狼星

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テーマ:微熱 #14

「ハクー」
そう呼ぶとカチャカチャという音が近づいてくる。
来てくれたのは飼い犬のハク。
帰ってきてすぐ飼い犬に抱きつく。
「いい子にしてたか〜」
僕がそう言って頭を撫で回す。
「ハッハッハッ」
微熱の息が冷えた手にかかる。
外に出るとすぐ、冷え込んだ空気が僕を包む。
でも、ハクが帰えると家にいるということを思うだけで、会社にいるときでも帰りが楽しみで仕方がない。
「いつも遅くなるまで帰ってこれなくてごめんなー…」
僕はワシャワシャと撫でながら言うと
「ワフ」
そう鳴く。本当は少しでも早く帰ってきたいのだが…。仕事にうまく馴れることができない。
「もうちょっと頑張ったら、コツを掴めそうなんだけどな〜」
そう言いながら、玄関からリビングへ移動する。

「あ、おかえり」
そういったのはソファーに座っている妹の凛子。
「ハクと一緒に出迎えてはくれないのかー?」
妹は気だるそうに僕を見る。
「兄ちゃん。いくつだと思っているの? 私のこと。もう17になるんだよ? 反抗期が来てもおかしくない年だとは思うんだけど」
そう言ってはぁ、とため息をつく妹。
妹も妹で大変らしい。
「寝ていても良かったんだよ? こんな遅い時間だし」
「起きていてほしいんだか、寝ていてほしいんだか、どっちかにしてくれる?」
「あ…」
僕は言った後に気がつく。妹は立ち上がると言った。
「いいよ、私もう寝るから」
「あ、うん。おやすみ」
僕がそう言うと、妹はドアを閉める。
「はぁ」
僕はため息をついた。さっきまで妹が座っていたソファーに腰掛ける。するとハクが、ピョンとその隣に座る。
「ハクー…」
僕がそう言ってハクに抱きつく。
「年頃の女の子は難しいよ…」
僕はハクの体に顔を埋めながら呟いた。
この家には今、僕と妹の凛子とハクしかいない。
僕たちの両親は去年事故で亡くなった。僕は家計を保つために必死に働いた。
家庭のこととプラスして、妹のことを考えられる余裕はなかった。ハクは家に来て3年。両親がいなくなったことにハクだって、何かしら感じてはいるだろう。
「ごめんな…。頼りなくて」
僕はそう言ってハクを見る。

今日もレトルトで済ませようかな。そう思って台所へ行くとカレーが作って置かれていた。そばにはメモがあった。
『お疲れさま。温めて食べて。
 お母さんに比べたら下手だけど。 凛子』
そう書かれていた。小さなメモに書かれた凛子の字。
小さなメモではあるが、久しぶりに凛子から手紙をもらった気がした。そう思うと嬉しくなった。
カレーを温め、食べた。母さんの味とは少し違う。でも、美味しかった。
こういうのを微熱の愛って言うのかな。
僕は心のなかで呟いた。
「ワフ」
ハクがそう鳴いて、カレーを見つめている。
「ハクにはあげられないなぁ」
そう言うと言葉が伝わったかのように、しょんぼりとするハク。僕はそんなハクの頭を撫でる。
僕も凛子にお礼の手紙書こうかな。なんて考えながら。
いくつだと思っているの? と言われたときの不満そうな表情が頭に浮かぶ。また、迷惑だと思われるかな? 
でも、少しくらいいよな。家族だし。
僕は、書くものを探し始めた。

11/26/2022, 12:33:03 PM