狼星

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テーマ:心と心 #30

※この物語は#20からの続編です

僕はここを出る。そう決心した。
この王宮にいても、国のすべてを知ることはできない。
僕に不要だということはすべて伏せられてしまうからだ。
『国を少しでもいいものに見せたい』そんな思考が生んだ結果だと思う。
もちろん、ここにいて知らないふりをしていればきっと楽に王へとなれるだろう。
しかし、僕は楽して王になりたいわけではない。
どうせ王になるなら、この国にいた僕の爪痕を残したい。
僕はこの目で今の国の状況を見て、判断して王になるための経験を得たいと思った。きっと父上と母上は許してはくれないだろう。
いや、父上は許してくれるかもしれない。でも、母上に秘密にするということは無理だろう。それなら僕がこっそりと出ていけば。
そう思いながら荷造りをする。あまり不審に思われないよう、最低限の荷物しか持っていかない。
厚いローブをカバンの上に被せるようにしまうと部屋を出た。

「坊ちゃま」
そう声を掛けたのはリオだ。
「坊ちゃま、お気をつけて」
リオは止めなかった。僕が家に数日帰ってこないかもしれない。そんなことを知っているかのように。
すべて見透かしたように。
リオだけは味方でいてくれるのだろうか。
僕はリオに抱きついた。そして
「行ってきます」
僕はリオから離れドアを開けた。
「いってらっしゃい」
そんな声がドアの閉まる、少しきしむ音と同時に聞こえた。


「坊ちゃま……」
私はすっかり大きくなった、ラック坊ちゃまの背中を見た。
いつの間にか私よりも背が伸びて、強くなられたのですね。私は心のなかで言った。
ラック坊ちゃまはヤンチャで、人一倍世話が大変な少年でした。でも、いつの間にかたくましくなっていた。
子供の成長とは早いものですね。
私はラック坊ちゃまの顔を見て、何か隠しているなと感じた。でも、それはけして悪いことに手を染めているようには見えなかった。
それは、ラック坊ちゃまのことをずっと見てきた私だからこそ分かる気がした。
信頼してますよ、ラック坊ちゃま。
ドアの向こうに消えた、坊ちゃまの背中に言った。
私の心と坊ちゃまの心は離れていても繋がっていますから。
私は胸に手を当てる。まだかすかに残る、ラック坊ちゃまの温もりを感じた。

12/12/2022, 1:35:53 PM