狼星

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12/24/2022, 3:04:14 PM

テーマ:イブの夜 #42

※この物語は#20からの続編です

「何年か前のクリスマスのイブ…つまり、今日と同じ24日の夜。王宮に何者かが侵入したらしいんだ」
僕はミデルが捕まった次の日の夜、泊まったホテルの部屋で話した。過去の僕の身に起きたことを…。
「僕もあんまり覚えていないことなんだけど、長身の男が僕のそばに来てナニカをしたらしい。そのナニカはすぐにはわからなかったし、僕の身体に何処か異常なところもなかったため、その事件はあまり大事になっていないらしいんだけど…」
僕はその日のことを本当に覚えていなかった。しかし、その日近くのことだ。僕の中にソレがいると自覚し始めたのは。
「その日から僕は、体に違和感を感じていた。時々なにかに取り憑かれているかのような感覚になったり、記憶が飛んでいたりするんだ。最近ではそれにも制御ができるようにはなっていたんだけど、やっぱり……」
僕は自分の手を見つめた。完全に制御はできていない。
「それって、昨日みたいになることが過去にもあった、ってこと?」
「いや、昨日みたいにソレが堂々と出てくることは今までになかった。だから、正直僕もよく理解できていないんだ」
僕はミデルをみた。昨日は必死にミデルを助けたいと思ったのと、男たちに対する怒りが抑えきれなかったからと言うのもあったかもしれない。
「離脱した魂を取り付ける魔法とかかな……」
ミデルはそうポツリと呟く。
「そんな恐ろしいことができるの?」
「そりゃあ…簡単なことじゃないけどさ。本で書いてあるのを見たことがある気がする。使い魔とか眷属とかそういう感じではなさそうだし、私も昨日まで気が付かなかったし、かなり強力な悪意を持ったものではなさそう……」
ミデルが何やら難しい言葉を並べ始めわからなくなっていった。
「あ、ごめんごめん。普通に自分の世界に入り込んじゃってた」
そう笑うミデルが昨日よりも元気を取り戻したようで安心した。僕は昨日の騒動後、改めてクリスマスプレゼントを受け取ることにした。今なら大丈夫かも…。
そう思い、ポケットに手を入れると
「ミデル」
そう彼女の名前を呼ぶ。ミデルはキョトンとした目でこちらを見る。
「これ、僕からのクリスマスプレゼント。人にプレゼントをあまり上げたことがないから分からなくて…。こんなものでごめん」
そう言って差し出したのはローブを止めるピンだった。いつも前が空いていて寒そうだったからどうかなと思い、購入したものだ。ミデルの瞳のように黄緑に輝く石が中央にはめられている。
「すごい綺麗…。そして…わたしたち気が合うね」
そう言って、差し出されたのは昨日渡そうとしてくれた包装された箱。中身は同じくローブを止めるピンだった。ミデルがプレゼントしてくれたものには水色の輝く石が中央にはめられている。
「ありがとう。ミデル」
僕が大事にそう言って、胸に抱えると同じようにミデルも言った。
「こちらこそ、ありがとう。ラクラ」

12/23/2022, 1:31:22 PM

テーマ:プレゼント #41

※この物語は#20からの続編です

朝起きると、あるはずの影はなかった。
僕は嫌な予感がして起き上がる。
「ミデル?」
彼女のことを呼ぶ声が震える。
「ミデル!」
返事はなく、ただ静かな寒い部屋に僕の声だけが響く。
あの男は…? 僕は飛び起きると戸を開く。
いない、いない、いない、いない!!!
僕は次々に部屋を見ていく、僕は余裕がなくなっていたからか、乱暴に戸を開けていった。
どの部屋にもいないことを確認すると、絶望した。
「なんで、なんでだ…」
僕は乱暴に頭を掻きむしる。これからなのに。これから、僕たちは行動する、一緒に新しい国を……。
そう思ったとき、部屋の机に一枚の紙切れを見つけた。
僕はそれに目を通す。そして、その紙切れを取ると怒りをあらわにして、ローブを取りこの家を飛び出した。
『魔法使いの娘といるとは、いい気味だな王子。娘は預かった。返して欲しくば……』
僕の個人的な恨みを持ったやつの犯行にしか見えない。
僕の中で怒りがフツフツと燃えているのを感じた。
彼女になにかしたら、ただじゃおかない。そう思いながら。
こんなに怒りを覚えたのは初めてだった。

「やっと来たか、王子サマ」
暗い路地の中、男の影を見てそのまま男に突っ込もうとする。
「おいおい、ストップストップ〜」
そこにはその男以外にも2名、男がいた。
「危ないぜ? 王子サマ。怪我したくなかったらそのままストップだ」
僕が構わず進もうとする。
「ゔゔ!!」
その時なにかの唸り声が聞こえた。僕はその声の方を見た。見た瞬間、カッと体が熱くなった。
「魔法使いの娘は、管理するのが難しかったんだからな?」
そこにはタオルを咥えさせられたミデルがいた。その口の端は切れてた。服もズタズタになっている。
「魔法使いの娘のことがそんなに大切か?」
男は僕に言った。僕は何も言わなかった。
それよりも僕は…。
「なんか、答えろよ!!!」
男は振り上げた手を俺ではなく、ミデルへと落とそうとした。
「やめろ!!」
俺が叫ぶと空気がビリビリビリっと震えた。
「お、おい!」
ドサッと音がして後ろの方で男が騒ぐ。
「な、何だ!!」
その時、ミデルを持っている男の手が緩んだのを俺は見逃さなかった。
「アダダダダダッ!!」
「余裕の素振りはどうした。男よぉ?」
俺はなにかに取り憑かれたかのように低い声で話していた。それも凄い力で男の手を握っている。
「この腕一本くらい、折れるかもしれねぇな」
俺は笑った。何故かすごく楽しい。怒りを通り越して、おかしくなってしまったのかも知れない。
「やめっ!!」
「は? お前、腕の一本くらい安いだろ。俺の大事な人傷つけたの自覚してない?」
怒り、恨み。色んな感情が爆発していた。いつの間にか背後に回っていたらしい、もう一人の男。
手には鉄パイプか? まぁ、そんなの関係ないか。
逃げればよかったのになぁ?

気がつくと僕は横になっていた。
「お前さ、僕の中で何してるの?」
僕は背中を向けている、ソレに話しかけた。
「ずっといるよね、君」
僕は話しかけ続ける。するとそれは振り向く。
「俺か? そうだな…。まぁ、悪いことはしてない。それよりも早く行ってやったほうがいいんじゃね?」
そう言うとソレは指を鳴らした。

「ーラ、ラクラ!!」
僕は声を聞いてすぐにミデルだとわかった。その影に僕は抱きついた。
「ごめん……。ごめんな」
僕は彼女を強く抱きしめた。彼女は震えていた。怖がらせてしまった。ごめん…。

「ラクラ、もう大丈夫だから」
ミデルはそう言って僕から離れようとする。
「駄目、まだ」
僕はそのまま抱きしめていた。
「あのね、ラクラ。私…」
そう言ってゴソゴソとローブのポケットを漁ってから、何かを出す。
「これ、クリスマスプレゼント」
そう言う彼女の口には赤い血が滲んでいた。
治してあげたかった。そう強く願いながら彼女の口に触れる。
「ラ、ラクラ?」
ミデルは、そう言いながらキョトンとしている。その時、すうっと切れていた口が治った。僕は目を大きくしてそれを見た。
「ラクラ、あなた…」
治った口に手を当てたミデルはそう言って、僕を見た。
クリスマスプレゼントは、ミデルの手から落ちていた。

12/22/2022, 1:54:32 PM

テーマ:ゆずの香り #40

※この物語は#20からの続編です

「ミデルは、これからどうしたい?」
僕は話し終わった彼女に問う。
「僕はもっとこの国のことを知るために、その……」
「『地下牢に行きたい』でしょ」
僕の心の内を読むように言ったミデルは、目を閉じた。
「ラクラ、気を遣わなくていいんだよ」
ミデルは、目を開けた。
「過去を知ったからって、今不幸なわけじゃない。私は今幸せだし、自分のしてきた選択に後悔はない。だからそれでラクラの選択肢を狭めたくない。私のことはあまり考えないでほしい。ラクラはやりたいことやって、知りたいこと知るべきだって私は思う」
ミデルは、真剣な眼差しを向けていた。
なんて情けないんだろう。ミデルを見て僕はそう思った。王宮にいたときのあの天真爛漫な僕はどこへおいてきてしまったのだろう。
何も考えずに突っ走る。そうやってきたじゃないか。
ミデルと会えたのだって、元はと言えば僕の自由な行動のせい…いや、おかげなのだから。
「ごめん、そうだよな。僕はこの国を変えるんだ。みんなが笑顔で暮らせる、自由で平等な国に!!」
僕がそう言うとミデルは微笑んだ。

「兄ちゃんたち、旅してんのかい?」
僕たちは帰る途中、小屋の住民の男に声をかけられた。もちろん僕たちはローブを深く被り、ミデルもいつも通りの黒い手袋をしていた。
「よかったら泊まっていく? もう日が暮れちまうよ」
僕は戸惑った。知らない人の家になんて泊まったことがない。ミデルを見ると彼女は最初は無反応だったが、頷いた。
「じゃあ、一晩だけ泊まらせてください」
僕がそう言うと男は頷いた。そしてすきっ歯を見せて笑った。

「お風呂まで入らせてくれてよかったな」
僕は部屋に入ると、寝巻き用のローブに身を包むミデルに言った。
「ゆ、」
「ゆ?」
何故かわなわなと肩を震わせているミデル。
「ゆ、ゆずが浮いていたぞ」
僕はミデルの言葉に頷いた。
「ゆず風呂なんて聞いたことが僕もない」
僕も知らないというとミデルはキョトンとした目で僕を見る。
「ラクラでも知らないことがあるのか」
「当たり前だよ。僕よりも知識がある人はたくさんいるよ?」
僕がハハハッと笑いながら言うと
「ゆずを風呂に浮かべるのは、今日が冬至だからだよ」
話を聞いていたのか、男が部屋に入ってくるなり言った。
「とうじ?」
「冬至はな? 夜が一番長い日のことを言うんだよ、お嬢ちゃん」
男はミデルに近づき言った。ミデルはひぅ、という変な声を上げ、僕の側に寄った。
「温まれたかい?」
男は僕に目を向けるとニィっと笑った。
「はい、ありがとうございました」
僕がお礼を言うと男は急に僕の顔をまじまじと見て
「おや、兄ちゃんの顔。どっかで見たことあるような…」
そう呟いた。僕の温まった体から冷や汗が出てくる。
「そうですか? まぁ、どこにでもいるような顔ですし…」
そう誤魔化すと僕のことが王子であることを思い出す前に早く出て言ってほしいと願った。その願いが届いたかのように男は
「まぁ、疲れているんだから早めに寝ろよ」
そう言い残し、部屋を出て行った。
「ふう…」
僕が一息つくと、僕の腕にぐっと重石がかかっているような感覚がした。それはミデルの手だった。カタカタと震えていた。
「大丈夫?」
僕が彼女の震える肩に触れる。
「怖かった……」
僕にもたれてくる。
「やっぱり、泊まらないほうが良かった?」
彼女は震えながらも首を横に振る。
「新しいこと知ることできたから」
彼女の体からほんのり、ゆずの香りがした。

「ミデル、おやすみ」
少し経って、ミデルの震えも収まったため布団を敷き、僕たちは寝ることにした。隣に寝ることはお互い慣れた。
「おやすみ、ラクラ」
僕たちはそう言って目を閉じた。
悲劇が待ち受けていることを何も知らずに。

12/21/2022, 1:54:04 PM

テーマ:大空 #39

※この物語は#20からの続編です

この真っ青な大空をどのくらいの人が見上げているのだろうか。どんな人が見上げているのだろうか。
「ねぇ、ラクラ。聞いてくれる私の過去のことを」
そんな空とは真逆の曇った顔をしたミデルが僕を見る。
人目が少ない野原の上、二人は寒空の下に寝転んでいた。
「うん」
僕が短く返事をする。ミデルは珍しくローブを外した。
「私の瞳、何色に見える?」
ミデルがそう言って僕に近づく。初めて会ったときと同じ、黄緑色の彼女の目を初めてじっと見た。
「黄緑色」
僕が答えると彼女は頷いた。
「私はね、魔法使いの中でも特殊な種族なの。普通魔法使いは紫や青の瞳をしている。でも、希に私みたいな黄緑色の瞳をしている魔法使いが生まれる」
彼女の視線が僕から空へと向いた。
「黄緑色の種族はね、生まれつき上限の魔法が使えたり、特殊魔法というものがついたり、普通の魔法使いよりも器用に魔法が使えたり…。凄く便利なの」
彼女は言葉を吐き出すように言った。
「でもね、その代わりに小さい頃から上限魔法が使えるからコントロールできなかったり、魔法の使い方が下手で力尽きて死んでしまったりする。だから、黄緑色の種族は、生まれるのも希で生きているのも希なんだ」
彼女の長い、茶色い髪の毛が風で揺れた。
「もう一つ、生きているのが希と言われる理由があるの」
そう言うと彼女は、いつもつけている黒い手袋を外した。すると右手にも左手にも紫色の波紋がついていた。
「これは10になると黄緑色の瞳を持つものだけにつく呪い波紋。この波紋が全身に広がると早いところ、10年で死んでしまう」
僕はゾッとした。彼女にも死が近づいているのかもしれない、と。でも彼女は明るく言った。
「でもね、私がこの波紋の呪いで死ぬことはない。私は、魔法も制御できていてさらに、この波紋の呪いも解いた。この波紋は後遺症みたいなもの。呪いは発してない」
彼女は波紋を指でなぞった。
「でも私は、この瞳や魔法や呪いの波紋のせいで沢山の人に差別の目で見られた。
たった少し能力があるだけで、少し見た目が違うだけで。気味悪がられた」
彼女は波紋をなぞるのをやめ、その手で拳を握った。
「『みにくい子』『少しくらいできるからって調子に乗るな』『あんたに居場所なんてない』ってさ」
乾いた笑いをするミデルは、いつものミデルじゃないみたいだった。
「地下牢獄で働かされるようになってからも、人の倍の労働をさせられた。身なりにあった労働をって」
ミデルは、ため息をついた。大きな、大きなため息だった。
「両親は?」
その言葉を出すと彼女はグッと下唇を噛んだ。
「あ、ごめん…。言いたくなければ言わなくて大丈ー」
「死んだよ」
彼女は言った。触れてはいけないところに触れてしまった。
「ごめん…」
「謝らないで。言おうとしていたから」
ミデルの目は潤んでいた。
「両親はね、私を産んだことに後悔していた。両親は二人とも紫の瞳なのに、生まれてきた赤子は黄緑。忌み子だって、私のことを呼んでた。自分の子供のことを大嫌いだった。いつも私のことを見る目は、他人と同じ冷たい目。まるで『話しかけないで』とでも言っているような」
一呼吸置くとミデルは、続ける。
「どこにも帰る場所なんてなかったんだ。私を愛してくれる人なんてこの国にはいない。そんなときに始まったのが地下牢獄の労働だった。まぁ、あの人たちは地下労働をする前に亡くなったから? 良かったんじゃないかな。それで。」
冷たく言っているが、僕はミデルの言葉にどことなく迷いを感じていた。それにも構わず、ミデルの話に耳を傾けじっと聞く。
「私はいつしか、人と接することが怖くなっていた。差別する目が怖くなってローブを深く被るようにして表情や瞳を隠した。手袋をして呪いの波紋を隠した。魔法をあまり使わないようにした。そうしたら普通の人に見えるんじゃないかって」
ミデルは青空に手を伸ばす。
「普通が欲しかったんだ。
普通に人と話して。普通にみんなと勉強して。普通に家に帰って家族と話して。普通に生活できる。
『普通』が」
ミデルの声は震えていた。伸ばした手も震えていた。
「この大空は広く広がっているんだよ? 世界はこんなに広いんだよ? それなのに私、なんでこんなにちっぽけな悩みで泣きそうになってるんだろう…」
ミデルは手を下ろすとそのまま目に落とした。

『普通がほしい』。僕もそう思うことがある。もちろん少し、ミデルとは感覚が違うけど。
でもミデルは、ちゃんと話してくれた。自分から。僕らはこれからどうするのが一番適切なのかわからない。
でもやることは、見えてきている気がした。

12/20/2022, 1:54:28 PM

テーマ:ベルの音 #38

※この物語は#20からの続編です

ベルの音がどこからか聞こえる。
この音を聞くと自然にクリスマスを連想する。
「なんの音?」
隣にいたミデルがあたりをキョロキョロと見回している。
「ベルだよ」
「べる? それは何?」
ミデルは首を傾げる。ベルも知らないのか?
ミデルはイルミネーションといい、ベルといい知らないことが多いな…。それくらい、地下牢の労働には余裕がなかったのだろうか。
僕は、ミデルに過去の生活について問うことはなかった。なぜなら、ミデルにとっていい過去ではないと思ったからだ。
いつか、自分から話してくれる日が来るんじゃないかと心の中では思っている。
「ベルは楽器だよ」
「吹くの?」
「ううん、振るって言ったほうがいいのかな…?」
僕はベルのある体で腕を振ってみせた。
「そうやって音を鳴らすんだ…」
不思議なものもあるものだと言うような表情でまじまじと僕を見つめてから、鳴っているベルの音に耳を傾けている。
「ミデル、もうすぐクリスマスだね」
僕がそう言うと頷く彼女。昨年よりもゆとりがあるからこんなことにも視野を向けられる。
今年のクリスマスは何か、ミデルにプレゼントしよう。そう心の内で思った。
冷たい風に乗せて、ベルの明るい音がなる。

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