狼星

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テーマ:眠れないほど #23

※これは#20からの続編です。

ラックは次の日も、こっそり市場へ行った。
セピアは先生に呼び出された。
「まっすぐに王宮へ帰って」
そう言われたものの、もう一度彼女に会いたかった。市場に行けば彼女に会えると思ったからだ。
しかし、彼女は見当たらなかった。
まぁ、そうだよな。と諦めて帰ろうとしたとき。
「魔法使いか!! 出ていけ!」
怒鳴り声とともにガラスの割れる音が聞こえた。
タッタッタッと駆けていく影には、見覚えがあった。
「待って!」
僕は彼女を追いかけた。彼女は足が早かった。しかし、僕だって負けてはいない。
追いついてグイッと手を引くとやっと彼女は止まった。
人通りのない道で彼女は僕に振り返る。彼女から雫が落ちた。
「あれ? 昨日の…」
彼女は振り向くと僕に言った。
「大丈夫…ですか?」
僕がそう言うと彼女はニッと口角を上げると
「いや~、カッコ悪いとこ見られちゃったな〜」
そう言ってローブを深く被った。
「僕! 昨日のあなたを見てかっこいい! って思ったんだ!」
「へ?」
気の抜けた返事。
「魔法使えるの、凄い!」
僕が感極まって言うと
「まって、まって!! そんなこと誰かに聞かれたら君が捕まっちゃうよ!」
すごい勢いで止められる。
「あ、そうだった…」
僕は手で口を覆うと周囲を見回す。幸い誰もこの会話を聞いている人はいなかったみたいだ。
「でも、すごいと思ったのは本当…」
その途端、彼女がバッと思いっきり顔を上げる。
その時初めてみた。彼女の黄緑のきれいな瞳を。整った顔立ち、そしてほんのり赤くなった頬。
かわいい…そう誰もが思うだろう。
天使だ…。強くて、かわいい。夢のようで現実に存在している。

この子が悪魔だと言われる意味がわからない。嫌われるはずがないのだ。この国はおかしい。そう、確信した。
それにしても可愛くてこの顔は、忘れられない。
今日は眠れないだろう。
だって彼女が眠れないほどに、この現実にいるものだとは思えなくて。これが夢なのではないかと思ってしまって。夢ならば、覚めないでほしい。

12/5/2022, 12:54:47 PM