狼星

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テーマ:さよならは言わないで #21

※この話は狼星#21の続編です。

「ラック! 待ちなさい!」
ラックを走り追いかけるのは、ライト・クラベル。光の女王。ラック・クラームは、とても好奇心旺盛だ。
「母上、みてみて~!」
「降りてきなさい! ラック!」
ラックが木に登っているところを見て、落ちないかハラハラしながら見上げて言うライトの内など知らず、そこから手をふるラック。
ラックは時期、国王になるべき者。こんなにも天真爛漫では、他国との貿易の交渉の際など、どうするのだと、頭を抱えるライト。
「大丈夫かい? ライト」
ライトの方に手をおいたのは闇の帝王、ブラック・ゾアーク。
「あなたからもなにか言ってちょうだい!」
ライトはラックを指さし言った。ブラックは少し考えて、
「怪我はするなよ」
そう一声。それに唖然とするライトとラックは
「わかったよ! 父上!」
そう手を振る。

「いけないよ、ラック…。こんなこと…」
「いいんだよ、これくらい。母上にバレなければ」
月日が経ち、ラックは17になった。
しかしラックの天真爛漫さは、欠けることなくそれどころか年をとるに連れ、増していったように感じる。
今は王宮の外の市場へやってきている。
「早く帰りましょうよぉ…」
弱気にそういうのは同い年のセピア・ラードル。彼は、王宮にいる執事の一人の息子だ。
学校へ通うようになったため、王宮外へ出るのはもちろん。学校なので、執事を入れることはできない。だから護衛として彼、セピアがいるのだが…。
「まだ帰らない! 帰ったところで母上に勉強、勉強と口うるさく言われるだけだ」
そう言って、ムッとする。
その時、
「おい! そこのやつ!!」
急に後ろから大きい声が響く。セピアはビクッ! っと肩を上げる。しかし、ラックは変わらず歩き続ける。
「お前だよお前! 止まれ!!」
そうしてその声とともにラックの肩をグイッと掴んだ。
「なんで止まんねぇんだよ!」
ラックはその声の元を見る。大柄の男だった。知り合いというわけでもなく、初対面だ。
「なんか、気に食わねぇ面だな」
周りがガヤガヤと騒ぎ出す。
「あの男、知ってるわ」
「えぇ、いつも怒鳴って暴力を振るう男」
ふーん…有名なやつか。僕はそう思っていると
「おい! よそ見してんじゃねーよ!」
そう言って胸ぐらを掴まれる。
どうしようか、この服をちぎってここから逃げることはできるだろうけど…。母上に怒られるな…。
なんて考えていると、男の拳が降ってくる。あれ、これやばいんじゃね?
そう思って目をつぶる。
ーーバリン!
そこに何かが割れる音が聞こえる。
「いくら暴力が好きだからといって、まち行く人をターゲットにするのは良くないと思うよ?」
そこに凛とした声が響く。
「何だって? そこの女?」
そう言って、ギロリと視線が向いたかと思うと
「"弱体化魔法"」
またその声が響く。すると男の胸ぐらを掴む手が緩み、僕は地面に足をつける。
「今のワタシに君が勝てるとは思えないけど?」
一人の小柄な女性が人々の間から出てきて男の前に立つ。黒いローブを羽織っている彼女の顔はよく見えない。男は彼女に拳をもう一度振り上げる。
「何を!!」
僕が彼女をかばおうと前に行こうとした。が
「ふーん。いいよ? 絶対、私に勝てないけど」
それよりも先に男の拳を彼女の黒い手袋が付けてある細い手で受け止めたのだ。
「な、何!?」
男の口からポロリと本音が漏れる。
「ほーら、勝てないと言ったでしょう?」
「こ、この!!」
そのままその手をギュッと握りしめる彼女。
「まだやるのー? じゃあ、"強力化魔法"」
そう呟く。
「あ、が…」
苦しそうにそういう男は彼女から逃げるように去っていった。
「大丈夫かい?」
そう言って彼女は僕に手を差し伸べた。恐る恐る手を取ると
「そんなに怯えなくても大丈夫。魔法は解除したから」
ふふふっと笑いながらそういった彼女のローブを深く被っていて、口元しか見えなかった。
「あ、ありがとう」
「あぁ、別に気にするでない。散々だったな」
そういってクルリと方向転換し、僕に背を向け歩き出す彼女。
「さ、さよなら」
僕の言葉に足を止め
「少年、さよならは言わないで」
そう否定する。そして振り返り
「また会おう」
そう一言残し、去っていた。
僕はその時思った。かっこいい、と。

※このあと王宮に戻ったラックはこっぴどくライトに怒られた。

12/3/2022, 12:33:36 PM