狼星

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テーマ:みかん #47

※この物語は#20からの続編です

「ラクラくん。君はこの国の王子だね?」
そうサカキさんに言われて一瞬頷こうとした。でもここで頷いたら…。ミデルに自分のことを打ち明けたときのような緊張感が走る。
「はい…」
僕はそう言った。もしかしたら責められるかもしれないと。
「そうか…。やっぱりな……なぁに、そんなに強張った顔をしなくたって大丈夫」
僕を見てクシャっと笑うサカキさんにあぁ、この人は大丈夫だと思った。
「それじゃあ…時期、国王になるラクラくんに1つ、いいことを教えてあげよう」
サカキさんがそう言って、立ち上がると僕の隣に腰を下ろした。
「ミデルは魔法使いたちをまとめることができる子だ。『神の子』と呼んでいるのは、俺だけじゃない。彼女のことは誰でも知っているし、名1つ出せば魔法使いたちは動くだろう」
サカキさんは内緒話をするかのように俺に小さな声で言った。
「これは…ミデルの育ての親として、お願いしたい。これからのあの子の未来を明るくしてほしいんだ。特別何かを望むわけじゃない。今のあの子を『ラクラくんが』守ってほしいんだ」
サカキさんは今にも土下座しそうな姿勢になった。
「サカキさん、落ち着いてください! 僕は彼女を見捨てるなんてこと絶対にしません! 保証します」
僕が慌ててそう言うとポカンという表情で、僕を見つめるサカキさん。かと思えばサッと僕の手を取り
「かたじけない…」
目に涙を浮かべていた。

朝起きると、
ーードンドンドンドン
という足音が近づいてきた。
「ラクラくん!! 大変だ! これを見なさい!」
まだ寝ぼけている僕の目の前に文紙(新聞紙)を見せるサカキさん。僕は眠い目をこすりながらその文紙を受け取る。
「は…?」
僕は飛び込んできた文章に目を疑った。そしてその文紙に載っている写真を見た。
「父上と…母上と…セピア…?」
僕は嫌な予感がした。これが夢なら早くこんな悪夢から抜け出したいと思った。
「サカキさん。ミデルは?」
「今、朝ごはんの支度をしてるけど。そんな暇ないよね…」
僕にそういうサカキさんの顔は青くなっていた。それはそのはずだ。この文紙の表紙にデカデカと書かれている文字。それは『早期の新国王、任命』だった。

「ミデル、ごめん…。もっとゆっくりサカキさんと話したかっただろう?」
「ううん、いいの。元気良さそうな顔見れたから。それよりもラクラ…大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
とは言ったものの正直焦っている。普通の『早期の新国王、任命』だったら、こんなに焦っていない。僕が何を見てそんなに焦っていたかといえば……。
約1年ぶりに王宮内に足を踏み入れると
「結構早かったね。ラック」
聞き慣れた声。
でも僕の名前を呼ぶ声に、いつもは感じない苛立ちを覚えていた。
「セピア! なんでこんなことを!!」
僕が自然をセピアに合わせようと上げたその時、セピアの下に寝たばる2つの影が視線をよぎる。
「ラ、ック…」
「母上、父上……」
そこにはボロボロになった父上と母上の姿。
「ラック。君が出ていかなければこうはならなかったんだよ? というか…そこの女と関わりを持たなければ、僕たちの関係は崩れなかったんだ!!」
キッと後ろにいるミデルを睨めつけるセピアの目は僕の知っている優しい目とは違う、冷たくて鋭い目だった。
「でもね、ラック。君が出ていったあとは別に悪くはない生活だったよ。苦労もしないし、堂々と裏仕事もできる」
僕は奥歯を噛み締めた。セピアは裏社会のオーナー(最高幹部)だったのだ。僕は気づかなかった。ずっと一緒にいたのに。
「君の親は感が鈍いなぁ。全く僕のことを怪しまず僕と君を一緒にいさせたのだから。そして自分たちは痛い目を見る。本当に滑稽だよ」
高らかに笑うセピアはなにかに取り憑かれたようだった。でもいつも僕が見ていた、一緒にいたセピアが本当のセピアだったのかはわからない。これが本当のセピアなのかもしれない。
「何が目的だ」
「おぉっと、そんな怖い顔しないでよ、ラック。これでも1年前くらいはずっと一緒にいた仲でしょう?」
今のセピアには僕の言葉は届かないだろう、そう感じた。だから…
「ごめん、セピア。少し大人しくしてて」
僕はセピアに手をかざす。
「ちょっと、ちょっと〜。聞いてないよ? 君まで魔法を使えるようになっているなんて」
ニヤリと笑うセピアは信じられない行動を起こした。
「僕に攻撃したいんだろうけど、それは無理。だって被害に合うのは『実の親』だよ〜?」
セピアは僕の両親を盾にし、肉壁をつくっていた。
「あ、そっちも大丈夫そう?」
僕の後ろに声をかけるセピア。僕は嫌な予感がして振り向くとそこには捕らえらているミデル。そして、見覚えのある顔ぶれと知らないゴツい男たち。やはりアイツ等もセピアの手下か…!
「あ~ぁ。どうするラック。大切な人み~んな僕に捕まっちゃった」
楽しそうにしているセピア。僕はふぅ〜と深く息を吐く。
「諦める? 諦める?」
セピアの挑発には乗りたくないが、ここまでされたら流石に俺だって怒るぜ?
「悪ぃな、セピア。俺の逆鱗に触れちまった。手加減できねぇから覚悟しとけ。そんで、お前らも喧嘩を売っちゃいけねぇ奴に売っちまったなぁ~」
僕は後ろにいるセピアの下っ端達にニヤリと笑った。
その後、記憶が飛ぶ。記憶が飛ぶ前、後ろの方でも魔力が膨らむ感覚がした。

「ケホッ、ケホッ…」
流石に魔力を多く使いすぎたか。僕は咳き込む。自我は保っていられないし。やっぱり慣れないことはするもんじゃないなぁ…と感じる。
「ラクラ!!」
そう言って、近づく気配を感じる。ラクラなんて呼ぶのはミデルだけだ。少しだけソレと話してくるか。
僕は意識をもう一度、現実から外した。

『なんで来たんだよ』
ソレは言った。いつものように背中を丸めソレは後ろを向いている。
「今回は、僕のために頑張ってくれたから」
『ケッ。だから人間はキレーなんだよ』
ソレは言葉を投げるように言った。
「ありがとな」
僕がそう言うとソレは少しの間、黙っていた。
『お礼を言われる筋合いはねぇ。俺は悪魔だからなぁ』
ケケケッと笑うソレ…悪魔は、こっちを向かない。
「悪魔か」
『なんだ? 気づいてなかったのかよ』
「いや、なんとなく予想はしていた。でも悪魔としたら随分お人好しな悪魔だなぁ」
僕がそう言うと悪魔は、ケケケッと笑うのをやめ
『なんとでもいいやがれ』
ぶっきらぼうに言った。照れ隠しなんじゃないかって思う。でもあんまりいじめないでおこうと思った。
『はやくいけよ。俺との話なんかいつでもできる』
「あぁ…ありがとう」
そう言って意識を現実に戻そうとしたとき、悪魔が振り返った。その顔は僕と瓜二つの顔だった。

「あ! 起きた!!」
1番最初に見えたのはミデルの顔だった。
「流石、ヒーリング能力を持っているだけあるな」
ミデルの顔や手に目立った外傷はなし。
「違うよ、ラクラ。これはラクラが治してくれたんだよ? ラクラの両親も」
僕は口をぽかんと開けた。
「ラック!!」
部屋に飛び込んできて僕を抱きしめたのは母上だった。ミデルがいるのに恥ずかしい…。
「無事で良かった」
そう言ったのはいつもの服を身に纏う父上だった。
帰ってきたのだ、そう実感すると温かいものが頬を伝うのを感じる。それは涙だった。ふと、王宮の中に育てられているみかんの香りを風が運び、僕の鼻をくすぐる。
「ただいま」
僕は母に抱かれたまま言った。

12/29/2022, 1:52:41 PM