テーマ:セーター #12
ピピピッ…。
アラームが鳴る。私は手探りでスマートフォンを見つけると、時間を見る。
8:00……。
眠い目をこすりながら起き上がる。
「寒…」
身が縮こまる。布団の中とは大違い。床も冷たくなっていた。スリッパを近くに寄せると足を入れる。
冷たい床に足をつけるよりもずっとマシだった。
今日は休み。
ゆるっとした服でいいか〜。
そう思いながらクローゼットに手をかける。
棚を開けていくとセーターが目に入る。
そのセーターには一つの思い出があった。
それは、元カレとの苦い思い出だった。
私はセーターを見るたびに思い出す。
今年も着ないと思っていたのに、セーターは来てくれと言わんばかりに私の視界に入ってくる。
私はセーターを手にベッドに腰掛ける。
元カレは、フラフラとしている人だった。
好きな人ができた〜とか言って、私の元を離れていった。好きな人ができた〜って、私のことは好きじゃなかったわけ? 最初はそんな感じで元カレのことを思っていた。
でも、私は私で彼がフラフラしている人だってこともわかっていた。
でも、私は彼のことを好きだったのだ。
そんなことを思っていると、自分って馬鹿なんだな。
そう思った。同時に悔しくなった。それは彼に対しての怒りというものもあったが、自分の人を見る目に対しての怒りもあった。
その彼が唯一買ってくれたのが、このセーターだった。
『寒くなったから、温かいの着ろよ〜』
そう言いながらくれた。その時は優しいなって、思っていたのにな。
途端に騙されたような気持ちになって、セーターを持つ手に自然に力が入る。本当は捨てようと思っていた。彼との思い出と一緒に。彼を思う気持ちと一緒に。
「セーターはなんにも悪いことしていないのに、ね」
私は苦笑いをした。私はセーターの袖に手を通した。
温かい。捨てるには勿体ない。でも、このセーターを着るたび今日のように思い出してしまうだろう。
早くこの思い出が上書きされるといいのに。
テーマ:落ちていく #11
「星夜は流れ星を見たことあるか?」
学校からのからの帰り道、僕は友達の流星に聞かれた。
「ない、かな…」
「星夜もか…」
僕の答えを聞いて肩を下げる流星。なんで急に流れ星?と思っていると
「じゃあ、俺たち初めて見られるんだな」
そうニカッと笑って流星が言う。
「初めて『見られる』?」
キョトンとして聞くと流星はそんな僕に
「げ…。星夜知らないのか? 今日はリュウセイグンが通るんだぞ」
「リュウセイグン?」
流星は呆れたように首をふる。
「なぁ、俺たちもう小3だぜ? リュウセイグンくらいわかるだろ。流れ星が降るんだよ! 大量に!!」
流星は大きく手を広げて言った。
「とーちゃんが言ってた。今日は流れ星が大量に降るリュウセイグンなんだってさ!」
大量に大量にと、連呼する流星を見て大量に降るのは雨だけじゃないのか? と疑問を浮かべる。
流れ星すら見たことがないのにリュウセイグンが見られると言ってもあまりピンとこない。
「今日は絶対、夜、そら見ろよ!」
僕にそう言って帰っていく流星。
流星はリュウセイグンのことで頭がいっぱいみたいだ。
僕は想像した。
星なんて降ってきたらどうなるんだろう。星は夜空にあってキラキラ光っているけど、そのまま降ってくるのだろうか。
うーんどうなりながらも、最近買ってもらった辞書でリュウセイグンと引くと『流星群』というのが目に入る。
なんだか難しいことが書いてあってわからなかった。
でも、見てみたくなった。流星群を。
寒いな…。
冬空の下、外で流星群が来るのを待っていた。
僕はハーッと手に息をかける。
まだかな、流星群。
僕が視線を上に向けるとそこには
「わー……。きれい」
僕は初めて見た。星が落ちていくのを。
その景色は綺麗だった。凄く、凄く。
僕が想像していたのとは少し違ったけど、星が落ちるのを初めて見た。
「流星。今年も星が降るよ」
僕は高校生になった。
流星は中学の頃、病気で急にいなくなってしまった。
流星群はそんなに頻繁に来ない。
でも、今年はまた降るらしい。今日は、流星の命日だ。
「本当は、流星と一緒に見たかったんだけどな」
僕は夜空を見上げる。
すると、キラッと星が光ったかと思うとそれが落ちていく。それをきっかけに幾つもの星が落ちていく。
それはとても神秘的なものだった。
しかし、それがだんだん滲んでいった。
「あれ? なんで」
僕は下を向いた。奥歯を食いしばる。
「なんで……。僕は」
ポタリと地面に落ちたのは星ではなく。僕の涙だった。
テーマ:夫婦 #10
僕は誰かと結婚するんだろうか。
「将来結婚したいか。 Yes・No」
そんな問いが書かれたアンケートが朝のSHRで回ってきた。
将来のことなんて考えられない。
今のことで精一杯なのに、結婚したいかなんて分からなかった。
少子化が進んでいる。そんな言葉を聞いたことがあった。授業でも取り入れられていた。
なぜ今、こんな調査をするのかが分からなかった。
高校では、隣のクラスのAちゃんとクラスメイトのBくんが付き合っているだとか、お金持ちの年上彼氏がいるクラスメイトなんかもいるらしい。直接それを聞いたわけじゃない。風の噂だ。
彼氏とか、彼女とか。正直どうでもいいと思っていた。自分以外の誰かの話なんて、聞いても自分が参考になることはないし、好きになるかなんてその人自身にしかわからない。
だから、そういうことに関心を持ったりしたことはしなかった。でも、こうして向き合ってみると困った。
ただのアンケートなのに。
結局アンケートには、Noの方に○をつけた。
どれくらいの人がYesの方に○をつけたのだろうか。
授業を受けているときはそんなこと忘れていた。
帰り道、腕を絡ませて歩くカップルを見て思い出した。
あのカップルは結婚するんだろうか。結婚して夫婦になって、やがて家庭をもつのだろうか。
気がつくとそのカップルをじぃっと見つめてしまっていた。
やっぱりこういうことを考えるのは、まだ早いのだろうか。それとも僕が遅れているのだろうか。
いつか僕にも彼女ができて、結婚して夫婦になって。
僕はその時、幸せなのだろうか。
今よりも毎日が楽しいのだろうか。
将来どうなるかなんてわからない。不安もある。
でも、将来の僕が幸せなんだったらそれでいいや。
細かいことは考えない。
もしも、本当に好きな人ができたらその人を大切にしたいな〜。なんて、理想を浮かべながら家へ帰った。
♡100達成!ありがとうございますm(_ _)m
これからもよろしくお願いします。
テーマ:どうすればいいの? #9
どうすればいいの?
僕がこうして時間を過ごしている間にも
失われていく命があることを
どうすればいいの?
僕がこうして時間を過ごしている間にも
僕よりも小さい子が泣いていることを
どうすればいいの?
僕がこうして時間を過ごしている間にも
悲しくて、辛くて涙を流す人が
世界には沢山いるということを
どうすればいいの?
どうすれば沢山の人を救える?
どうすれば沢山の人と手をつなげる?
どうすれば沢山の人の悩みをわかってあげられる?
どうすれば沢山の人の涙を拭ってあげられる?
僕には物語を作ることしかできないけれど
誰かを救うことはできないかもしれない
誰かの悩みを理解して
誰かと一緒の立場になることはできないかもしれない
それでも僕は物語を書き続ける
沢山の人に僕の物語を読んでもらって
少しでも辛い日々を忘れられるように
少しでも楽しんでもらえるように
少しでも沢山の人が笑顔に明日が迎えられるように
少しでも沢山の人が救われたら
少しでも僕の物語を読んで
笑顔になってくれたら
僕は幸せだ
テーマ:宝物 #8
日々、人間は記憶する。
楽しいこと、嬉しいこと。
一方で苦しいこと、寂しいことも、平等に。
忘れてしまいたい過去ほどよく覚えていたりしてしまうのは苦痛だ。
でも、私は違った。
覚えていたくても覚えていられない私の話。
「おはよ〜、遥」
「あ、おはようございます」
私は声をかけられて反応するが、考える。
この人は誰だろう。私を知っている人なんだろうけど…。
「あ~…。私、未知! 遥の友達ね!」
「未知、さん?」
「未知でいいよ〜」
私は戸惑いながらも彼女を見つめる。
「あの、ごめんなさい。私…」
「あー…知ってるよ。だから謝らないで?」
未知は私の記憶が消えることを知っているようだ。
未知とあったのは、病院の庭のようなところ。広場と言ってもいいだろう。
「未知は、どうしてここに?」
私が聞くと未知は、少し寂しそうな顔をしてから
「うーん……。友達を待っていたの」
「友達…」
「そう」
彼女は指を絡ませる。その指は細く白い。彼女自身もなにかの病気なのだろう。
「その子は、記憶が消えちゃうの」
私は彼女の言葉を聞き頷く。私と同じような症状の子はきっとたくさんいる。その中の誰かなのだろう。
「その子と私は、色んな話をする。基本的には私が一方的に話すんだけどね」
彼女はそう言って足をプラプラと揺らす。
「その子といるときは、私が私でいられるの」
彼女は不思議なことを言う。
「なぜ?」
私が聞くとうーん……と唸ってから
「なんでだろうね」
そう微笑む。
「もう今日は、病室に戻ろうかな」
彼女は青白い顔をして言った。
「大丈夫?」
私が聞くと彼女は
「うんうん、大丈夫」
そう言いながら病棟の方へ戻ろうとした。その時
「あ…」
彼女の体が倒れていく。
ドサッと音がなった。周囲には人がいない。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……
私は頭が混乱した。ひとまず声を出そうとした。
「ぁ、」
掠れた声が小さく出ただけ。これじゃあだめ……。
私は深く息を吸う。
「だれか、誰かぁー!!」
私は叫ぶ。誰かが私の声に気づいてくれるように
「誰かぁー!!」
誰も来てくれない。私は、目の前に倒れている未知を見る。そして彼女の手の近くに紙が落ちていることに気がつく。私はそれを見る。
【未知は、私の親友。 遥】
それは私の字だった。その時ドックンと心臓が脈を大きく打ったのを感じた。
私は未知の親友。その言葉が頭の中でぐるぐると渦巻く。
「未知、未知!!」
私は彼女の体を揺らす。
「遥さん!!」
朝、検温をしてくれた看護師さんだ。
「未知が! 未知が!!」
私はそう言って看護師さんに叫ぶ。看護師さんはたくさんの医療関係者を広場に集めた。みんな未知を取り囲んだ。
私は手にある紙をもう一度見る。すると、何かが動き始めるかのように頭の中に流れ込んできた。無くしたはずの記憶という宝物が。
『私は、遥』
『私、未知』
『友達を待っているんだ』
『友達は記憶がなくて……』
『私、この広場の木が好きなの』
『私も好き』
『待っているね、この木の下で』………
「あ、遥さん。大丈夫?」
私はいつの間にか自分の病室に戻っていた。
大切な何かを忘れている気がする。
大事なもの…忘れてはいけないもの…。
私が何よりも大切にしないといけないもの。なくてはいけないモノ…。
カサッと手の中で音がなった。私は、音のした方を見る。
視界が曇る。それがポロポロと目からこぼれた。
涙…?
私は息が上がる。なに…?なに…。この高まる感情は…「遥さん!?」
私の体は動いていた。看護師さんの声が聞こえる。行かなくちゃいけない。どこかに。
私は階段を下がる。私が向かった先は広場だった。
なんだっけ、なんだっけ…。私が忘れちゃだめなもの。私の大切な宝物。
「遥」
そん声が聞こえた。私のすぐ近くで、聞き覚えがある気がする。あぁ、私はまた忘れてしまっていたみたい。ごめんなさい。
でも、もう忘れないから。大切なものは持っているから。だからあなたも…。
「未知、待っていてくれてありがとう」
私は彼女を見た。彼女も私を見ていた。そして彼女は私に抱きついた。私も未知の背中に手を回す。
彼女は泣いていた。私も泣いていた。
忘れたい過去、悲しい記憶忘れたいかもしれない。
でも、今いる私はその過去の先に存在している。
どんなにつらい過去があったとしてもその先にいるのが未来の私。
だから私にとって、宝物は記憶だと思う。
思い出だと思う。