狼星

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11/29/2022, 12:47:21 PM

テーマ:冬のはじまり #17

もうすぐでカレンダーが今年最後の月になろうとしている。今年は寒くて、あまり秋という実感がないくらいだった。
冬はまだはじまっていないというのに、今年はあわてんぼうの冬だなと思う。
冬は寒くて嫌いだという人もいるかもしれない。
私は冬が好きだ。冬自体も好きだが、冬に見る景色が好きだ。
朝日が空に登る前の暗さや、息を白い息が出たり、夕方空を見上げると夕日がきれいで、オレンジ色の空や赤く染まった雲が見えたりもする。
山にも雪が積もっているのが見られる。
木の葉は落ちてしまっても、冬にだってきれいな景色はたくさんある。
そんな冬のはじまりを教えてくれる景色が、私は待ち遠しい。



※いつも狼星の作品を楽しんで読んでもらっている方へ
 今日の物語はいつもと違う感じになってしまいました。少し忙しいので、こういうのも多くなってしまうと思いますがまた、余裕ができましたら以前のような物語を書いていきたいと思っています。
 それまで少々時間をいただけるとありがたいです。また、毎日投稿は続けて頑張りたいと思っています。

11/28/2022, 1:42:45 PM

テーマ:終わらせないで #16

ライブ会場全体に響き渡る歓声。
やまない拍手。アンコールの声。黄色い歓声。
私を求めている人がいる。
私のことを待っていてくれた人がいる。
私のことを応援してくれている人がいる。

私はベットにいた。
あぁ、これで何度目だろう。こんな夢を見続けるのは。
私は起きてスマートフォンを起動させる。
見たのは自分の動画のコメント欄だった。
『SaNaの曲、ライブで生で聞いてみたいな〜』
そんなコメントにいくつものGOODマークが押されていた。
私だって、ライブがしたい。みんなに聞いてもらいたいよ。自分の曲を。
私はSaNa。歌い手+作曲家という仕事をしている。
音楽が好きなのは小さい頃から。人前で歌うことを苦手としていたため、最初は歌い手として顔出しもせずに歌を歌ってインターネット上に上げていた。
私のことを応援してくれているリスナーの人のお蔭で、そこそこ有名になり、もうすぐライブも控えていた。
しかし、世界に広がるウイルスの影響でそのライブは中止になった。延期でもなく、延長でもなく、中止。
厳しい現実は夢のように早く覚めてはくれなかった。
自由も制限され、ライブができなくなるアーティストさんが何人もいた。
私の夢でもあったライブ。私はライブで初めて自分の姿をあかすのだとドキドキしていた。怖いという反面、どれくらいの人が私を応援してくれているのかを知るいい機会だった。
そんなライブの中止は、私の心を抉った。

夢で終わらせないで。現実でも実現したい。
心の中の私はそう叫んでいる。
声を出さないライブという選択もあった。
でも、絶対声を出したライブのほうがみんなと一体となれる。私はそう思った。
だから、今は私が一方的ではあるけど音楽をみんなに届けるんだ。
歌い手+作曲家の私が。SaNaが。
いつか、リスナーさんが喜んでくれるような。
ライブを待っていてくれた人たちのために。
私のことを応援してくれている、まだ見ぬリスナーさんのために。

私は今日も音楽を生み出す。

11/27/2022, 1:48:11 PM

テーマ:愛情 #15

「泣くなよ、秋菜」
僕は泣く秋菜の背中をさする。秋菜は僕の妻だ。
「うっ、うっ」
そう言って嗚咽を必死に堪えようとしている秋菜。
ごめんよ、秋菜が泣きたい気持ちだって分かるんだ。
僕たちが先立ってしまったという後悔からの涙だからだ。
僕たちには二人の子供がいた。しかし、子どもたちをおいて死んでしまった。
それは突然のことで、僕も秋菜も気がついたら死んでいた、という感じだ。
神様は僕たちに時間を与えてくれた。でも、制限がある。ずっとここにいる訳にはいかない。
僕たちは今、その子どもたちの前にいる。
もちろん、あちら側からは僕たちの姿は見えていない。
「ごめんね…。ごめんねぇ…」
秋菜はそう言って、息子に近づくが気がつく気配はない。
「ワフ」
唯一僕たちの存在に気がついているものがいた。それは愛犬のハクだ。
ハクはまっすぐに僕たちを見ていた。
「ハク? どうした」
そういったのは、息子だ。
ハクは生きている。だから、子どもたちにも見えている。動物とは不思議なものだ。生きているものも死んでしまっているものも見えるらしい。
息子は、ハクの頭をワシャワシャと撫でた。
「悟」
僕は届くはずのない声で息子の名前を呼ぶ。秋菜は泣いていた。僕だって泣きたい。でもカッコ悪いところは見せたくない。そう思った。
「なんだ? お腹すいたのか?」
そう言ってハクを撫で続ける悟はスーツ姿だ。
僕たちが知っている悟じゃないみたいだった。僕らが知っている悟はもっと小さくて…。
子供の成長とは早いものだということを思った。

もう一人の子供、凛子は自分の部屋にいた。
生きていた頃に入っていたら確実に怒られていた。でも今は、彼女には僕たちの姿は見えていない。
凛子は高校生になった。もうすぐ受験が控えている彼女は勉強をしていた。
「凛子は、努力家だからな…」
僕が言うと秋菜も頷く。
「そして、繊細」
彼女は付け足す。凛子のことを秋菜は僕よりもよく知っていた。よく意見がぶつかり合うこともあったが、それほど仲が良かったということだろう。
シャープペンの音。教科書、ノートをめくるときの髪がこすれる音。
静かな部屋の中は電気がついていて明るいはずなのに、暗く思えた。

「「いただきます」」
数分後、凛子は部屋から出てリビングへ降りていた。悟の姿もある。なんとも言えない空気が流れている。
僕たちがいた前までは、会話がたえなかった食卓も、静かなものだった。
「ワフ」
そこにハクが歩いてくる。そして私達の隣に座る。
「ハク。僕たちのことが見えるのかい?」
僕はそう聞くと
「ワフ」
そう返事をした。秋菜は片手で止まらぬ涙を拭い、もう片方の手でハクを撫でる。ハクには触ることができるらしい。
「ハクもごめんねぇ…。もっと一緒にいられれば…」
そう言うとまた、秋菜の目に涙が浮かぶ。それをペロペロと舐めるハク。
「ハク? 何やってるんだ?」
その行為を見ていた悟がハクに話しかけた。僕たちのことが見えていない彼らにはハクが何もない空間を舐めているようにしか見えないだろう。
「ワフ、ワフ」
ハクは一生懸命伝えようとしてくれてはいるが、きっと彼らにはわからないと思っていた。

僕たちはそこを去ろうとした。ここだけにとどまっていては、秋菜がずっと泣いたままだと思ったからだ。
「母、さん? 父さ、ん?」
悟が不意にそういった。何を思っての言葉かはわからない。その悟が言った言葉に反応した凛子。
「兄ちゃん?」
「なんでだろう。今、ここにいる気がするんだ」
急にあたりを見回し始めた悟。悟は小さい頃からそういうことを感じ取る能力的なものがあった。
生きていた頃は信じられなかったが、本当にわかるのだろうか。
「悟、ここよ!」
秋菜は悟に向かって言っていた。
「母さん! 母さんの声が聞こえる!」
凛子はその場で立ち上がる。その目は僕たちを捉えていた。
「兄ちゃん。そこにお母さんとお父さんが……」
凛子には僕たちの姿が見えているらしい。こんな奇跡あり得るのだろうか。
「え? どこ?」
僕は二人の名前を呼ぶ。
「悟、凛子」
「父さん、聞こえるよ」
反応したのは悟だった。凛子には声は聞こえておらず姿は見えている。悟には姿は見えず声が聞こえるらしい。
「なにか、言っているの?」
凛子はキョトンとしている。近くに来ている凛子には、やはり声は聞こえていない。
「うん、僕たちを呼んでる」
悟は凛子に答える。
「ごめんね…二人とも」
秋菜は泣きながら彼らの頬に触れようとする。その手は虚しくも彼らを通り抜けてしまう。
「大丈夫だよ、母さん。僕たちは僕たちで頑張るから」
悟の頼もしい言葉に鼻がツンとなる。
「父さんたちは長くはいられない。でもな、またいつか会いに来るからな」
僕が言うと、凛子が涙ながらに頷いていた。
神様が遠くで僕たちを呼んでいた。もう行かなくてはいけない。本当は離れたくない。ずっと彼らと一緒にいたい。でも、それはもう敵わない。
だから最後にこれだけ、
「父さんはお前たちを愛している。遠くに離れていても、ずっと家族だ」
「えぇ、そうよ。私達はあなた達のことずっと見守っている。愛しているわ」
それら以降、彼らには姿、声が聞こえなくなっていた。

最後のチャンスをくれたのかもしれない。
神様がくれた最後のチャンス。
僕たちが生前、あげられなかった『最後の愛情』を言う奇跡の時間を。


※この作品は#14の続編です。

11/26/2022, 12:33:03 PM

テーマ:微熱 #14

「ハクー」
そう呼ぶとカチャカチャという音が近づいてくる。
来てくれたのは飼い犬のハク。
帰ってきてすぐ飼い犬に抱きつく。
「いい子にしてたか〜」
僕がそう言って頭を撫で回す。
「ハッハッハッ」
微熱の息が冷えた手にかかる。
外に出るとすぐ、冷え込んだ空気が僕を包む。
でも、ハクが帰えると家にいるということを思うだけで、会社にいるときでも帰りが楽しみで仕方がない。
「いつも遅くなるまで帰ってこれなくてごめんなー…」
僕はワシャワシャと撫でながら言うと
「ワフ」
そう鳴く。本当は少しでも早く帰ってきたいのだが…。仕事にうまく馴れることができない。
「もうちょっと頑張ったら、コツを掴めそうなんだけどな〜」
そう言いながら、玄関からリビングへ移動する。

「あ、おかえり」
そういったのはソファーに座っている妹の凛子。
「ハクと一緒に出迎えてはくれないのかー?」
妹は気だるそうに僕を見る。
「兄ちゃん。いくつだと思っているの? 私のこと。もう17になるんだよ? 反抗期が来てもおかしくない年だとは思うんだけど」
そう言ってはぁ、とため息をつく妹。
妹も妹で大変らしい。
「寝ていても良かったんだよ? こんな遅い時間だし」
「起きていてほしいんだか、寝ていてほしいんだか、どっちかにしてくれる?」
「あ…」
僕は言った後に気がつく。妹は立ち上がると言った。
「いいよ、私もう寝るから」
「あ、うん。おやすみ」
僕がそう言うと、妹はドアを閉める。
「はぁ」
僕はため息をついた。さっきまで妹が座っていたソファーに腰掛ける。するとハクが、ピョンとその隣に座る。
「ハクー…」
僕がそう言ってハクに抱きつく。
「年頃の女の子は難しいよ…」
僕はハクの体に顔を埋めながら呟いた。
この家には今、僕と妹の凛子とハクしかいない。
僕たちの両親は去年事故で亡くなった。僕は家計を保つために必死に働いた。
家庭のこととプラスして、妹のことを考えられる余裕はなかった。ハクは家に来て3年。両親がいなくなったことにハクだって、何かしら感じてはいるだろう。
「ごめんな…。頼りなくて」
僕はそう言ってハクを見る。

今日もレトルトで済ませようかな。そう思って台所へ行くとカレーが作って置かれていた。そばにはメモがあった。
『お疲れさま。温めて食べて。
 お母さんに比べたら下手だけど。 凛子』
そう書かれていた。小さなメモに書かれた凛子の字。
小さなメモではあるが、久しぶりに凛子から手紙をもらった気がした。そう思うと嬉しくなった。
カレーを温め、食べた。母さんの味とは少し違う。でも、美味しかった。
こういうのを微熱の愛って言うのかな。
僕は心のなかで呟いた。
「ワフ」
ハクがそう鳴いて、カレーを見つめている。
「ハクにはあげられないなぁ」
そう言うと言葉が伝わったかのように、しょんぼりとするハク。僕はそんなハクの頭を撫でる。
僕も凛子にお礼の手紙書こうかな。なんて考えながら。
いくつだと思っているの? と言われたときの不満そうな表情が頭に浮かぶ。また、迷惑だと思われるかな? 
でも、少しくらいいよな。家族だし。
僕は、書くものを探し始めた。

11/25/2022, 1:52:30 PM

テーマ:太陽の下で #13

双子の子供がいた。
名前は健太と陽向。
健太も陽向も活発な子だ。
私は彼らを産んだ母。彼らの父親ははやくに亡くなってしまい、私が女手一つで育てている。
再婚する選択もあった。でもそれは、彼らにとって複雑な思いをさせてしまうと思った。

健太と陽向も高校生になった。
二人とも一緒の高校に入った。
健太はサッカー部。陽向は吹奏楽部で、トランペットを吹いている。
私は女手一つだからといって二人を縛るのではなく、自由にやりたいことをさせることにした。
もちろん、やりたいこともやらせるかわりにやりたくないことだってやらせる。
私一人では家事を全て受け負うことはできない。だから、陽向は洗濯、食器洗い。健太は風呂掃除、畑の水やりをやってもらっている。私はそれ以外の仕事をする。
部活で忙しい時、私が仕事で忙しい時はみんなで助け合う。そういう家族だった。

「お母さん」
書類を打ちながらウトウトしているとき、陽向に呼ばれる。
「ん…? なに?」
私が顔をあげると陽向と健太がそこには立っていた。
今日何かあったっけ? そう考えていると陽向が背後に隠していた何かを私に渡す。
「これ…。どうしたの?」
渡されたのは暖色系の花束だった。
「今日は‘’双子の日‘’なんだって」
陽向は、そう言うと今まで黙っていた健太の脇腹を突く。やめろっ! そう言いながらも私を見て、
「俺たちを育ててくれてありがとう」
恥ずかしくなったのか顔を背ける健太の耳は赤く染まっていた。
「いつも仕事頑張って、私達に好きなことさせてくれてありがとう」
陽向もそう言って私に微笑む。
その時思ったんだ。あぁ、頑張ってきてよかったって。そう思うと涙が出てきた。そして思い出した。
「ねぇ、今日は部活休みでしょう? 私も仕事が休みなの。少し話さない?」
二人は頷いた。
私達はソファーに腰掛けると
「さっきね、あなた達を産んだときのこと思い出したの」
「私達を産んだときのこと?」
陽向に頷くと、私は話し始めた。

健太と陽向が産まれた日は、天気が悪かった。
予報では晴れだった。でも、予報は予報なんだなって思った覚えがある。
でも彼は…。彼らの父であり、今は亡き私の夫は
「天気は悪くても、今日は君のハレの日だから」
そう言ってくれたのを覚えている。
そして私は二人を産んだ。
その後すぐ、天気は変わった。
太陽の光が雲の隙間から差し込み、私の病室に影を作る。
夫は言った。
「言っただろう? 今日は君のハレの日だって」
自慢気に言う夫。天気までは、変えられないでしょう? その時は言ったけど、私は生まれた双子の子を見て
「まぁ、そうかもね」
そう呟いた。双子は起きて泣き始める。一方が泣くともう一方も泣き始める。
夫はそれを見てオロオロしていて、それを見ておかしくなって笑う私。それを照らす太陽。
私はそこで、私達は太陽の下で生きているんだなと改めて実感した。
そして、彼らの名前を決めた。
太陽の‘’太‘’を取って健太と、太陽の‘’陽‘’を取り陽向。
私はこの日のことを忘れたくないという思いから彼らにそう名付けようそう言うと、夫も頷いてくれた。

こんなにも大きくなった二人を夫も見ることができたら、どんなに嬉しがっただろう。
気がつくと部屋の窓から太陽の光が差し込んでいる。まるであの日のように。夫が近くにいてくれている気がした。
私は心の中で
『ねぇ、あなた。こんなにもいい子に育ってくれた』
そう話しかける。もちろん返ってくるはずはない。
でも、見ていてくれているよね? 
空の上から、太陽の下にいる私達を。

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