『届かぬ想い』
悪役令嬢は箱の中に閉じ込められていた。
ここはどこ?
暗くて何も見えない。
それに暑くて息苦しい。
起き上がろうとすると何かにぶつかった。
「誰か助けてくださいまし!」
低い天井や周囲の壁をどれだけ叩こうが
びくともしない。
焦り、不安、恐怖に駆られた
悪役令嬢の呼吸が浅くなってゆく。
(落ち着け、悪役令嬢。まずは状況把握ですわ)
悪役令嬢が魔法を使って指先に炎を灯し、
辺りを見回すと、顔の横にスーマホ
(声などを送れる魔法道具)が置かれていた。
「もしもしセバスチャン?」
『主、今どこですか?』
「わかりません。暗い箱の中にいます」
『箱?』
現在の状況を説明する悪役令嬢。
『…すぐにそちらへ向かいます。
主、どうかお気を確かに』
悪役令嬢は再びスーマホを手に取った。
『お嬢様、何か御用ですか?』
「魔術師!私、今どこかに閉じこめられていますの。
あなたの力が必要ですわ」
『閉じこめられている?〇〇しないと
出られない部屋ですか?』
「それよりもっと最悪ですわ。暗く狭い箱の中…、
恐らく棺桶か何かだと思います」
『ふむ。お嬢様、そのまま安静にしてください。
下手に動いたりすれば酸欠になりますよ』
「あ、ちょっと…」
一方的に切られてしまった。
悪役令嬢は再びセバスチャンに
メッセージを送った。
『主!主、無事ですか?
今あなたの居場所を探しています。
もう少しの辛抱ですから…』
「セバスチャン…私、このまま出られなかったら
どうしましょう。まだあなたに
今月分のお給料も支払ってないのに」
『そんな事どうだっていいです。
主、諦めてはなりません。
俺が必ずあなたを見つけ出します』
執事の励ましに悪役令嬢の目が潤んだ。
「セバスチャン…
私、あなたにずっと伝えたかった事が」
ぷつり
スーマホの充電が切れた。
万事休す、ですわ。
悪役令嬢の意識もそこで途切れた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
眩しい…。
ここは天国?それとも地獄?
誰かが私を呼ぶ声がする。
瞼を開けると、そこにはセバスチャンと
魔術師がおり悪役令嬢の顔を覗き込んでいた。
「主!よかった、ご無事で…!」
「お嬢様、心配しましたよー!」
「ここは一体…?」
どうやら彼女は寂れた教会の墓地で
棺の中に入れられ埋まっていたそうだ。
「お嬢様の持っていたスーマホを逆探知して、
大まかな場所をセバスチャンに伝えたのです。
あとは彼の嗅覚に任せてここまで辿り着きました。
いやー、間に合ってよかったです」
「地中深くに埋められていたので、手間取って
しまいました…。遅れてしまい申し訳ありません」
そう話す二人の姿を見て、
悪役令嬢は目頭が熱くなった。
「二人とも、本当にありがとうございます」
『ククク、よく生き延びた。我が娘よ』
突如、三人のもとに天の声が降り注いだ。
この声の主はよく知っている。
「お父様…」
『我が考えた余興は楽しんでもらえたかな?』
「これは一体どういうおつもりですの?」
『人は極限の状況下でしか気付けない事が多い。
お前はそれを知る必要があったのだ』
「そのために私を閉じこめたというのですか」
デスゲームの主催者が考えるような戯れを実の娘
相手に行うとは、この方は本当にタチが悪い。
悪役令嬢は父への不満を募らせていたが、
それ以上にセバスチャンと魔術師への
感謝の気持ちが大きかった。
これからもこのご縁を大切にしよう。
そう悪役令嬢は心に誓ったのである。
4/15/2024, 1:00:11 PM