狼星

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テーマ:手を繋いで #27

※この物語は#20からの続編です

「えっと……。名前は?」
そう彼女は言った。僕たちは名前を知らなかった。
ラック・クラームと言おうとしたが、この名前を言えば分かってしまうだろう。
「ら、ラクラ・クーム」
僕がそう名乗ると彼女は聞く。
「ラクラくん?」
僕は頷く。
「私は、ミデル。ミデル・クラーナ」
そう名乗った。
「ミデル、さん」
僕が片言になって言うとハハハッと笑って
「ミデルでいいよ。私もラクラって呼んでいい?」
そう言う。僕は首を縦に振った。
「ラクラはどこの人?」
「東」
嘘、王宮は西にある。
「東かぁ〜…。東には美味しいお菓子があるよね〜」
ミデルは足をパタパタさせる。
「私もよくお忍びで東へ行くよ〜。近くにラクラの家あるのかな〜」
「ミデルの家は?」
「私の家は……」
そう言って、ミデルは黙った。
「私の家は……無い」
「え?」
僕は耳を疑った。家が、ない?
「正式には私、逃げ出してきたから」
「……」
僕はミデルの言葉に何も言えなかった。
「ねぇ、ラクラ。ここには私の居る場所なんてないんだよ」
ミデルは指を絡ませている。
「もうずっと戻っていない、地下の牢獄。それが私の家、かな」
僕は昨日セピアが言っていたことを思い出した。
ー魔法使いたちは地下の牢獄に閉じ込められているらしい。
あれは本当だったのだ。
僕は、顔が熱くなった。魔法使いだからといって地下の牢獄に閉じ込められる。そんなの差別じゃないか!
でも、僕はそれを知らなかった。
みんなは知っているのだろう。

僕だけ…?
僕は一瞬、頭にそんな言葉が横切る。
僕は知らなかったことを同い年のセピアは知っていた。
ミデルに会ったことをセピアは二人だけの秘密にしようと言った。
それは、僕が知ってはいけないことを知ってしまったから…?
急にそんなことを思った。
「ラクラ? 大丈夫?」
「僕だけ…?」 
「ラクラ?」
見でるの心配そうな声が僕に聞こえた。
そうだ。だって僕は決して真面目ではないが、授業はちゃんと聞いている。セピアのように知識人じゃなくても、これくらいのことを知らないと王にはなれない。
隠している理由があるのかもしれない。
「ミデル。僕、確かめたいことがあるんだ。そこへ行きたい」
「わかった」
ミデルはそう言って立ち上がる。
「じゃあ、行こう?」
僕は彼女につられ立ち上がったその時、
「あそこにいる! 魔法使いだ!!」
そんな声が暗い路地に響く。振り返るとさっきミデルを追い払っていた人が叫んでいる。後ろには警官のような者もいる。
「走ろう」
僕は彼女の手を繋いで暗い路地から二人、逃げ出した。

12/9/2022, 2:40:55 PM