狼星

Open App
12/9/2022, 2:40:55 PM

テーマ:手を繋いで #27

※この物語は#20からの続編です

「えっと……。名前は?」
そう彼女は言った。僕たちは名前を知らなかった。
ラック・クラームと言おうとしたが、この名前を言えば分かってしまうだろう。
「ら、ラクラ・クーム」
僕がそう名乗ると彼女は聞く。
「ラクラくん?」
僕は頷く。
「私は、ミデル。ミデル・クラーナ」
そう名乗った。
「ミデル、さん」
僕が片言になって言うとハハハッと笑って
「ミデルでいいよ。私もラクラって呼んでいい?」
そう言う。僕は首を縦に振った。
「ラクラはどこの人?」
「東」
嘘、王宮は西にある。
「東かぁ〜…。東には美味しいお菓子があるよね〜」
ミデルは足をパタパタさせる。
「私もよくお忍びで東へ行くよ〜。近くにラクラの家あるのかな〜」
「ミデルの家は?」
「私の家は……」
そう言って、ミデルは黙った。
「私の家は……無い」
「え?」
僕は耳を疑った。家が、ない?
「正式には私、逃げ出してきたから」
「……」
僕はミデルの言葉に何も言えなかった。
「ねぇ、ラクラ。ここには私の居る場所なんてないんだよ」
ミデルは指を絡ませている。
「もうずっと戻っていない、地下の牢獄。それが私の家、かな」
僕は昨日セピアが言っていたことを思い出した。
ー魔法使いたちは地下の牢獄に閉じ込められているらしい。
あれは本当だったのだ。
僕は、顔が熱くなった。魔法使いだからといって地下の牢獄に閉じ込められる。そんなの差別じゃないか!
でも、僕はそれを知らなかった。
みんなは知っているのだろう。

僕だけ…?
僕は一瞬、頭にそんな言葉が横切る。
僕は知らなかったことを同い年のセピアは知っていた。
ミデルに会ったことをセピアは二人だけの秘密にしようと言った。
それは、僕が知ってはいけないことを知ってしまったから…?
急にそんなことを思った。
「ラクラ? 大丈夫?」
「僕だけ…?」 
「ラクラ?」
見でるの心配そうな声が僕に聞こえた。
そうだ。だって僕は決して真面目ではないが、授業はちゃんと聞いている。セピアのように知識人じゃなくても、これくらいのことを知らないと王にはなれない。
隠している理由があるのかもしれない。
「ミデル。僕、確かめたいことがあるんだ。そこへ行きたい」
「わかった」
ミデルはそう言って立ち上がる。
「じゃあ、行こう?」
僕は彼女につられ立ち上がったその時、
「あそこにいる! 魔法使いだ!!」
そんな声が暗い路地に響く。振り返るとさっきミデルを追い払っていた人が叫んでいる。後ろには警官のような者もいる。
「走ろう」
僕は彼女の手を繋いで暗い路地から二人、逃げ出した。

12/8/2022, 1:51:41 PM

テーマ:ありがとう、ごめんね #26

※この物語は#20からの続編です

でも僕は、それを彼女に言うことができなかった。
僕が彼女の憎むこの街の王と王女の息子で、もうじき王となると知ったら、彼女はもうこうして自分と話してくれなくなってしまうのではないか。そう思ったからだ。
「話を聞いてくれてありがとう、暗い話をしちゃってごめんね」
彼女は苦笑いをした。
どうにもできない自分の未熟さが、憎たらしく思えた。
そして、自分はこの国を変えたい。
そう改めて想いを確信に変えたのだった。

12/7/2022, 1:21:14 PM

テーマ:部屋の片隅で #25

※この物語は#20の続編です

僕は彼女の心情をなんとなく理解できた。
僕だって、部屋の片隅で孤立していた時期だってあったから。
王族だからといってそういうことがまったくないというわけではないから。

♡300ありがとうございます!!

12/6/2022, 1:29:47 PM

テーマ:逆さま #24

※この物語は#20からの続編です

「魔法使いが、悪役とされる国」
彼女が暗い路地の階段に腰掛けながら言った。僕は彼女の隣に座る。
相変わらず黒いローブを深く被っていて顔は見えなかった。が、きっと暗い表情をしているのだろう。
何となく、僕は彼女から視線を外す。
「以前までは魔法使いは、今とは全く逆さまの立場。
みんなと一緒に暮らして、新たな国の発展にも貢献するような人材だった」
そう言う彼女は少し明るいトーンで話した。
「でも、普通の人間と魔法使いとでは能力が違った。そこで差別されたりすることもあって……」
彼女は言葉をつまらせた。彼女にもそういう過去があったのだろう。
「魔法使いが悪役とされる国になった経緯に、魔法使いが全て悪かったんじゃないと私は思うの」
彼女はそう呟いてから、すぐに
「あ、だからって10割悪くないっていうのもそうじゃなくて……。8割くらいは魔法使いのわたしたちが悪いし?」
苦笑いした彼女は明らかに自分に嘘をついている気がした。
彼女の逆さまの意見、違う言い方をすれば本心と真逆の意見を言っている。
そんな感じが僕の中にもやもやとしていた。

12/5/2022, 12:54:47 PM

テーマ:眠れないほど #23

※これは#20からの続編です。

ラックは次の日も、こっそり市場へ行った。
セピアは先生に呼び出された。
「まっすぐに王宮へ帰って」
そう言われたものの、もう一度彼女に会いたかった。市場に行けば彼女に会えると思ったからだ。
しかし、彼女は見当たらなかった。
まぁ、そうだよな。と諦めて帰ろうとしたとき。
「魔法使いか!! 出ていけ!」
怒鳴り声とともにガラスの割れる音が聞こえた。
タッタッタッと駆けていく影には、見覚えがあった。
「待って!」
僕は彼女を追いかけた。彼女は足が早かった。しかし、僕だって負けてはいない。
追いついてグイッと手を引くとやっと彼女は止まった。
人通りのない道で彼女は僕に振り返る。彼女から雫が落ちた。
「あれ? 昨日の…」
彼女は振り向くと僕に言った。
「大丈夫…ですか?」
僕がそう言うと彼女はニッと口角を上げると
「いや~、カッコ悪いとこ見られちゃったな〜」
そう言ってローブを深く被った。
「僕! 昨日のあなたを見てかっこいい! って思ったんだ!」
「へ?」
気の抜けた返事。
「魔法使えるの、凄い!」
僕が感極まって言うと
「まって、まって!! そんなこと誰かに聞かれたら君が捕まっちゃうよ!」
すごい勢いで止められる。
「あ、そうだった…」
僕は手で口を覆うと周囲を見回す。幸い誰もこの会話を聞いている人はいなかったみたいだ。
「でも、すごいと思ったのは本当…」
その途端、彼女がバッと思いっきり顔を上げる。
その時初めてみた。彼女の黄緑のきれいな瞳を。整った顔立ち、そしてほんのり赤くなった頬。
かわいい…そう誰もが思うだろう。
天使だ…。強くて、かわいい。夢のようで現実に存在している。

この子が悪魔だと言われる意味がわからない。嫌われるはずがないのだ。この国はおかしい。そう、確信した。
それにしても可愛くてこの顔は、忘れられない。
今日は眠れないだろう。
だって彼女が眠れないほどに、この現実にいるものだとは思えなくて。これが夢なのではないかと思ってしまって。夢ならば、覚めないでほしい。

Next