狼星

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12/4/2022, 12:53:44 PM

テーマ:夢と現実 #22

※この物語は#20からの続編です

ラックは家に帰ってからも彼女のことを考えた。
今日、市場で助けてもらったあの子だ。
「セピア、凄かったな」
僕はベッドに寝転び隣りにいるセピアに話しかける。
「ライト王女。すごく怒っていましたね…」
「違う! そうじゃなくて!!」
僕は母上の話をするセピアに首をふる。
「そうじゃなくて! 市場にあったあの人だよ!」
セピアは何も言わなかった。
「セピア?」
僕は返事がないセピアに問いかける。
「ラック、今日のことは誰にも言っちゃだめだ。僕たち二人の秘密」
セピアがそういった。
「は、? なんで?」
僕は苛立ちを覚えた。
「ラック、怒らないで聞いてほしい。
…この国では、魔法使いは悪魔だと言われているんだ」
僕の眉がピクリと動く。そんなの知らない。
「悪魔である魔法使いは、地下の牢獄に閉じ込められているらしい。そして魔法は、この国の敵に利用されている」
「な、何だそれ」
僕はそう言って、起き上がる。
「これ見て」
そう言われて出されたのは、分厚い本と報道紙の切り抜きだった。
どれも魔法使いを記事にしているのだが、酷い書かれ方をしている。まるで魔法使いは『悪役』のようだ。
「この国は酷く、魔法使いを嫌っている。おんなじ人間なのにな」
セピアは、ため息をついた。
「でも、物語ではよく魔法使いは正義のヒーローの味方側にいるじゃないか!」
僕はそう言って声を荒げる。
「少し前までは魔法使いだって正義の味方だったさ。でも、変わった」
「なんで?」
「わからない」
セピアは頭がいい。僕よりもずっと知識を持っている。
そんなセピアでもわからないなんて……。
「夢と現実は違うんだ。ラック」
「でも、僕はあの人のことかっけーって思う」
セピアは
「はぁ?」
珍しく反抗的な声を上げる。
「僕はこの謎を解いてみせる! 魔法使いとこの国の謎を!」
僕がビシッと人差し指を立て、セピアに宣言する。
「全く、ラックは……」
そう言いながらも口元が緩んでいるセピア。
「ラックは止めても止まらないから、僕も付き合うよ」
そう言うと呆れたように…いや、少し楽しそうに微笑む。
「じゃあ、決まりだな。夢と現実を繋げるために!
魔法使いの未来のために!」


※お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、日付をまたいだ自分だけのリレー小説を書くことにしました。
 まだ、#20を読んでいない方はそちらから読んでいただきたいと思います。
 初めての試みで下手になってしまうかもしれませんが暖かく見てもらえると幸いです。
                   では。狼星

12/3/2022, 12:33:36 PM

テーマ:さよならは言わないで #21

※この話は狼星#21の続編です。

「ラック! 待ちなさい!」
ラックを走り追いかけるのは、ライト・クラベル。光の女王。ラック・クラームは、とても好奇心旺盛だ。
「母上、みてみて~!」
「降りてきなさい! ラック!」
ラックが木に登っているところを見て、落ちないかハラハラしながら見上げて言うライトの内など知らず、そこから手をふるラック。
ラックは時期、国王になるべき者。こんなにも天真爛漫では、他国との貿易の交渉の際など、どうするのだと、頭を抱えるライト。
「大丈夫かい? ライト」
ライトの方に手をおいたのは闇の帝王、ブラック・ゾアーク。
「あなたからもなにか言ってちょうだい!」
ライトはラックを指さし言った。ブラックは少し考えて、
「怪我はするなよ」
そう一声。それに唖然とするライトとラックは
「わかったよ! 父上!」
そう手を振る。

「いけないよ、ラック…。こんなこと…」
「いいんだよ、これくらい。母上にバレなければ」
月日が経ち、ラックは17になった。
しかしラックの天真爛漫さは、欠けることなくそれどころか年をとるに連れ、増していったように感じる。
今は王宮の外の市場へやってきている。
「早く帰りましょうよぉ…」
弱気にそういうのは同い年のセピア・ラードル。彼は、王宮にいる執事の一人の息子だ。
学校へ通うようになったため、王宮外へ出るのはもちろん。学校なので、執事を入れることはできない。だから護衛として彼、セピアがいるのだが…。
「まだ帰らない! 帰ったところで母上に勉強、勉強と口うるさく言われるだけだ」
そう言って、ムッとする。
その時、
「おい! そこのやつ!!」
急に後ろから大きい声が響く。セピアはビクッ! っと肩を上げる。しかし、ラックは変わらず歩き続ける。
「お前だよお前! 止まれ!!」
そうしてその声とともにラックの肩をグイッと掴んだ。
「なんで止まんねぇんだよ!」
ラックはその声の元を見る。大柄の男だった。知り合いというわけでもなく、初対面だ。
「なんか、気に食わねぇ面だな」
周りがガヤガヤと騒ぎ出す。
「あの男、知ってるわ」
「えぇ、いつも怒鳴って暴力を振るう男」
ふーん…有名なやつか。僕はそう思っていると
「おい! よそ見してんじゃねーよ!」
そう言って胸ぐらを掴まれる。
どうしようか、この服をちぎってここから逃げることはできるだろうけど…。母上に怒られるな…。
なんて考えていると、男の拳が降ってくる。あれ、これやばいんじゃね?
そう思って目をつぶる。
ーーバリン!
そこに何かが割れる音が聞こえる。
「いくら暴力が好きだからといって、まち行く人をターゲットにするのは良くないと思うよ?」
そこに凛とした声が響く。
「何だって? そこの女?」
そう言って、ギロリと視線が向いたかと思うと
「"弱体化魔法"」
またその声が響く。すると男の胸ぐらを掴む手が緩み、僕は地面に足をつける。
「今のワタシに君が勝てるとは思えないけど?」
一人の小柄な女性が人々の間から出てきて男の前に立つ。黒いローブを羽織っている彼女の顔はよく見えない。男は彼女に拳をもう一度振り上げる。
「何を!!」
僕が彼女をかばおうと前に行こうとした。が
「ふーん。いいよ? 絶対、私に勝てないけど」
それよりも先に男の拳を彼女の黒い手袋が付けてある細い手で受け止めたのだ。
「な、何!?」
男の口からポロリと本音が漏れる。
「ほーら、勝てないと言ったでしょう?」
「こ、この!!」
そのままその手をギュッと握りしめる彼女。
「まだやるのー? じゃあ、"強力化魔法"」
そう呟く。
「あ、が…」
苦しそうにそういう男は彼女から逃げるように去っていった。
「大丈夫かい?」
そう言って彼女は僕に手を差し伸べた。恐る恐る手を取ると
「そんなに怯えなくても大丈夫。魔法は解除したから」
ふふふっと笑いながらそういった彼女のローブを深く被っていて、口元しか見えなかった。
「あ、ありがとう」
「あぁ、別に気にするでない。散々だったな」
そういってクルリと方向転換し、僕に背を向け歩き出す彼女。
「さ、さよなら」
僕の言葉に足を止め
「少年、さよならは言わないで」
そう否定する。そして振り返り
「また会おう」
そう一言残し、去っていた。
僕はその時思った。かっこいい、と。

※このあと王宮に戻ったラックはこっぴどくライトに怒られた。

12/2/2022, 2:33:09 PM

テーマ:光と闇の狭間で #20

ある国に一人の少年。次期、国王になる少年だ。
その少年の親は、
光の女王ライト・クラベルと
闇の帝王ブラック・ゾアーム。
まさに、光と闇の狭間に生まれた子供だった。
光と闇。王国にはかつて対立し、日が昇っているときは光が、日が沈むと闇が、この国を支配していた。
時が過ぎ、そんな呪縛も解け始める頃、二人は出会った。
そして光と闇がともに助け合うそんな国を作ろうと誓ったのだ。
もちろん親は大反対。
しかし、二人は引き下がらなかった。そんな二人にとうとう親もおれた。
国民にそのことを伝えると、不満や不安の声も上がった。そして一人が言った。
「両国の国王は誰になるのか」
と。
二人は思った。それなら、私たちの子供に託そう、と。
そして生まれたのが、ラック・クラーム。
彼は光と闇、どちらへ傾くのだろうか。
国民からの期待は高まっていた。

12/1/2022, 11:40:10 AM

テーマ:距離 #19

ドク、ドク、ドク……
うるさいぞ…私の心臓。
私はキュッと体を縮める。
「どうした? 寒い?」
そう聞くのはクラスメイトの男の子。
「あ、いや……そうじゃなくって…でふ」
噛んだ…。噛んでしまった。私は耳が暑くなるのに気が付き急いで隠す。
「大丈夫?」
「大、丈夫」
私は身をさらに縮める。
どうしたんだろう私。寒いはずなのに暑い。
それになんか…見られない…。
こんなのおかしい。私、熱でもあるのかな…。
「本当に?」
私の顔を覗き込んだその子と目が合う。
あまりの距離の近さに驚き、後退ろうとする。
「痛っ!」
後ろにある壁に、頭を思いっきりぶつける。
「プッ」
その時、その子の吹き出す声が聞こえた。
「やっぱ、かわいいなぁ…」
その言葉にわかりやすく動揺してしまう私。
「やっぱ無理。可愛すぎ」
「え…?」
私が顔をあげるとすぐ近くにその子の顔。
距離近っ…。私がそう思って目を瞑る。
「このまま、連れて帰りたい」
私は気がつくと、その子の腕の中に収まっていた。
ドク、ドク、ドク……
どんどん上がっていく心拍数。
絶対バレている距離感。

これは恋なのかもしれない。

11/30/2022, 1:25:36 PM

テーマ:泣かないで #18

「泣かないで」
そんな言葉を言われるのが怖い。
泣いたらだめ、我慢しなくちゃ。
そうしてできたのは、笑顔のお面。
「いっつも笑っているね、あなたは」
よく友達に言われる。
私はすぐに泣いてしまう。それを知らない友達はそれが笑顔というお面だということを知らない。
このお面を取ってしまえば、私は泣き出してしまうだろう。今まであったつらいこと、悲しいこと、腹が立つことを思い出して…。
「泣いてもいいんじゃない?」
そんな言葉を待っているなんて知らない。
みんな、そんな言葉を待っているのかもしれない。

「泣いてもいいんじゃない? 
泣いて、泣いて、泣き終わったあと、笑えばいいんじゃない? また頑張ろうって思えればいいんじゃない?」
私は親友にそう言われて、堪えていたものが全て出てしまったことがある。
涙が溢れて、言葉にならない声が口から出る。
そこで私は気がついた。私はいつも笑顔というお面をつけて影では自分の本当の姿を出せずにいたんだって。
初めてだった。自分の感情をこんなにも親友にぶつけたのは。
親友は嫌がらず、ただ頷いて
「頑張ったね」
そう言って背中をさすってくれる。

「泣かないで」じゃなくて、
「泣いてもいいんじゃない?」
苦しいと思っている人はきっとたくさんいる。
泣きたい人だっている。
でも泣けなくて、暗い部屋で一人。孤独に泣いているかもしれない。
そんな人に手を差し伸べられるような物語を私は作りたい。


※♡200ありがとうございます。
 これからも物語を楽しんでもらえると幸いです。

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