悪役令嬢

Open App

『言葉にできない』

これは子どもの頃に体験したお話です。
黄色い雨がっぱを着た悪役令嬢は腕に
何かを抱えながら、一人大雨の中を遊んでいました。

彼女が腕に抱えるもの、
それは魔術師からいただいた桃です。

刺激を与えると何かが起きると教わった
悪役令嬢は、大雨の中それを転がしたり
水溜まりに浮かべたりしながら、今か今かと
その瞬間を待ちわびていました。

すると桃はどんぶらこどんぶらこと流れてゆき、
側溝の隙間に入り込んでしまいました。

「😃✋<Hi❗️」
「ひっ!」
悪役令嬢が下水溝を覗き込むと、中から
道化師がひょっこりと顔を覗かせました。

「😁👉🎈」
(訳:風船欲しいですか?)

赤い風船を持った道化師は子ども目線
でも怪しい人物に見えます。

「知らない人から物をもらってはいけないと、
お父様にきつーく言われてますの」
「🥺」
(訳:ぴえん)

泣き真似をする道化師が今度は
別のものを取り出しました。

「😄👉🍑」
(訳:キミが落とした桃がこちらに…)
「あ!」
それは先程流されてしまった桃でした。

「😗?」
(訳:欲しいですか?)
「ほしいですわ!」

「😏🫴 ゛」
(訳:ならこっちへおいで)

悪役令嬢が小さな手を下水溝の中に伸ばすと、
道化師は彼女の腕をがしりと掴みました。

「😋🍴」
(訳:いただきやす)

その瞬間、道化師が手にしていた桃がパカッと
割れて、中から元気な男の子が飛び出してきたのです。

「我が名は桃太郎!悪い輩は退治する!」
成敗!
桃太郎は手にした刀を道化師相手に
振り下ろしました。

「😵」
桃太郎に一刀両断された道化師はそのまま
下水道の闇へ消えて行きました。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
あれは一体何だったのでしょうか?
どうして彼はあのような場所にいたのでしょう?

子どもの頃に体験した言葉にできない不思議な
出来事を、悪役令嬢は今でも偶に思い出します。

4/11/2024, 1:00:06 PM