狼星

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テーマ:プレゼント #41

※この物語は#20からの続編です

朝起きると、あるはずの影はなかった。
僕は嫌な予感がして起き上がる。
「ミデル?」
彼女のことを呼ぶ声が震える。
「ミデル!」
返事はなく、ただ静かな寒い部屋に僕の声だけが響く。
あの男は…? 僕は飛び起きると戸を開く。
いない、いない、いない、いない!!!
僕は次々に部屋を見ていく、僕は余裕がなくなっていたからか、乱暴に戸を開けていった。
どの部屋にもいないことを確認すると、絶望した。
「なんで、なんでだ…」
僕は乱暴に頭を掻きむしる。これからなのに。これから、僕たちは行動する、一緒に新しい国を……。
そう思ったとき、部屋の机に一枚の紙切れを見つけた。
僕はそれに目を通す。そして、その紙切れを取ると怒りをあらわにして、ローブを取りこの家を飛び出した。
『魔法使いの娘といるとは、いい気味だな王子。娘は預かった。返して欲しくば……』
僕の個人的な恨みを持ったやつの犯行にしか見えない。
僕の中で怒りがフツフツと燃えているのを感じた。
彼女になにかしたら、ただじゃおかない。そう思いながら。
こんなに怒りを覚えたのは初めてだった。

「やっと来たか、王子サマ」
暗い路地の中、男の影を見てそのまま男に突っ込もうとする。
「おいおい、ストップストップ〜」
そこにはその男以外にも2名、男がいた。
「危ないぜ? 王子サマ。怪我したくなかったらそのままストップだ」
僕が構わず進もうとする。
「ゔゔ!!」
その時なにかの唸り声が聞こえた。僕はその声の方を見た。見た瞬間、カッと体が熱くなった。
「魔法使いの娘は、管理するのが難しかったんだからな?」
そこにはタオルを咥えさせられたミデルがいた。その口の端は切れてた。服もズタズタになっている。
「魔法使いの娘のことがそんなに大切か?」
男は僕に言った。僕は何も言わなかった。
それよりも僕は…。
「なんか、答えろよ!!!」
男は振り上げた手を俺ではなく、ミデルへと落とそうとした。
「やめろ!!」
俺が叫ぶと空気がビリビリビリっと震えた。
「お、おい!」
ドサッと音がして後ろの方で男が騒ぐ。
「な、何だ!!」
その時、ミデルを持っている男の手が緩んだのを俺は見逃さなかった。
「アダダダダダッ!!」
「余裕の素振りはどうした。男よぉ?」
俺はなにかに取り憑かれたかのように低い声で話していた。それも凄い力で男の手を握っている。
「この腕一本くらい、折れるかもしれねぇな」
俺は笑った。何故かすごく楽しい。怒りを通り越して、おかしくなってしまったのかも知れない。
「やめっ!!」
「は? お前、腕の一本くらい安いだろ。俺の大事な人傷つけたの自覚してない?」
怒り、恨み。色んな感情が爆発していた。いつの間にか背後に回っていたらしい、もう一人の男。
手には鉄パイプか? まぁ、そんなの関係ないか。
逃げればよかったのになぁ?

気がつくと僕は横になっていた。
「お前さ、僕の中で何してるの?」
僕は背中を向けている、ソレに話しかけた。
「ずっといるよね、君」
僕は話しかけ続ける。するとそれは振り向く。
「俺か? そうだな…。まぁ、悪いことはしてない。それよりも早く行ってやったほうがいいんじゃね?」
そう言うとソレは指を鳴らした。

「ーラ、ラクラ!!」
僕は声を聞いてすぐにミデルだとわかった。その影に僕は抱きついた。
「ごめん……。ごめんな」
僕は彼女を強く抱きしめた。彼女は震えていた。怖がらせてしまった。ごめん…。

「ラクラ、もう大丈夫だから」
ミデルはそう言って僕から離れようとする。
「駄目、まだ」
僕はそのまま抱きしめていた。
「あのね、ラクラ。私…」
そう言ってゴソゴソとローブのポケットを漁ってから、何かを出す。
「これ、クリスマスプレゼント」
そう言う彼女の口には赤い血が滲んでいた。
治してあげたかった。そう強く願いながら彼女の口に触れる。
「ラ、ラクラ?」
ミデルは、そう言いながらキョトンとしている。その時、すうっと切れていた口が治った。僕は目を大きくしてそれを見た。
「ラクラ、あなた…」
治った口に手を当てたミデルはそう言って、僕を見た。
クリスマスプレゼントは、ミデルの手から落ちていた。

12/23/2022, 1:31:22 PM