの支度をしてるけど。そんな暇ないよね…」
僕にそういうサカキさんの顔は青くなっていた。それはそのはずだ。この文紙の表紙にデカデカと書かれている文字。それは『早期の新国王、任命』だった。

「ミデル、ごめん…。もっとゆっくりサカキさんと話したかっただろう?」
「ううん、いいの。元気良さそうな顔見れたから。それよりもラクラ…大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
とは言ったものの正直焦っている。普通の『早期の新国王、任命』だったら、こんなに焦っていない。僕が何を見てそんなに焦っていたかといえば……。
約1年ぶりに王宮内に足を踏み入れると
「結構早かったね。ラック」
聞き慣れた声。
でも僕の名前を呼ぶ声に、いつもは感じない苛立ちを覚えていた。
「セピア! なんでこんなことを!!」
僕が自然をセピアに合わせようと上げたその時、セピアの下に寝たばる2つの影が視線をよぎる。
「ラ、ック…」
「母上、父上……」
そこにはボロボロになった父上と母上の姿。
「ラック。君が出ていかなければこうはならなかったんだよ? というか…そこの女と関わりを持たなければ、僕たちの関係は崩れなかったんだ!!」
キッと後ろにいるミデルを睨めつけるセピアの目は僕の知っている優しい目とは違う、冷たくて鋭い目だった。
「でもね、ラック。君が出ていったあとは別に悪くはない生活だったよ。苦労もしないし、堂々と裏仕事もできる」
僕は奥歯を噛み締めた。セピアは裏社会のオーナー(最高幹部)だったのだ。僕は気づかなかった。ずっと一緒にいたのに。
「君の親は感が鈍いなぁ。全く僕のことを怪しまず僕と君を一緒にいさせたのだから。そして自分たちは痛い目を見る。本当に滑稽だよ」
高らかに笑うセピアはなにかに取り憑かれたようだった。でもいつも僕が見ていた、一緒にいたセピアが本当のセピアだったのかはわからない。これが本当のセピアなのかもしれない。
「何が目的だ」
「おぉっと、そんな怖い顔しないでよ、ラック。これでも1年前くらいはずっと一緒にいた仲でしょう?」
今のセピアには僕の言葉は届かないだろう、そう感じた。だから…
「ごめん、セピア。少し大人しくしてて」
僕はセピアに手をかざす。
「ちょっと、ちょっと〜。聞いてないよ? 君まで魔法を使えるようになっているなんて」
ニヤリと笑うセピアは信じられない行動を起こした。
「僕に攻撃したいんだろうけど、それは無理。だって被害に合うのは『実の親』だよ〜?」
セピアは僕の両親を盾にし、肉壁をつくっていた。
「あ、そっちも大丈夫そう?」
僕の後ろに声をかけるセピア。僕は嫌な予感がして振り向くとそこには捕らえらているミデル。そして、見覚えのある顔ぶれと知らないゴツい男たち。やはりアイツ等もセピアの手下か…!
「あ~ぁ。どうするラック。大切な人み~んな僕に捕まっちゃった」
楽しそうにしているセピア。僕はふぅ〜と深く息を吐く。
「諦める? 諦める?」
セピアの挑発には乗りたくないが、ここまでされたら流石に俺だって怒るぜ?
「悪ぃな、セピア。俺の逆鱗に触れちまった。手加減できねぇから覚悟しとけ。そんで、お前らも喧嘩を売っちゃいけねぇ奴に売っちまったなぁ~」
僕は後ろにいるセピアの下っ端達にニヤリと笑った。
その後、記憶が飛ぶ。記憶が飛ぶ前、後ろの方でも魔力が膨らむ感覚がした。

「ケホッ、ケホッ…」
流石に魔力を多く使いすぎたか。僕は咳き込む。自我は保っていられないし。やっぱり慣れないことはするもんじゃないなぁ…と感じる。
「ラクラ!!」
そう言って、近づく気配を感じる。ラクラなんて呼ぶのはミデルだけだ。少しだけソレと話してくるか。
僕は意識をもう一度、現実から外した。

『なんで来たんだよ』
ソレは言った。いつものように背中を丸めソレは後ろを向いている。
「今回は、僕のために頑張ってくれたから」
『ケッ。だから人間はキレーなんだよ』
ソレは言葉を投げるように言った。
「ありがとな」
僕がそう言うとソレは少しの間、黙っていた。
『お礼を言われる筋合いはねぇ。俺は悪魔だからなぁ』
ケケケッと笑うソレ…悪魔は、こっちを向かない。
「悪魔か」
『なんだ? 気づいてなかったのかよ』
「いや、なんとなく予想はしていた。でも悪魔としたら随分お人好しな悪魔だなぁ」
僕がそう言うと悪魔は、ケケケッと笑うのをやめ
『なんとでもいいやがれ』
ぶっきらぼうに言った。照れ隠しなんじゃないかって思う。でもあんまりいじめないでおこうと思った。
『はやくいけよ。俺との話なんかいつでもできる』
「あぁ…ありがとう」
そう言って意識を現実に戻そうとしたとき、悪魔が振り返った。その顔は僕と瓜二つの顔だった。

「あ! 起きた!!」
1番最初に見えたのはミデルの顔だった。
「流石、ヒーリング能力を持っているだけあるな」
ミデルの顔や手に目立った外傷はなし。
「違うよ、ラクラ。これはラクラが治してくれたんだよ? ラクラの両親も」
僕は口をぽかんと開けた。
「ラック!!」
部屋に飛び込んできて僕を抱きしめたのは母上だった。ミデルがいるのに恥ずかしい…。
「無事で良かった」
そう言ったのはいつもの服を身に纏う父上だった。
帰ってきたのだ、そう実感すると温かいものが頬を伝うのを感じる。それは涙だった。ふと、王宮の中に育てられているみかんの香りを風が運び、僕の鼻をくすぐる。
「ただいま」
僕は母に抱かれたまま言った。

12/28/2022, 2:15:54 PM

テーマ:冬休み #46

※この物語は#20からの続編です

サカキさんに着いていくと小さな家にたどり着く。
「中に入って」
サカキさんがドアを開け、手招きする。僕はサカキさんに言われるまま中に入る。
「いや~…。またミデルちゃんに会えるとは思えなかったよ……」
サカキさんはふぅ…と息を吐き、座布団の上に座る。
「私も、会えると思ってなかった」
「それに、素敵なボーイフレンドまで連れてきちゃって…」
サカキさんは僕の方を見て言う。僕は気まずくなって顔を背けた。
「あ、ラクラ。サカキさんは私の師匠なの」
ミデルがそう言うと
「いやいや、師匠だなんてとんでもない。隣りに住んでたジジイだよ」
サカキさんは笑った。ミデルはそんなサカキさんに頬を膨らませ
「違うもん! まぁ、師匠兼、育ての親みたいな感じだけど!」
そんな会話を聞いていると本当に仲がいいんだな、と感じる。
「ミデルちゃんは魔法の覚えが早くてねぇ…。さすが『神の子』と呼ばれていただけあるなぁとは思ったよ」「ちょっ! サカキさん!!」
「『神の子』?」
ミデルと僕の声が重なる。
「ラクラくんは、知らない? ミデルちゃんが『神の子』って呼ばれていること」
僕は首を振った。ミデルの顔は赤くなりその顔は下を向いていた。
「ミデルちゃんはね、黄緑色の瞳を持つ魔法使いの中でも特殊な種族ってことは、ラクラくんも知っているだろう?」
僕は首を大きく縦に振る。
「その中でもミデルちゃんは、魔法を操ることが誰よりも上手だった。皆、ミデルちゃんのことを『神の子』と呼んでいたんだ。幼い頃からあんなにも上級な魔法を操ることができるなんて、本当に『神の子』と呼ばれるだけある」
サカキさんはウンウンと大きく頷いていた。知らなかった。ミデルが『神の子』と呼ばれていたなんて。
「でも…。そんなミデルちゃんを、よく見ないやつもいた。皮肉に思う。自分がミデルちゃんよりもできないからってなぁ…。全く、自己中心的な考えをするのにも程度ってもんがあるだろう…」
ミデルは俯いていた。何を思っているのか全く読めなかったが、あまり良くないことを考えている気がした。
「ただな、ミデルちゃんはやっぱり強いぞ。何を言われても平気な顔をして、人の倍働いて…。頑張ったよなぁ…」
サカキさんはしわしわな目をクシャッとして言った。
「こんな世の中じゃ無けりゃ…もっと、ミデルちゃんのことを高く評価してくれた人は大勢いるだろうに…」
サカキさんはそう言って目をつぶった。

「今日はここに泊まっていくといいさ」
僕たちはサカキさんにここに来た経緯を簡単に説明すると快くそう言ってくれた。もちろん、僕の正体は隠したままだ。僕が風呂から上がると、ミデルはもう寝ていた。
僕がリビングの真ん中にある囲炉裏の前に座っていると
「なんだ、眠れねぇのか?」
そう言ってサカキさんが向かいに腰を下ろした。
パチパチと音を立てて火花を散らす囲炉裏をはさみ、サカキさんと2人きり。なにか話題を…と思いながら囲炉裏を見つめる。
「ミデルは」
話を切り出したのはサカキさんだった。さっきのようにミデルのことを『ミデルちゃん』と呼ばなかったのでドキッとした。
「ミデルは、元気にやっているのか」
サカキさんの視線はさっきの僕と同じように囲炉裏を見つめていた。
「はい」
僕は短く返事をした。なにか話題を広げるべきだっただろうか…と考えていると
「そうか、それなら。良かった」
サカキさんは、言った。目を伏せるとポツリ、ポツリと話し始めた。
「ミデルの親は、温厚な夫婦だったんだ。…ミデルが生まれる前までは。
でも、ミデルが生まれてから変わっちまった。『私達の子じゃない』と手を上げたり。酒を飲み癇癪を起こしたり。狂っちまった。彼女の黄緑色の瞳のせいと言っちまったら、そうなるんだが…。生まれ持ったものを変えられるわけでもない。
親だけじゃなく、同級生や学校の生徒たちからも嫌われていたらしい。まだ、外で一緒に魔法の使えない人と生活していたときは、更にきつかっただろう。魔法使いの間ではもちろん。魔法使いを嫌う人たちの間でなんてしょっちゅう標的にされてしまったりしただろうよ」
ミデルが『この王国が変わってしまったのは、魔法使いだけのせいじゃない』みたいなことを言っていたことを思い出した。
魔法使いが普通の人間を嫌ったのではなく、普通の人間たちが魔法使いを嫌った。だから、この王国は変わってしまった。それが、ミデルが、言いたかったことなんじゃないか。そう感じた。
「ミデルはこの地下牢に来たときも笑顔を絶やさなかった。でも俺の感じたその時のミデルの感情は…『何をやっても楽しくない』だった。
表面上は楽しそうに笑う少女。でも内面は違う。そんなこと気づかない人はいない気がした。でも魔法使いたちは自分たちの生活が辛くて辛くて、その内面の顔に気付かないふりをしていた。俺もその中の1人って言ったらそうなんだけどな」
サカキさんは、深くため息をついた。そのため息は静かになった部屋の中に響き渡る。そして
ーーパチンッ
火種が弾ける音がした。
「そんなミデルの親が死んだとき、ミデルは引き取り手がいなくなった。まだミデルが、17…いや16のときか?」
今の僕くらいのときにミデルの親は死んだ。そう思うと自分は悲しみに耐えられないんじゃないかと思えてくる。
「その時、俺がミデルを引き取ったんだ。というか…頼まれてな。ミデルに」
ミデルの寝ている寝室の方に目線を向けるサカキさん。
「労働ばかりの毎日。弱音も吐けなかっただろうな…」
サカキさんの目に光るものが見えた。
「ミデルがここを出て外に行きたいと言っても、俺には止めることはできなかった。それどころか、外に行って辛い思いをしないのならそれでもいいと思ってしまった。ここにいても労働ばかり。若いミデルは、もっと色んな場所へ行って、いろんなものを見るべきなんだ。俺が若い頃、自由にさせてもらったように、な」
ふうっと一息つくサカキさんを見た。
「ミデルにそんな過去があったなんて知りませんでした。でも…。どうしてそれを僕に言おうと? 僕たちはさっき会った、赤の他人ですよ」
ちょっと言い方が冷たかったかもしれない。でも言いたいことはどう言っても同じだ。
「そりゃあ…」
サカキさんはすぐに言った。
「ラクラくんと一緒にいたミデルが、幸せそうだったから。楽しそうだったから。そんな君のことを信頼しているから、かな」
優しい笑顔を浮かべるサカキさん。どこまでもミデルのことを考えている気がした。
「もうすぐで地下牢にも冬休みが来る。そうは言っても年末年始だけだけどな」
急に話題を変えたサカキさん。
「俺も早く外の世界へ行きたいなぁ」
そう言って、囲炉裏をまた見つめた。

ーーパチンッ
また、火種が弾けた。

12/27/2022, 2:19:04 PM

テーマ:手ぶくろ #45

※この物語は#20からの続編です

昨日に引き続き、ミデルの貸してくれた手ぶくろがとても温かい。
「なんかラクラ、ニヤニヤしてる?」
「してない!」
変な勘違いをされたかも知れない…。でも寒い中、暖を取れるとなると自然に頬が緩んでいたのかも知れない。
「ミデルは、寒くない? 片方貸してくれているけど…

「私は平気!」
元気よく言ったミデルに頷いた。寒かったら魔法でどうにかするか…とも思った。
「それにしても長い道のりだね」
僕がそう言うとミデルは、静かに頷いた。

「もうすぐ入り口」
そう言うミデルの体は、凍りついたようにカチコチになっていた。僕はそんなミデルの肩に触れる。
一瞬ビクッと肩を上げたミデルが振り返る。
「ミデル」
僕がそう呼ぶとミデルの手を僕は包み込む。
「大丈夫。僕もいるし、怖くなったら逃げ出してもいい」
僕がそう言うとミデルは何も言わずに僕を見て頷いた。
「地下牢はこの扉の向こう。ここ以外に出口はない」
ミデルの視線の方向には大きな扉があった。扉の前には2人の警備員がいた。ミデルがその警備員に近づいていく。僕もそれについて行った。
「何者だ」
警備員の1人が僕たちに言うが、ミデルも僕も答えない。
「おい、止まれ」
やりを突き出されたかと思ったが、次の瞬間
「うわっ!」
「何だ!?」
宙に浮いた。
「ごめんね、少しの間だけだから。見逃してね」
ミデルがそういったかと思うと宙に浮く警備員たちの額を触り
「"睡眠魔法"」
小さく呟いた。たちまち警備員たちの頭はガクッと下がり、熟睡してしまっていた。
「すご…」
僕が口を開けて呆然としていると
「それほどでも〜」
少し照れてミデルが言った。

大きな扉を開けるとそこには街が広がっていた。地下牢と入っても完全に隔離されているわけではないらしい。ある一定の場所。すなわちこの扉の内側で生活や労働をされているらしい。
「ラクラ、こっち」
そう言って手招きするミデルは、物陰にいち早く隠れていた。扉の前にいた警備員と同じ服装をした者たちがが集まってくる。
「あれがこの地下牢の管理人たちと裏の社会のこわーい人たち」
ミデルは、ジィっと彼らを見つめていた。ミデルも彼らに酷いことをされてきた被害者である。だからこそ詳しいのだろう。
「ありゃ? ミデルちゃんかい?」
急に後ろから声をかけられ2人同時に肩を上げる。
「サカキさん! お体の方はもう大丈夫なんですか!?」
どうやらミデルの知り合いらしい。
「やっぱり、ミデルちゃんだ。こんなべっぴん見間違える訳がないもんなぁ〜」
ニコニコと笑うサカキさんと呼ばれる人はもう70歳くらいに見える。
「んで…。そこの隣りにいるのは…?」
「あ、ラクラ・クームです」
「こちらお友達のラクラ。こっちはサカキさん」
僕は頭を下げるとサカキさんも頭を下げる。
「それにしても…ミデルちゃん。どうして戻ってきたんだい。外の世界に戻れたはずだろう?」
「それが…」
ミデルが話そうとしたとき
ーーカーンカーンカーンカーン
けたたましい音が当たりに響き渡る。
『侵入者が入ったようだ。見かけんヤツがいたら、すぐに管理にいうように』
放送も入った。
「あぁ…どうしよう。このままだと…」
「ミデルちゃん、ラクラくん。私の家へ来なさい。外にいるより安全だろう」
「でも…バレたら…」
サカキさんは首を横に振る。
「大丈夫。伊達にこの年になるまで生きていたわけじゃないさ」
僕ら2人は裏道のようなところを通っていくサカキさんに着いていった。

12/26/2022, 2:45:12 PM

テーマ:変わらないものはない #44

※この物語は#20からの続編です

クリスマスが終わると一気に年末年始に向けた飾りが市場を彩る。
「みんな忙しそう」
そう呟くミデルは、顔をローブで隠しているが周りは見えているようだ。ミデルは、視覚を色々な場所へ動かすことができるらしい。すべての場所にできるわけではなく、自分の魔力が宿るものにならと言っていたが、すごく便利だ。
人にぶつかりそうになるときも、サッと避けるし。
なにかものを買うときだってローブをしたままだ。
それに、遠距離視覚というものもあるらしい。千里眼に似たようなものらしい。
長時間にわたり魔法を使っていると疲れないのか、そう聞くと少し間を開け、私はこの魔法とずっと付き合ってきたからなぁ…。そう答えていた。僕は聞いてからの間が空いていた理由を察した。

「今日から地下牢への入り口へ行かない?」
そう提案されたのは今日の朝だった。
「でも…。ミデルは…」
「平気だよ。私だって行く勇気がなかっただけだし。まぁ、あの生活には絶対に戻りたくないけどね」
ミデルは平然と言ってるように見せていたけど、手は震えていた。本当は怖いのに、つらいのに行くという覚悟をミデルは決めたのかもしれない。
ここで断ってはいけない気がした。
「うん、わかった。ありがとう。ミデル」
僕が言うとミデルはコクリと頷いた。

それから今に至る。
ミデルによればここから数十時間かかるらしく、朝支度をしてからもうずっと歩き続けている。
まだ冬の寒さが抜けたわけじゃない。だから手や顔など皮膚が出ている場所は冷たくなる。
途中で温かい飲み物を買ったりもしているが、寒いに越したことはない。僕が冷たくなった手に息を吹くと
「寒い?」
そう聞かれた。
「まぁ…それなりに?」
答えるとミデルは右の手袋を差し出す。
「え…いいの?」
僕が聞くと頷くミデル。
「それ着けたら、魔法で温かくする」
ミデルは小さな声で言った。人通りが多く、聞こえづらいはずの声だが、耳元からしてびっくりした。
僕の反応を見てクスクスと笑うミデル。
わざとだ。わざと僕の耳の近くに魔法を発動させて囁いたんだ。
「全く。いたずらしないでもらえます?」
「すんません」
今度は囁きではなくミデルが言った。
ミデルの時々されるいたずらにドキドキさせられる。
でも今回は大目に見てあげようと思う。
これから行く地下牢は、ミデルの辛い過去がある場所。
過去は変わるものではないから。


※♡500ありがとうございます(^^)
 応援してくださっている方本当に感謝です。
 これからこの物語はどう動いていくのか楽しみにしてもらえると幸いです。
 この物語が終わったら、また短編小説を書いていきたいと思っています。
 これからも狼星の物語を暖かく見守ってくれると嬉しいです。        ではまた。

12/25/2022, 2:26:39 PM

テーマ:クリスマスの過ごし方 #43

※この物語は#20からの続編です

「クリスマスは、豪勢な食べ物でも作ろうか」
そう昨日の夜提案すると、ミデルは目をキラキラさせていた。その姿は無邪気な子供のようですごく可愛かった。
僕たちは材料を買い、宿泊しているホテルを変えた。そのホテルにはほぼマンションと変わらないような一部屋が用意されていた。キッチンがあって、リビングがあって、寝室があって、洗面所があって…という感じだ。
一般の人から見たら、この部屋に何も思わないだろう。しかし、『普通の暮らし』を求めていた僕たちからするとその部屋は輝かしいものだった。
「凄い!! 見て見て!! ラクラ! キッチンだよ!!」
目を輝かせているミデルに僕も自然と笑顔になった。僕らは一通り部屋を見終わると早速準備に取りかかった。
料理担当は主に僕。飾り付け担当は主にミデルが行った。ミデルは今回、魔法を使わず普通に人間たちがやってるように飾り付けをしてみたいと言った。もちろん材料はミデルが魔法で出したのだが…。飾り付けは自分で考えてつけていた。
僕はサラダ、ローストチキン、グラタン、そしてこの国のクリスマスといえば、という特別な料理を作っていると
「飾り付け、終わったぞー」
そう言ったミデルが、僕の方へと近づく。僕が料理をしていると
「私もやりたい!」
腕まくりしながら言った。
「うーん…じゃあ。盛り付けを頼もうかな」
僕はサラダのため用意された、きゅうりやレタス、トマトを差し出すと喜んで作業に取りかかるミデル。

「よし、完成!」
「何だ? これは」
そう言って、じっと見つめる先には僕が作った力作の料理があった。
「これは、ラクラ特製フープ」
「フープ?」
「フープはクリスマスに食べる食べ物でね、この国の特別な料理なんだ。小籠包や、シュウマイに似ているけど中に入っているのは、ランダム。何が入っているかはお楽しみだよ〜」
僕がそう言って笑うと、ミデルはフープを見つめた。
「早く食べたい! 今すぐ!!」
僕の腕を引っ張るミデルに笑って、
「そうだね、少し早いけど食べよっか」
そう答える。

「見て! 私のフープ、チーズが入ってた!」
「僕のはソーセージ!」
楽しくフープを食べ終わると時間はあっという間に過ぎていった。
「あ~、美味しかった〜」
ミデルは満面の笑みを浮かべていった。
「ミデル。まだあるよ」
そう言って立ち上がると、冷蔵庫からケーキを取り出してきた。
「二人分だから小さいカップケーキみたいなものだけど作ってみた」
そう言って差し出すと
「わぁ…。かわいい…」
そう言って目を輝かせる。そしてカップケーキを一口パクリと食べると
「幸せ〜」
そう呟く。僕もこんな嬉しそうに料理を食べてもらうと良かったと思った。
これが僕らのクリスマスの過ごし方だ。

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