『夢見る心』
魔術師から紹介したい者がいると呼ばれて
やってきた悪役令嬢とセバスチャン。
魔術師の隣には水色の髪に深海の様な
青い瞳を持つ女性が立っていた。
「そちらの方は?」
「彼女はセイレーン。歌手を夢見て
田舎の漁村から上京して来たのです」
どうやら明日王都で開催される
のど自慢大会に出場するそうだ。
「こんにちは!」
女性は元気よく挨拶した。
「彼女は魔物と人のハーフです」
「「!」」
悪役令嬢とセバスチャンは目を見開いた。
魔術師の考えはこうだ。
魔物と人の間に生まれた者への
偏見や差別は未だに根強い。
もし彼女が歌手として人気になり、人々にとって
身近な存在となれば、それも少なくなるかもしれないと。
そしてのど自慢大会当日────
壇上に立つセイレーンは緊張した面持ちで
マイクを握りしめ、そっと口を開いた。
「それでは聞いてください」
『社畜はつらいよ 』
作詞・作曲 セイレーン
✨.゚・*..☆.。.:*✨.☆.。.:. *:゚✨.゚・*..☆.。.:*✨
夢も希望もナイナイ(ヾノ・∀・`)ナイナイ🎶
金も未来もナイナイ(ヾノ・∀・`)ナイナイ🎶
働け働け愚民どもフリ(ง ˘ω˘ )วフリ🎶
残業(੭˙꒳˙)੭残業 (੭˙꒳˙)੭
増税( ゚∀゚)o彡°増税( ゚∀゚)o彡°
✨.゚・*..☆.。.:*✨.☆.。.:. *:゚✨.゚・*..☆.。.:*✨
悪役令嬢とセバスチャンは耳を塞いだ。
何なんですのこの電波ソングは!!
頭パッパラパーになりますわよ!
✨.゚・*..☆.。.:*✨.☆.。.:. *:゚✨.゚・*..☆.。.:*✨
上司は粉砕♪( 'ω' و(و ♪( 'ω' و(و "
会社は倒産 ୧(୧ 'ω' )୧(୧ 'ω' ) "
✨.゚・*..☆.。.:*✨.☆.。.:. *:゚✨.゚・*..☆.。.:*✨️
セイレーンが歌い終え、周りを見回すと、
観客のほとんどが魂の抜けたような顔をしていた。
あへえあへえあへえあへえあへえあへえあへえ
꜀ (゚∀。) ꜆꜀ (゚∀。) ꜆꜀ (゚∀。) ꜆꜀ (゚∀。) ꜆꜀ (゚∀。) ꜆
セイレーンは国民を洗脳した罪で逮捕された。
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「あそこまで刺激的な歌とは思いませんでしたわ」
「はい…今でも頭に響いてきます」
「彼女はこのままどうなりますの?」
「最悪、処刑されるかもしれませんね」
「そんなの後味が悪いですわ!助けに行きましょう」
セバスチャンが頷き、魔術師が何かを取り出した。
「それは一体?」
「これは『どこでもトンネル』。目的地までの
抜け道を作ってくれる便利な道具です」
「魔術師、あなたはドラ〇もんですわね」
三人がセイレーンの入れられた牢屋まで来ると、
彼女は声も出さずに泣いていた。
悪役令嬢たちの姿に気が付くと、
何かを訴える様に口をパクパクと動かす。
魔術師が彼女の首元に付いてるチョーカーに
手をかざすとぱきりと音を立てそれは外れた。
「見張りが来る前に急ぎましょう」
暗いトンネルを歩きながら、
身の上話を語り始めるセイレーン。
「あたしね、小さい頃から歌うことが好きだったの」
「ママは人間を惑わす悪い魔物と呼ばれて殺され、
パパだけがアタシの歌を褒めてくれた。
いつかおまえは立派な歌手になれる、
実力で周りを黙らせろって」
「それで歌手の道を目指し始めましたの?」
「うん」
セイレーンの脳裏にかつて己に
投げかけられた言葉が蘇ってくる。
(あいつは魔物の血が流れている)
(あいつとは仲良くするな)
(あいつの歌を聞くな)
話しているうちに潮のにおいが漂い始め、
海岸へ辿り着いた。
セイレーンは涙を拭い、
強い眼差しで水平線の彼方を見つめる。
「助けてくれてありがとう。
いつか必ず、周りの人達に
あたしのことを認めさせてやるんだから!」
それからセイレーンは三人に別れを告げて
海の中へ飛びこんで行ったのであった。
4/16/2024, 3:00:15 PM