狼星

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テーマ:愛を注いで #31

※この物語は#20からの続編です

「おまたせ」
僕が小屋に入っていくと、隠れていたミデルが顔を出す。
「その荷物は?」
ミデルは僕のカバンを見て言った。
「僕、ちょっと旅に出ようと思って」
そう言ってカバンをポンッと叩き、ミデルをもう一度見てギョっとした。
「ど、どうしたの?」
ミデルは泣いていた。声を押し殺してはいたが、ポロポロと溢れている大粒の涙とぎゅっと結んだ口元で泣いていることがわかった。
「なんで泣くの?」
僕は慌ててミデルに駆け寄ると
「ごめんなさい」
小さな震える声が聞こえた。
「なんで謝るの?」
「私のせいよ」
彼女は言った。黒い手袋をはめた手で顔を覆う彼女。
「私があなたに話さなければ、こんなことには…」
小さく肩を揺らす彼女はどうやら自分のせいで僕が旅に出ると思っているらしい。
彼女の思っていることは半分正解。しかし、
「それは違うよ、ミデル」
僕が彼女の肩に触れると続けた。
「僕がこうしたいからこうしたんだ。ミデルのせいじゃない。自分が選んだ道なんだ」
「自分が選んだ道…?」
「そう。だから後悔しても自分のせい。ミデルは自分を責めないで」
僕がそう言うと彼女は首を縦に振った。

ローブをミデルのように深く被り、小屋を出ると僕はもういつ帰るかわからない王宮を見上げた。
高く、大きく、きれいな城だ。
ただこの城を支えているのは、様々な人々だ。
その人々を一括りに考えるのではなく、どんな人がいてどんなことを思い日々過ごしているのかを知りたいと思った。
もしかしたら、簡単なことではなくこの先、困難なことが待ち受けているかもしれない。
それでも僕が目指すこの国の王は、そんなことを乗り越え人々に安心して暮らせる国を作る人だ。
人々へ平等に愛を注ぐ人だ。
その第一歩が今日としたら。
踏み出すきっかけが隣りにいるミデルなら。
どんなに素敵なことだろうか。

12/13/2022, 12:37:44 PM