狼星

Open App

テーマ:ベルの音 #38

※この物語は#20からの続編です

ベルの音がどこからか聞こえる。
この音を聞くと自然にクリスマスを連想する。
「なんの音?」
隣にいたミデルがあたりをキョロキョロと見回している。
「ベルだよ」
「べる? それは何?」
ミデルは首を傾げる。ベルも知らないのか?
ミデルはイルミネーションといい、ベルといい知らないことが多いな…。それくらい、地下牢の労働には余裕がなかったのだろうか。
僕は、ミデルに過去の生活について問うことはなかった。なぜなら、ミデルにとっていい過去ではないと思ったからだ。
いつか、自分から話してくれる日が来るんじゃないかと心の中では思っている。
「ベルは楽器だよ」
「吹くの?」
「ううん、振るって言ったほうがいいのかな…?」
僕はベルのある体で腕を振ってみせた。
「そうやって音を鳴らすんだ…」
不思議なものもあるものだと言うような表情でまじまじと僕を見つめてから、鳴っているベルの音に耳を傾けている。
「ミデル、もうすぐクリスマスだね」
僕がそう言うと頷く彼女。昨年よりもゆとりがあるからこんなことにも視野を向けられる。
今年のクリスマスは何か、ミデルにプレゼントしよう。そう心の内で思った。
冷たい風に乗せて、ベルの明るい音がなる。

12/20/2022, 1:54:28 PM