狼星

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12/19/2022, 12:57:23 PM

テーマ:寂しさ #37

※この物語は#20からの続編です

ずっと、寂しいと思ってはいけないと思っていた。
寂しいと思ったら泣いてしまいそうになるから。
泣いている暇があれば働けと言われた。
寂しいと思う余裕があるなら働けと言われていた。
苦しい日々から抜け出したくて、私は逃げ出した。
外の世界もあの地下の牢獄も、あまり変わらなかった。
でも、こうしてラクラといると本当の私でいられる気がした。
「寂しいときは寂しいって言っていい。僕の前ならいくらでも泣いていい」
そんなこと言われたら、涙腺が緩んでしまうじゃないか。自分が寂しいと思うことは許されていない。ずっとずっとこらえていたものが溢れるようだった。
「あんたは生まれてきたことが罪だ」
「魔法使いなんて!! 悪魔の使い手」
「みにくい子娘」
今でも覚えている。苦しい、辛い過去。
寂しいなんて打ち明ける友達や両親はいない。
そんな私のことを助けてくれるの? ラクラ。
私がそう思いながらラクラを見る。ラクラは静かに私を抱き寄せた。
人の温もりを感じた。私の目から自然に涙が落ちた。

12/18/2022, 2:36:33 PM

テーマ:冬は一緒に #36

※この物語は#20からの続編です

ずっと一人だった冬。
今年の冬は隣にラクラがいてくれる。
「ミデル、今年も綺麗だね」
昨年と同じようにイルミネーションが見たいと言ったら連れてきてくれたラクラは私にそう言った。
私はラクラの秘密を知った。王国の王子であることは前々からなんとなく知っていた。というか、知らない人はいないだろう。
ラクラはなんで私と一緒にいてくれるんだろう。
国の王子なのに、魔法使いとして嫌われている私といるのはなぜなんだろう。最初の頃はもちろんラクラのことを半信半疑だった。
でも、最近のラクラとは自然に打ち解けている自分がいた。ラクラの秘密を知った私は、その後思った。
私も打ち明けていいかな、と。
私にも秘密がある。それは酷く、思い出すだけでも苦しくなる私の過去だ。重い話にはなる。ラクラはそうだとしても聞いてくれるだろうか。
ラクラは本当の私を知ってしまったら、私を嫌うのではないか。
そして、また一人になってしまうのではないか。
怖くなった。
「ねぇ、ラクラ」
私が話しかけるとラクラは私の方を向いた。
「今年の冬は一緒にいてくれる?」
ラクラはじぃっと私を見た。
「だめ」
ラクラはそう言った。私は俯いた。そうだよね、打ち明けたのはラクラが王子、ラックとして戻りたいからだよね…。
「『冬は』じゃない。これから、ずっと」
「へ?」
思いがけないラクラの言葉に気の抜けた返事が出る。
これから、ずっと…? 一緒にいていいの? 一緒にいてくれるの?
私はラクラを見ていた。本当に?
私を捨ててきた人はたくさんいた。
いいように使われる。私を魔法使いだと差別する人もいる。そんなわたしでも、一緒にいてくれるの?
怖くて聞けなかった。でも、それを察したかのようにラクラは、言った。
「一緒にいたい。僕はミデルと一緒にいたいから。
 冬だけじゃない、これからも」

12/17/2022, 2:19:58 PM

テーマ:とりとめのない話 #35

※この物語は#20からの続編です

凍える寒さが来た今日。
ミデルに本当のことを話そうと決めた。
最初はとりとめのない話から始まった会話。そして、さり気なく僕の過去の話もした。
ミデルは、頷きながら聞いてくれた。
そして本題。僕は話すときやはり止めようかと何度も思った。でも、ミデルが僕の話をじっと聞いてくれるのを見て思った。
あぁ…大丈夫だって。
根拠もないそんな僕の思い。でも、約1年一緒にいて思ったのは、彼女は信頼できるということだった。
「ミデル。僕の秘密を教える」
僕は声のトーンを変えた。ミデルはさっきまで丸くしていた背筋を伸ばし僕の方を見た。
「僕は……この国の王の息子。つまり、この国の王子なんだ」
ギュッと目をつぶった。怖かった。ミデルの顔を見ることはできなかった。やっぱり心の何処かでは怖いと思っていたのは確かなことで、ミデルがどんな表情でこれを聞いているのか怖かった。

少しの間、沈黙が続いた。沈黙の時間はほんの少しだったかもしれないが、僕にとっては長い時間だった。
「知ってたよ」
沈黙の時を止めたのはミデルだった。
「知ってた。ラクラがこの国の王子、ラック・クラームだってこと」
ミデルは淡々と言った。
「信じてたよ。自分から言ってくれること」
ミデルの言葉にホッとしている自分がいた。知っていたのにも関わらず知らないふりして自分と一緒にいてくれたことに。
「ラクラ?」
ミデルは僕の顔を見て、驚いたような声で名前を呼ぶ。
「どうして泣いているの?」
僕の視界はいつの間にかぼやけていた。
「な、泣いてない」
僕は恥ずかしくなって顔を隠す。
「いや、泣いてた!」
ミデルは、僕の顔を見ようと覗き込んでくる。僕がそれを頑張って避けているとクククッと言う声が聞こえてきた。
「まぁ、泣くことは悪いことじゃないさ」
そう言って、笑ったミデル。
「だから、泣いてないって」
そう言いながらも鼻をズビッと音を立ててすする。
カッコ悪い。そう思いながら涙を拭う。
よかった。僕は安堵した。そして少し怖くなった。
打ち明けたということは、確信を持てなかったかもしれない僕の正体を確信してしまったのだから。
「なぁ、ミデル。王子だとわかったとしても、僕と一緒にいてくれるかい?」
問題はそこだった。ここで頷いてもらえなかったら、僕はどうすればいいのだろう。一気に不安が僕を襲う。
「もちろんだよ。ラクラがラック王子だろうと、ラックはラックだもん」
ミデルは出会ったときと同じような笑みを浮かべた。
良かった、本当に。
「じゃあ、私のことも聞いてもらおうかな。泣き虫さんに」
「泣き虫じゃない!!」
僕はそう言いながらも笑っていた。
そしてまた、とりとめのない話を2人で話す。そんな日常が僕にとっての幸せだった。


♡400ありがとうございます。これからも狼星をよろしくお願いいたします。

12/16/2022, 1:49:39 PM

テーマ:風邪 #34

※この物語は#20からの続編です

「へっくしっ!」
僕がくしゃみをすると隣りにいたミデルがビクッ! っと肩を上げた。
「ごめんごめん」
僕が謝ると
「風邪? 大丈夫?」
そう心配される。風邪なんてめったに引かないからなぁ…と思った。最後に風邪を引いたのはいつだろう…。
「急に寒くなったからねぇ…。冬が近いのかも」
そう言ってミデルは手袋の上から手にはぁっと息をかけた。手袋をいつもしているミデルだが、生地が薄く冬はやはり寒いらしい。
「温かい手袋買おっか」
僕がそう言うと少し間を開けてミデルのクスクスという笑い声が聞こえ
「そうね」
ミデルの口角が少し上がるのが見えた。

12/15/2022, 1:25:36 PM

テーマ:冬を待つ #33

※この物語は#20からの続編です

月日が経つのは早かった。
僕はラクラ・クームとして生きていた。色んな場所へ行き、色んな人を見た。
この国の現状を知り、変えなければならないことも多くあることを実感する。いつもミデルは、僕の隣りにいてくれた。僕のことを信頼してくれていて、僕も彼女のことを同じく信頼していた。
「ねぇ、もうすぐで一年が経つね。私達が出会ってから」
ミデルはそう言って枯れ葉のカーペットを歩く。
「私、ラクラとこんなに仲良くなると思っていなかったよ〜」
ふふふっと笑うミデルは、いつにも増して上機嫌だった。なぜなら待ちに待った冬が来るからだ。
ミデルは、一年前見たイルミネーションが忘れられないそうだ。イルミネーションは冬にしか見られない。
「そういえば、ラクラ言ってたね。私に嘘ついていることがあるって」
「え?」
僕はミデルを見た。
「ほら、あの小屋に行ったときのこと。まぁ、言いたくなかったら言わなくてもいいんだけどさ〜」
僕は思い出した。そうだ、あの時。僕は自分の本当の正体をミデルに言おうか迷ったのだ。
そして事実を言うことができなかった。
それから一年も経ってしまった。そういえば、最初の頃は僕を探して色んな人が動いていたそうだ。
ラクラ・クームとしての僕じゃなく、ラック・クラームの僕を。
しかし、最近では動きも静かになったようだ。王宮のものを見かけることは少なくなった。
ふと、リオのことや母上、父上のことを思い出した。
元気だろうか。心配になった。
ミデルに本当のことを言ったほうがいい。そう思った。でも、あと少しだけ。この冬でラクラ・クームとしての仕事は果たせそうなんだ。
だから、少しだけ時間が欲しかった。
「ミデル、その話もう少し待ってくれるか? ちゃんと話すから。……冬が始まる頃に話すから」
ミデルは、目を丸くして僕を見ていた。そして
「わかった」
そう深く頷くと指を絡ませた。
「冬を待つよ。待ち遠しい」

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