お金がまったく無い生活はきっとこの社会では生きにくい部類にはいるのだと思う。
家を持つのも、飯を食うのも、金がかかる。
人の優しさを少しずつありがたく受けながら細々と暮らしていくには、不審者だったり、人からやんや言われたりして上手くいかない世の中になった。
お金よりも大切なものかー。
なんだかんだ人との繋がり、なんじゃねぇか。
一人で生きていくことはできるさ、そりゃ。
一人で生活して、YouTube見て、Twitterに浸かって、アマプラで好きなものばかり見ていれば、ある程度の幸せは得られんじゃねぇのか?
ただ、それでも。
人との会話がないと正常な客観的な考えを得られなくなっていく。
ぐるぐると悪い方へと思考が偏っていく。
悪いとその時は思っていないがな。
もちろん、関わったら逆効果な人間もいるから、
その判断が難しいし、一人の方がいいじゃないかという意見が生まれるのも一理ある。
でもそれは極端な思考で、すでに君が一人思考に陥りかけているかもしれない。
たくさん話す必要はない。
レジの店員にお願いします、とかありがとうございます、とか誰でもいいし、なんでもいい。
こんな会話とか繋がりを少しずつ保っていくメンタルが大切だなー。
つつ、つ、
冷え込み始めた朝方、馴染み親しんだこの景色を見られるのは今日で最後なのだと名残惜しく思う。
薄暗くも、雲のない空を見上げてふっと息をつく。
じっくりと目を凝らさなければ、気付かないほどの息白が最近になって現れてきた。
日光と触れた一葉が紅く、山吹に染まるころ突如として私の結婚が決まった。
お相手は隣町で一番裕福とされている問屋のご長男。
今頃は乱暴で傲慢な方が多いとされる男方だが、この方は心優しく評判が良いと言われている。
帰りたいと言えば、帰らせてくれると皆は言うけれど、一度嫁いだ者の家は、嫁ぎ先の家だ。
甘えなぞこの私が許さない。
窓辺の冷たくなった縁を未だ熱い指で撫でていた。
「お嬢さま、お体が冷えますよ。中へお入りくださいな」
子供のころから私についてる婆が言う。
「そうね、ありがとう」
婆はもう年老いていて、嫁ぎ先の家にはついてくることがない。
あと少しでこの庭とも婆ともお別れだ。
それでも私は変わらないまま生きていきたい。
俺が時々ここで話題に出す人にはモデルがいるのだが、今日駅でばったりと出会った。
てっきり県外に出て行って、
俺のことなんて忘れてると思ったから名前を呼ばれて一瞬誰だかわからなかった。
そっか。
覚えててくれたし(まあ覚えてなかったら記憶力に問題があると思うけど)、素通りじゃなくて声をかけてくれたし、悪い印象は持たれてないことを再確認。
その人はバイトを二個掛け持ちして、建築の勉強を頑張っているらしい。
自分はどうだ。
バイトもせず、家でぐうたら。
恥ずかしい。気管支炎が治ったらカフェとかで働きたいんだけどな。っていうのが既にダメなのかもしれない。
一つ心に残っているとすれば、会話の終わりに
「じゃあまたいつかどこかで」
って言われてしまったこと。
ちょっと前までなら、あとですぐにLINEしてくれてたのにな。偶然に頼らなければいけない仲になった。
俺たちの関係性って変わっちまったんだな。
なんだろう。
恋愛関係を今求めているか、というとそうでもないが、あの頃みたいな仲の良さってもう築けないのだと直感的に思ってしまった。
なんだかな。俺、悔しいよ。
受け身でしかいられない自分が一番憎い。
この答えってさ、なんだと思う?
ふふ、悩んでるね〜。
親愛しかなくない?
私は君のことが好きだし?
人としてまず好ましいよね。
私の全てを受け入れるなんてことはしない君。
まあ、そんな盲目的な愛は求めてないよ。
自分自身の定規を持って、まっすぐに私をみてくれる。
間違ってたら止めてくれる。
そんな関係が素晴らしいと思うの。
私だってそうだけどね。
私にはできっこない意味のわからないことまで突き詰めて頑張れる君のことを尊敬もしてる。
私が困った時助けてくれる、って信頼もしてる。
わがままで助けを求めた時は全く手を差し伸べてくれないよね。
全部思考を読まれてるのが悔しいけどそんなところもいい。
もちろん他の大事な友達にだっておんなじ感情を持ってるさ。
でもそこにやっぱり「恋愛」があるから、
君を愛せてるんだろうな。
だから、親愛 + 恋愛=愛してますよーだ。
え、君は違うの?
話を聞いてやろうじゃないか。さあ、座りたまえ。
この日になるといつもは寄りつかないジャッキーは、あたしの元へやってくる。
時計の針が三時になろうとする頃にやってきては、居心地の悪そうにソファの端にちょこんと座っている。
「あんたぁ、元気にやってんの?」
「……。」
「あたしゃ最近腰が痛くってねぇ。手伝ってくれないかい」
そう言ってみると、ジャッキーはおずおずと窺うように顔を覗かせて側へきた。
毎月一度だけこの家ではパイを焼く。
中身は日による。りんご、ブルーベリー、洋梨、桃、グラタンみたいにすることもある。
ジャッキーはパイが好きらしい。
けれども、あたしのことが怖いらしい。
なんかやったかね。あたしゃ、何も覚えとらんがね。
この家の短針と長針が重なったら、ちょうど街にある時計塔の鐘がなった。
焼き上がった。
「ほれ、パイを出しな。分かるだろ」
ジャッキーは慎重にオーブンから取り出し始める。
慣れたもんだ。あたしより動きがはやい。
ナイフを持って切り分けてやると、先ほどまでとは打って変わって瞳をキラキラさせておる。
「あんたぁ、自分でパイ焼けるだろ」
「……こんなに美味しくは焼けないよ」
はぁ、うまいこと言いやがって。普段は一言も話し相手になってくれやせんのにから。
一人きりの老婆はあんたのためにまだまだ生きとらんといかんかなぁ。