彩士

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6/18/2025, 10:50:28 AM

稀に自分は操り人形なのではないかと思う時がある。
指や、肘や、頭や、首の付け根から、目に見えない銀の蜘蛛の糸を介してどこかに吊り下げられているのではないか、と思うことがある。

それは、笑っていたのにどこか冷静になってしまった時だったり、本心とは異なる行動をしてしまった後だったり。

感情というものが自分の中にある限り「人形」ではないのかもしれない。ただ操られているからと責任逃れをしたいだけなのかもしれない。

ただ、今生きている世界が誰かの書描いた人形劇の一場面で自分はその世界を成り立たせるための構成員であるのなら、もっと生きやすくなるのかもしれない。

赤っ恥をかこうが絶体絶命の場面になろうが、これは虚構であるのだから人に影響されず、好きに行動していけるのかもしれない。

まあ、自分が作り物だとするならこの世界を作った作者はかなり変な人なのだろうと思う。

そんな変な人の立ち位置を奪い取ってやる、と思うくらいには自分は生意気なガキのまま居続けたいと思う。

6/9/2025, 8:37:52 AM

もしも、水たまりの中に世界があったなら、
僕たちの生活はどのように映っているんだろう。

ぼやけた視界の中で、ネオンの色がギラギラと光っていて、明確な色の区分けなんてないのだろうか。信号の鳥の鳴く音がブクブクと聞こえるのだろうか。

眼鏡をかけた時みたいに、はっきりくっきり全てのものが綺麗で美しく見えるようになるのだろうか。小さな女の子が可愛らしい長靴で踏み込んできたときは、靴裏の溝が隅々まで見えているのだろうか。

雨が降っているときの水たまりは、構成要素となる水が上から降りてくる。もし彼らに感情があるのなら、「こっちだよ!待ってたよ!」なんて言っているのだろうか。そんなことがあるのなら、雨になってみてもいいな。蒸発しながら世界を見渡して、そしてまた降りてくる。きっと面白い。

空が晴れ渡り、道端に残った水たまりは、僕たちの住む世界が普段見ているものよりも一見美しく映し出しているように思う。雲ひとつない空と太陽の光を反射しているこの小さな鏡。

しゃがんで少しの間じっと眺めてみよう。
疲れ切って、余裕がない僕たちが見落としていた豆粒みたいなこの世界の素晴らしさに気づけるかもしれない。

6/3/2025, 11:21:22 AM

ぽたぽたと頬を伝って紙に落ちていくものはなんだろう。じんわりと広がって、インクが滲む。

「あれ?」

なんでだろう。止まることなく紙に染み込んでいく。少しひんやりとした乾燥した右手を目尻に触れる。ああ、泣いてるんだ。もう何十年もご無沙汰だった。こんな感じだったか。

手紙なんて書くもんじゃないな。自分に正直になってしまう。自覚してなかった感情までもが赤裸々になっていく。明らかになった自分の気持ちに納得すると同時に、知らなければ良かった、と思ってしまう。

ああ、結婚おめでとうって書かないと。新しい紙に書き直さないと。

本当はずっと好きだったって、あの時の約束を私だけはずっと覚えてたって、迎えにきてくれるのを待ってたって、そんなことここに書いちゃいけない。

ただ、招待してくれてありがとう。結婚おめでとうって。

昔からそうだった。
私の話なんてちっとも聞いてない。話をして満足して、数日後に同じ話をしてくる。もう聞いたよって言ってもそうだっけ、って。なのに、頼るときは必ず私だけに聞いてきて、他の人の前で私たちはちょっと特別な関係だって匂わせて。他の人には伝わらない話を振ってきて。

幼稚園の時の約束は無効なんて言わないでほしい。大学まで私たちずっと一緒だったのに。合格発表の瞬間も一緒に過ごしたのに。

きっと一瞬たりとも、あの人の特別にはなれても一番ではなかったんだ。

ああ悔しい。誰かの一番になりたい。

5/13/2025, 11:38:57 AM

夕焼けに照らされた海はほんの少しだけひんやりとしている。足首まで浸かったままバシャバシャと歩いてみた。水の中でジャリジャリと鳴る砂の音が心地よい。
膝まで捲し上げた淡い緑色のズボンのすれすれまで進む。つい先程まで見えていた自分の足の指が見えなくなった。濁りきっている。

「水は記憶を保持する」とどこかで聞いたことがあるけれど、本当にそうなのかな。今、わたしがたった一人で海にいることも覚えていてくれるのかな。そうだったらいいな。

「あ、今日満月か」

満月だからといって別に大したことはしないし、何も思いもしないけれど突然思い浮かんだ。月を目の前いっぱいにみてみたいな。宇宙服とかロケットとかそういったものに何も捉われないで、ただこの単身だけで宇宙旅行に行ってみたい。
空気もない、水もない空間から帰ってきて、この地面と海と太陽の下での日向ぼっこを満喫したい。
できっこないけど。

空の藍色と海の深い青色が同じになって
満月の光の道が海上に見えた頃に家に帰ろう。

それまではここでわたしの昔話でも聞いてくれないかな。ちょっと今寂しいの。

4/13/2025, 11:34:15 AM

ぷつん、と音もなく舞い落ちる花びらを今年は何度見ただろう。満開に花ひらいて、多くの人に見られる場所に生えているものとは異なり、僕の前に佇む小さな木は、きっと通りすがりに一目。その一瞬、注目を浴びただけであっという間に忘れ去られてしまうだろう。

新学期。
新しい学年、学校、仕事場。
つんざくような冬の寒さとは一変、後味残る冷えとともにふわふわとした暖かさが身体を覆う。

挿し木されて数年のこれは、僕が生きている間にどれほど大きくなるんだろう。悩み、誰かとの幸せを見つけて、一人でもいい、ずっとじゃなくていい、笑えるその時が来るだろうか。それを僕の横でずっと見守ってくれるのだろうか。

ヘルメットを被ったまだ不恰好な制服をした中学生が、自転車で横を走り去った。

風が立つ。

目の前のひとひら

ぷつん

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