狼星

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テーマ:イブの夜 #42

※この物語は#20からの続編です

「何年か前のクリスマスのイブ…つまり、今日と同じ24日の夜。王宮に何者かが侵入したらしいんだ」
僕はミデルが捕まった次の日の夜、泊まったホテルの部屋で話した。過去の僕の身に起きたことを…。
「僕もあんまり覚えていないことなんだけど、長身の男が僕のそばに来てナニカをしたらしい。そのナニカはすぐにはわからなかったし、僕の身体に何処か異常なところもなかったため、その事件はあまり大事になっていないらしいんだけど…」
僕はその日のことを本当に覚えていなかった。しかし、その日近くのことだ。僕の中にソレがいると自覚し始めたのは。
「その日から僕は、体に違和感を感じていた。時々なにかに取り憑かれているかのような感覚になったり、記憶が飛んでいたりするんだ。最近ではそれにも制御ができるようにはなっていたんだけど、やっぱり……」
僕は自分の手を見つめた。完全に制御はできていない。
「それって、昨日みたいになることが過去にもあった、ってこと?」
「いや、昨日みたいにソレが堂々と出てくることは今までになかった。だから、正直僕もよく理解できていないんだ」
僕はミデルをみた。昨日は必死にミデルを助けたいと思ったのと、男たちに対する怒りが抑えきれなかったからと言うのもあったかもしれない。
「離脱した魂を取り付ける魔法とかかな……」
ミデルはそうポツリと呟く。
「そんな恐ろしいことができるの?」
「そりゃあ…簡単なことじゃないけどさ。本で書いてあるのを見たことがある気がする。使い魔とか眷属とかそういう感じではなさそうだし、私も昨日まで気が付かなかったし、かなり強力な悪意を持ったものではなさそう……」
ミデルが何やら難しい言葉を並べ始めわからなくなっていった。
「あ、ごめんごめん。普通に自分の世界に入り込んじゃってた」
そう笑うミデルが昨日よりも元気を取り戻したようで安心した。僕は昨日の騒動後、改めてクリスマスプレゼントを受け取ることにした。今なら大丈夫かも…。
そう思い、ポケットに手を入れると
「ミデル」
そう彼女の名前を呼ぶ。ミデルはキョトンとした目でこちらを見る。
「これ、僕からのクリスマスプレゼント。人にプレゼントをあまり上げたことがないから分からなくて…。こんなものでごめん」
そう言って差し出したのはローブを止めるピンだった。いつも前が空いていて寒そうだったからどうかなと思い、購入したものだ。ミデルの瞳のように黄緑に輝く石が中央にはめられている。
「すごい綺麗…。そして…わたしたち気が合うね」
そう言って、差し出されたのは昨日渡そうとしてくれた包装された箱。中身は同じくローブを止めるピンだった。ミデルがプレゼントしてくれたものには水色の輝く石が中央にはめられている。
「ありがとう。ミデル」
僕が大事にそう言って、胸に抱えると同じようにミデルも言った。
「こちらこそ、ありがとう。ラクラ」

12/24/2022, 3:04:14 PM