狼星

Open App
12/14/2022, 1:10:19 PM

テーマ:イルミネーション #32

※この物語は#20からの続編です

「すっかりイルミネーションが、家々に飾られる季節になったなぁ~」
僕はローブを深く被るとそう言った。
「いるみねーしょん?」
ミデルの頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。
「あぁやって、家に光るサンタクロースの飾りとかを家につけて夜、それらを光らせるんだ」
「イルミネーション!!」
ミデルは想像したのか心を踊らせている。
「みたい? もう少しで光ると思うけど…」
ミデルはこちらにすごい勢いで頭を向ける。瞳をキラキラとこちらを見ている。
それはいつになく無邪気で、子供っぽかった。
「待っていよっか」
僕がそう言うと彼女は、首を思いっきり縦に振った。

「まだかなぁ〜」
ミデルは、足をパタパタとさせていた。
僕たちは近くの石垣に腰を下ろし、待っている。
僕たちは流石に人の家の前のイルミネーションを待っているということはやめ、近くの広場にあるクリスマスツリーのイルミネーションを見ることにした。
クリスマスといえば、プレゼントだ。
プレゼント、ミデルはもらったことがあるのだろうか。
「あ! 見て!!」
僕の方をぐいっと引くミデル。
「すごいなぁ…」
僕もミデルの視線の先にあるイルミネーションに目を奪われる。そこには赤、ピンク、青、黄色、緑、紫と色々な光が暗い夜の広場を照らしていた。
「すごい…。すごいよ! ラクラ!」
僕はそう呼ばれて思った。
そうだ、今の僕は王の後継ぎのラック・クラームじゃない。ミデルの横にいる僕は、ラクラ・クームなんだ。
無邪気にはしゃいだって、誰にも叱られることはない。
自由なんだって。
イルミネーションの光は、夜の暗さを彩った。
僕だってこのイルミネーションのように光を放って見せるんだ。

12/13/2022, 12:37:44 PM

テーマ:愛を注いで #31

※この物語は#20からの続編です

「おまたせ」
僕が小屋に入っていくと、隠れていたミデルが顔を出す。
「その荷物は?」
ミデルは僕のカバンを見て言った。
「僕、ちょっと旅に出ようと思って」
そう言ってカバンをポンッと叩き、ミデルをもう一度見てギョっとした。
「ど、どうしたの?」
ミデルは泣いていた。声を押し殺してはいたが、ポロポロと溢れている大粒の涙とぎゅっと結んだ口元で泣いていることがわかった。
「なんで泣くの?」
僕は慌ててミデルに駆け寄ると
「ごめんなさい」
小さな震える声が聞こえた。
「なんで謝るの?」
「私のせいよ」
彼女は言った。黒い手袋をはめた手で顔を覆う彼女。
「私があなたに話さなければ、こんなことには…」
小さく肩を揺らす彼女はどうやら自分のせいで僕が旅に出ると思っているらしい。
彼女の思っていることは半分正解。しかし、
「それは違うよ、ミデル」
僕が彼女の肩に触れると続けた。
「僕がこうしたいからこうしたんだ。ミデルのせいじゃない。自分が選んだ道なんだ」
「自分が選んだ道…?」
「そう。だから後悔しても自分のせい。ミデルは自分を責めないで」
僕がそう言うと彼女は首を縦に振った。

ローブをミデルのように深く被り、小屋を出ると僕はもういつ帰るかわからない王宮を見上げた。
高く、大きく、きれいな城だ。
ただこの城を支えているのは、様々な人々だ。
その人々を一括りに考えるのではなく、どんな人がいてどんなことを思い日々過ごしているのかを知りたいと思った。
もしかしたら、簡単なことではなくこの先、困難なことが待ち受けているかもしれない。
それでも僕が目指すこの国の王は、そんなことを乗り越え人々に安心して暮らせる国を作る人だ。
人々へ平等に愛を注ぐ人だ。
その第一歩が今日としたら。
踏み出すきっかけが隣りにいるミデルなら。
どんなに素敵なことだろうか。

12/12/2022, 1:35:53 PM

テーマ:心と心 #30

※この物語は#20からの続編です

僕はここを出る。そう決心した。
この王宮にいても、国のすべてを知ることはできない。
僕に不要だということはすべて伏せられてしまうからだ。
『国を少しでもいいものに見せたい』そんな思考が生んだ結果だと思う。
もちろん、ここにいて知らないふりをしていればきっと楽に王へとなれるだろう。
しかし、僕は楽して王になりたいわけではない。
どうせ王になるなら、この国にいた僕の爪痕を残したい。
僕はこの目で今の国の状況を見て、判断して王になるための経験を得たいと思った。きっと父上と母上は許してはくれないだろう。
いや、父上は許してくれるかもしれない。でも、母上に秘密にするということは無理だろう。それなら僕がこっそりと出ていけば。
そう思いながら荷造りをする。あまり不審に思われないよう、最低限の荷物しか持っていかない。
厚いローブをカバンの上に被せるようにしまうと部屋を出た。

「坊ちゃま」
そう声を掛けたのはリオだ。
「坊ちゃま、お気をつけて」
リオは止めなかった。僕が家に数日帰ってこないかもしれない。そんなことを知っているかのように。
すべて見透かしたように。
リオだけは味方でいてくれるのだろうか。
僕はリオに抱きついた。そして
「行ってきます」
僕はリオから離れドアを開けた。
「いってらっしゃい」
そんな声がドアの閉まる、少しきしむ音と同時に聞こえた。


「坊ちゃま……」
私はすっかり大きくなった、ラック坊ちゃまの背中を見た。
いつの間にか私よりも背が伸びて、強くなられたのですね。私は心のなかで言った。
ラック坊ちゃまはヤンチャで、人一倍世話が大変な少年でした。でも、いつの間にかたくましくなっていた。
子供の成長とは早いものですね。
私はラック坊ちゃまの顔を見て、何か隠しているなと感じた。でも、それはけして悪いことに手を染めているようには見えなかった。
それは、ラック坊ちゃまのことをずっと見てきた私だからこそ分かる気がした。
信頼してますよ、ラック坊ちゃま。
ドアの向こうに消えた、坊ちゃまの背中に言った。
私の心と坊ちゃまの心は離れていても繋がっていますから。
私は胸に手を当てる。まだかすかに残る、ラック坊ちゃまの温もりを感じた。

12/11/2022, 1:15:49 PM

テーマ:何でもないフリ #29

※この物語は#20からの続編です

ミデルと別れて僕は王宮へ向かった。
ーーガチャッ
僕がドアを開けると一人の執事が出迎えた。
「坊ちゃま、おかえりなさいませ」
優しい声で言うのは、忙しい父母に代わって僕の世話をしてくれているリオだ。
「ただいま」
僕はそういったあと、すぐに部屋へ行こうとした。
「坊ちゃま? どうかなさいましたか?」
リオは何かを感じ取ったように言った。やはりリオにはわかるのだろうか。僕とずっと一緒にいてくれたから。
「ううん。少ししたらまた、出かけるから。母上と父上には…。言わなくていいから」
そう言って部屋へと駆け足で向かう。

何でもないフリをするのって難しい。
特にいつも一緒にいる人にかくしごとをするのは。
でも、僕は決めたんだ。だから……

12/10/2022, 12:43:21 PM

テーマ:仲間 #28

※この物語は#20からの続編です

もし、僕がこの手を離したら。
ミデルはどこかに行ってしまうだろうか。
もし、僕がこの国の王と妃の息子と知れば。
ミデルは僕のことを恨むだろうか。
もし、僕がこの国のことを本当に受け継ぐとしたら。
どうして、みんな僕を一人するの?

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
僕達はある建物の近くに身を隠した。
「ラクラ、どうしてここに…?」
ミデルは顔を青くしている。
ここは王宮の小屋の中。ミデルは、酷く動揺していた。
「ミデル、落ち着いて聞いてほしい。僕はー」
「坊っちゃん帰ってこないなぁ〜」
僕の声と重なって聞こえてきたのは、二人の執事だった。
「また、どこかに寄り道をしているんでしょうよ」
「またか…。王妃様も王様も、坊っちゃんのことを大事にしているはずなのに。坊っちゃんと言ったら…」
「無理もないさ。あんなにヤンチャなのだから。そういえば、王妃様が言っていたなぁ。坊っちゃんに後を継がせるのは……」
そこで執事の声が止まった。僕たちは声を潜めていた。
「どうした?」
急に話を止めた執事にもう一人が聞いた。
「いや、やめておこう。誰が聞いているかわからないしな。とにかく、坊っちゃんはあまり……」
僕は顔を伏せた。
そんなのわかってる。わかっているのに。

「ラクラ?」
執事たちが去った後、ミデルは僕に話しかけた。心配そうに眉をハの字にしている。
「ミデル。僕は君に嘘をついてしまった」
僕は、奥歯を噛んだ。本当に言っていいのか? 言ったら、ミデルは悲しむ。もしくは、僕を恨むだろう。
憎んでいる王国の王子なのだから。
そんな僕をミデルは、包み込んだ。ふんわりと花のような香りが鼻をくすぐる。
「いいよ、無理に話さなくても」
そんな優しい言葉に鼻がツンとなった。
「ミデル。僕はここを変えて見せる。だから」
僕はミデルをまっすぐ見つめた。
「待ってて。絶対に後悔させないから」
もちろん何を言っているのかミデルにはわからないだろう。しかしミデルは、僕に頷いた。
「わかった。待ってる」
ミデルは優しく言った。
僕たちは、助け合えるのだろうか。
僕たちは、信頼し会えるのだろうか。
僕たちは、仲間になれるのだろうか……。

Next