悪役令嬢

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4/16/2024, 3:00:15 PM

『夢見る心』

魔術師から紹介したい者がいると呼ばれて
やってきた悪役令嬢とセバスチャン。

魔術師の隣には水色の髪に深海の様な
青い瞳を持つ女性が立っていた。

「そちらの方は?」
「彼女はセイレーン。歌手を夢見て
田舎の漁村から上京して来たのです」

どうやら明日王都で開催される
のど自慢大会に出場するそうだ。

「こんにちは!」
女性は元気よく挨拶した。

「彼女は魔物と人のハーフです」
「「!」」
悪役令嬢とセバスチャンは目を見開いた。

魔術師の考えはこうだ。
魔物と人の間に生まれた者への
偏見や差別は未だに根強い。
もし彼女が歌手として人気になり、人々にとって
身近な存在となれば、それも少なくなるかもしれないと。


そしてのど自慢大会当日────

壇上に立つセイレーンは緊張した面持ちで
マイクを握りしめ、そっと口を開いた。

「それでは聞いてください」
『社畜はつらいよ 』
作詞・作曲 セイレーン

✨.゚・*..☆.。.:*✨.☆.。.:. *:゚✨.゚・*..☆.。.:*✨

夢も希望もナイナイ(ヾノ・∀・`)ナイナイ🎶
金も未来もナイナイ(ヾノ・∀・`)ナイナイ🎶

働け働け愚民どもフリ(ง ˘ω˘ )วフリ🎶
残業(੭˙꒳​˙)੭残業 (੭˙꒳​˙)੭
増税( ゚∀゚)o彡°増税( ゚∀゚)o彡°

✨.゚・*..☆.。.:*✨.☆.。.:. *:゚✨.゚・*..☆.。.:*✨

悪役令嬢とセバスチャンは耳を塞いだ。
何なんですのこの電波ソングは!!
頭パッパラパーになりますわよ!

✨.゚・*..☆.。.:*✨.☆.。.:. *:゚✨.゚・*..☆.。.:*✨

上司は粉砕♪( 'ω' و(و ♪( 'ω' و(و "
会社は倒産‪ ୧(୧ 'ω' )୧(୧ 'ω' ) "

✨.゚・*..☆.。.:*✨.☆.。.:. *:゚✨.゚・*..☆.。.:*✨️

セイレーンが歌い終え、周りを見回すと、
観客のほとんどが魂の抜けたような顔をしていた。

あへえあへえあへえあへえあへえあへえあへえ
꜀ (゚∀。) ꜆꜀ (゚∀。) ꜆꜀ (゚∀。) ꜆꜀ (゚∀。) ꜆꜀ (゚∀。) ꜆

セイレーンは国民を洗脳した罪で逮捕された。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

「あそこまで刺激的な歌とは思いませんでしたわ」
「はい…今でも頭に響いてきます」

「彼女はこのままどうなりますの?」
「最悪、処刑されるかもしれませんね」
「そんなの後味が悪いですわ!助けに行きましょう」
セバスチャンが頷き、魔術師が何かを取り出した。

「それは一体?」
「これは『どこでもトンネル』。目的地までの
抜け道を作ってくれる便利な道具です」
「魔術師、あなたはドラ〇もんですわね」

三人がセイレーンの入れられた牢屋まで来ると、
彼女は声も出さずに泣いていた。

悪役令嬢たちの姿に気が付くと、
何かを訴える様に口をパクパクと動かす。

魔術師が彼女の首元に付いてるチョーカーに
手をかざすとぱきりと音を立てそれは外れた。

「見張りが来る前に急ぎましょう」

暗いトンネルを歩きながら、
身の上話を語り始めるセイレーン。

「あたしね、小さい頃から歌うことが好きだったの」

「ママは人間を惑わす悪い魔物と呼ばれて殺され、
パパだけがアタシの歌を褒めてくれた。
いつかおまえは立派な歌手になれる、
実力で周りを黙らせろって」
「それで歌手の道を目指し始めましたの?」
「うん」

セイレーンの脳裏にかつて己に
投げかけられた言葉が蘇ってくる。
(あいつは魔物の血が流れている)
(あいつとは仲良くするな)
(あいつの歌を聞くな)

話しているうちに潮のにおいが漂い始め、
海岸へ辿り着いた。

セイレーンは涙を拭い、
強い眼差しで水平線の彼方を見つめる。

「助けてくれてありがとう。
いつか必ず、周りの人達に
あたしのことを認めさせてやるんだから!」

それからセイレーンは三人に別れを告げて
海の中へ飛びこんで行ったのであった。

4/15/2024, 1:00:11 PM

『届かぬ想い』

悪役令嬢は箱の中に閉じ込められていた。

ここはどこ?
暗くて何も見えない。
それに暑くて息苦しい。
起き上がろうとすると何かにぶつかった。

「誰か助けてくださいまし!」
低い天井や周囲の壁をどれだけ叩こうが
びくともしない。

焦り、不安、恐怖に駆られた
悪役令嬢の呼吸が浅くなってゆく。

(落ち着け、悪役令嬢。まずは状況把握ですわ)

悪役令嬢が魔法を使って指先に炎を灯し、
辺りを見回すと、顔の横にスーマホ
(声などを送れる魔法道具)が置かれていた。

「もしもしセバスチャン?」
『主、今どこですか?』

「わかりません。暗い箱の中にいます」
『箱?』

現在の状況を説明する悪役令嬢。
『…すぐにそちらへ向かいます。
主、どうかお気を確かに』

悪役令嬢は再びスーマホを手に取った。

『お嬢様、何か御用ですか?』
「魔術師!私、今どこかに閉じこめられていますの。
あなたの力が必要ですわ」

『閉じこめられている?〇〇しないと
出られない部屋ですか?』
「それよりもっと最悪ですわ。暗く狭い箱の中…、
恐らく棺桶か何かだと思います」

『ふむ。お嬢様、そのまま安静にしてください。
下手に動いたりすれば酸欠になりますよ』
「あ、ちょっと…」
一方的に切られてしまった。

悪役令嬢は再びセバスチャンに
メッセージを送った。

『主!主、無事ですか?
今あなたの居場所を探しています。
もう少しの辛抱ですから…』

「セバスチャン…私、このまま出られなかったら
どうしましょう。まだあなたに
今月分のお給料も支払ってないのに」

『そんな事どうだっていいです。
主、諦めてはなりません。
俺が必ずあなたを見つけ出します』

執事の励ましに悪役令嬢の目が潤んだ。
「セバスチャン…
私、あなたにずっと伝えたかった事が」

ぷつり
スーマホの充電が切れた。

万事休す、ですわ。
悪役令嬢の意識もそこで途切れた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
眩しい…。
ここは天国?それとも地獄?
誰かが私を呼ぶ声がする。

瞼を開けると、そこにはセバスチャンと
魔術師がおり悪役令嬢の顔を覗き込んでいた。

「主!よかった、ご無事で…!」
「お嬢様、心配しましたよー!」
「ここは一体…?」

どうやら彼女は寂れた教会の墓地で
棺の中に入れられ埋まっていたそうだ。

「お嬢様の持っていたスーマホを逆探知して、
大まかな場所をセバスチャンに伝えたのです。
あとは彼の嗅覚に任せてここまで辿り着きました。
いやー、間に合ってよかったです」

「地中深くに埋められていたので、手間取って
しまいました…。遅れてしまい申し訳ありません」

そう話す二人の姿を見て、
悪役令嬢は目頭が熱くなった。

「二人とも、本当にありがとうございます」

『ククク、よく生き延びた。我が娘よ』
突如、三人のもとに天の声が降り注いだ。
この声の主はよく知っている。

「お父様…」
『我が考えた余興は楽しんでもらえたかな?』
「これは一体どういうおつもりですの?」
『人は極限の状況下でしか気付けない事が多い。
お前はそれを知る必要があったのだ』
「そのために私を閉じこめたというのですか」

デスゲームの主催者が考えるような戯れを実の娘
相手に行うとは、この方は本当にタチが悪い。

悪役令嬢は父への不満を募らせていたが、
それ以上にセバスチャンと魔術師への
感謝の気持ちが大きかった。

これからもこのご縁を大切にしよう。
そう悪役令嬢は心に誓ったのである。

4/14/2024, 3:00:15 PM

『神様へ』

あるところにリヒトという子どもがいた。
リヒトはもともと気が弱く、 その性格のせいで
クラスメイトたちからいじめられていた。

破れた教科書と泥だらけの体操服を鞄に入れて
家へ帰ると、親に見られて頬を打たれた。

たまらなくなって、家を飛び出し、
辿り着いたのがこの小さな教会だった。

教会の中はひっそりと静まり返り、
外から物音ひとつ聞こえてこない。

リヒトは長椅子の一番後ろの席に座り、
教会のステンドグラスをぼんやりと眺めていた。

ステンドグラスから差しこむ夕日がキラキラ
と降り注ぎ、教会の床を煌びやかに彩っている。

これからどうしようか。
家に帰れば暴言と暴力を奮う親がいて、
学校に行けば馬鹿にして仲間はずれにする
いじめっ子がいる。
自分には居場所がない。

リヒトは惨めな自分の姿を思い出して
また涙が止まらなくなってしまった。

「どうしましたか」
不意に声をかけられ顔を上げると、そこには
髪も目も着ている祭服さえも白い人が立っていた。

「あなたは誰?」
「ワタクシは、神に殉ずる者です」

殉教者と名乗る人はリヒトの横に座り、
静かな声で語りかけた。

「ここは行き場のない者たちが辿り着く場所、
君は何か悩みがあるのですか」

リヒトはその人が放つ不思議な雰囲気に
当てられて、ここに来るまでの出来事や
抱えている事を全て話した。

殉教者はリヒトの話にじっと耳を傾けていた 。

「リヒトは、神様へお祈りをしていますか?」
「してない」
「どうしてですか?」
「だって意味ないから」

祈ったところで何も変わらない。
神様はいつだって、肝心な時に助けてくれない。

「リヒト、思うようにいかないからといって、
すぐにあきらめたり、神様を疑ったり
してはいけませんよ。
祈り続けているかぎり
神様はリヒトのことを見捨てませんし、
ずっと見守っていてくれます。
いつか全てが良くなります。
今はまだその時ではないんですよ」

「そんなことない」

「何事も信じることからですよ、リヒト。
君が神様を忘れずに信じて祈り続ければ、
神様はきっと君を救ってくださる」

殉教者はリヒトの手を取り、
やさしく言い聞かせた。冷たい手だった。

「リヒト、よく聞いてください。
誰にも助けてもらえないと思っているから、
だからそんなに悲しいのです。
ですがワタクシは君を救いたい、
君は一人ではないです」

殉教者は優しい目でリヒトを見つめる。
どうしてこの人は見ず知らずの自分に
ここまで親身になってくれるのだろう。
リヒトは瞳を揺らしながら震える声で尋ねた。

「ねえ、またここへ来てもいい?」
「ええ、いつでも歓迎しますよ」

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
気が付いたら先程までいた小さな教会も
真っ白なあの人もどこにもいなかった。
もしかしたら全て夢だったのかもしれない。

リヒトはその日から眠る前や悲しい事
があった時には心の中で祈りを捧げた。
神様へ、どうかこの苦しみを取り除いてください。
いつの日か何の憂いもなく笑って過ごせる時が
来るように、と────

4/13/2024, 3:00:10 PM

『快晴』

あたしの名前はモブ崎モブ子!

親戚の伝手で今日からこの
私立ヘンテコリン学園に通うことになったの!
貴族や王族が通うとされる格式高い学校に
平凡な自分が入れるなんて夢にも思わなかった。

空を見上げると初日に相応しい快晴!
これからどんな出会いが待っているんだろう?

期待に胸を弾ませながら門を潜ると、
そこには別世界が広がっていた。

まず初めに目に飛び込んできたのはそびえ立つ大きな城。屋根は澄み渡る空のような美しい青色をしている。
こんなおとぎ話に出てくるような
場所が学校だなんて信じられない!

壮麗な佇まいに圧倒されていると、
誰かとぶつかってしまう。
「あ、ごめんなさい」
「……ちっ」
えっ、今舌打ちされた?
そこにいたのは、銀髪に金色の瞳をしたイケメン。
制服を着崩した感じのスタイルが様になっている。
不良イケメンはあたしを睨むと
人混みの中へと消えていった。
なんなの、あいつ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
教室に辿り着き、簡単な自己紹介が終わった。
まだ皆手探り状態でどこかよそよそしい。

あたしが緊張でそわそわしていると、
前の席に座る金髪碧眼の正統派美少女が
振り向いて、笑顔で挨拶してくれた。
「これからよろしくね!」
わあ、可愛い。
アイドルみたいな子でモテそうだなあ。

そんな事を考えているとあっという間に時は過ぎて、
待望のお昼休憩がやってきた!

この学園に来て初めての昼食に心躍るモブ子。
今日は数量限定の日替わり定食があるそうだ。
A定食のビフテキが美味しそう!
B定食のロースカツも気になる!
悩んだ末にモブ子はA定食を頼むことにした。

「ご注文は?」
「「A定食お願いします!」」
横を見ると、高飛車な性格(偏見)のお嬢様が
燃えるような目つきでこちらを睨んでいる。

「私が先にA定食を頼みましたわ」
「え、でもあたしの方が前に
並んでましたよね?」
「あなた、私に逆らうおつもり?」

これは一触即発の予感。

「そうよ、メア様に譲りなさい。 この平民が!」
「あんたにはもやし定食がお似合いよ!」
彼女の取り巻きたちが後ろで囃し立てる。

「いじめは駄目ですよ」
凛とした低い声に振り返れば、そこには黒髪の
美青年が立っており、あたしたちの仲裁に入った。

「べ、別にいじめてませんわ。
ふん!行きますわよ、貴女達」
決まりの悪い顔をしながら取り巻きたち
を連れて逃げていく高飛車お嬢様。

「あの、助けてくれてありがとうございます」
礼を言うと、優等生風美青年はにこりと微笑んだ。
「先程のことは気にしなくていいですからね」

はあ、かっこいい…。
立ち去る彼の後ろ姿に見惚れていると、
正統派美少女が心配そうな顔をして駆け寄ってきた。

「モブ子ちゃん大丈夫?」
「うん、全然平気だよ」

それからあたしは正統派美少女と
中庭で一緒に昼ごはんを食べた。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
青空がオレンジ色に変わっていく姿を
眺めながらモブ子は今日の出来事を思い出していた。

初日から色んなことがあったなぁ。
とぼとぼと河川敷を歩いていると、
橋の下で今朝の不良を見つけた。
あんな所で何してるんだろう?
バレないように観察していると、
なんとあの不良が箱に入った子犬を
大切そうに抱えて餌を与えているではないか!

その優しげな表情に不覚にもキュンと、
ときめいてしまった。

これが、恋?
もー、ないない!

胸に宿る感情を誤魔化すようにモブ子は
河川敷を時速40kmの速さで駆け抜けた。

モブ子の波乱万丈な学園生活は
始まったばかりである。

つづく

4/11/2024, 1:00:06 PM

『言葉にできない』

これは子どもの頃に体験したお話です。
黄色い雨がっぱを着た悪役令嬢は腕に
何かを抱えながら、一人大雨の中を遊んでいました。

彼女が腕に抱えるもの、
それは魔術師からいただいた桃です。

刺激を与えると何かが起きると教わった
悪役令嬢は、大雨の中それを転がしたり
水溜まりに浮かべたりしながら、今か今かと
その瞬間を待ちわびていました。

すると桃はどんぶらこどんぶらこと流れてゆき、
側溝の隙間に入り込んでしまいました。

「😃✋<Hi❗️」
「ひっ!」
悪役令嬢が下水溝を覗き込むと、中から
道化師がひょっこりと顔を覗かせました。

「😁👉🎈」
(訳:風船欲しいですか?)

赤い風船を持った道化師は子ども目線
でも怪しい人物に見えます。

「知らない人から物をもらってはいけないと、
お父様にきつーく言われてますの」
「🥺」
(訳:ぴえん)

泣き真似をする道化師が今度は
別のものを取り出しました。

「😄👉🍑」
(訳:キミが落とした桃がこちらに…)
「あ!」
それは先程流されてしまった桃でした。

「😗?」
(訳:欲しいですか?)
「ほしいですわ!」

「😏🫴 ゛」
(訳:ならこっちへおいで)

悪役令嬢が小さな手を下水溝の中に伸ばすと、
道化師は彼女の腕をがしりと掴みました。

「😋🍴」
(訳:いただきやす)

その瞬間、道化師が手にしていた桃がパカッと
割れて、中から元気な男の子が飛び出してきたのです。

「我が名は桃太郎!悪い輩は退治する!」
成敗!
桃太郎は手にした刀を道化師相手に
振り下ろしました。

「😵」
桃太郎に一刀両断された道化師はそのまま
下水道の闇へ消えて行きました。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あれは一体何だったのでしょうか?
どうして彼はあのような場所にいたのでしょう?

子どもの頃に体験した言葉にできない不思議な
出来事を、悪役令嬢は今でも偶に思い出します。

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