悪役令嬢

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3/12/2024, 1:48:58 PM

『もっと知りたい』

今日は私悪役令嬢の永遠のライバル
メインヒロインの素性について
探っていきたいと思います。
敵を知ることは大事なことですもの、ええ!

オペラグラスを片手にメインヒロインの
後を追う悪役令嬢。

道行く彼女に人々は笑顔で話しかけます。
彼女が歌を歌えば小鳥やリスが近寄ってきて、
彼女の肩にとまり一緒に歌を歌い始めました。
心なしか彼女が通った後は木々や
花も色づいて見えます。
まるでディ○ニープリンセスじゃありませんか!

あまりのヒロインっぷりに悪役令嬢はハンカチを
噛み締めながら悶え苦しんでいると、
突然背後から声をかけられました。

「何してるの?」
そこには正真正銘メインヒロインが立っていました。
ななな、いつの間に私の背後に?!

メインヒロインをのぞく時メインヒロインもまた
こちらをのぞいているのだ。
そんな言葉が悪役令嬢の脳裏に浮かびました。

「これはその…敵情視察ですわ」
如何にも不審者という出で立ちで
しどろもどろに答える悪役令嬢を
メインヒロインは不思議そうに見つめます。

「わたしの事が知りたいなら
直接会いに来てくれたらいいのに」

その時の彼女は、先程までの天使のような姿とは
異なる小悪魔な笑みを浮かべていました。

これが俗に言うギャップ萌えというやつですか。
なんて恐ろしい子…!

3/7/2024, 7:04:14 PM

『月夜』

ふと彼を呼ぼうとしたけれどやめた
彼は満月が近くなると休みを入れる

テラスから夜空を見上げれば
大きな丸い月が浮かんでいた

ずっと見つめていたら
吸い込まれそうなほどに幻想的な月

私さえも狂おしい衝動に駆られるのだから
彼にとってはもっとずっと耐え難いものなのだろう

魔術師から発作を抑える薬を貰っていた
付け焼き刃かもしれないがないよりはマシだ

「月が綺麗ですわね」
とある三日月の晩に
そう呟いたら彼の顔は険しくなった

まるで彼にとって月は忌むべきもので
あるかの様なそんな表情だった

私には彼の痛みや苦しみはわからない
けれど彼が一人で抱え込む姿は見たくない

これ以上彼を苦しめないでと
私は月に祈りを捧げた

3/2/2024, 4:49:52 PM

『たった1つの希望』

「魔術師さま、どうかあの娘を
元の姿に戻してくれませんか」

村人に連れてこられた小屋の中には、
虚ろな目で宙を見上げる一人の女性がいた。

頬は痩けて手足は枝のように細く
力を入れたら折れてしまいそうだ。

「美しい娘だったのに、
悪い男に捕まって薬漬けにされた挙句
壊れたら捨てられてしまって可哀想に」

女性はこちらに気がつくと細い身体を引きずりながら
甘い声を出して近寄ってくる。

「あぁ、やっと迎えに来てくれたのですね」

女性の鳶色の瞳には何も映してはいない。
村人はそんな娘を見て溜息を零す。

「ずっとこんな調子で困ったもんですよ」

ふと彼女の足元に目をやると、
鎖のちぎれたロケットが落ちていた。

中を開くと溌剌とした顔立ちの女性と彼女より少し
幼い顔立ちの子供、そして二人の肩を抱く男性が
笑顔で映る写真がはめ込まれていた。

女性と同じ鳶色の目をした子供と男性は
きっと彼女の家族なのだろう。

虚空に向かって笑いかけ何かを囁く女性を
魔術師はじっと見つめる。

彼女は今どんな夢を見ているのだろうか。
自分を捨てた男か、あるいは家族か。
彼女の瞼の奥に宿る希望を覗いてみたかった。

2/24/2024, 10:09:08 PM

『小さな命』

「ペットを飼ってみませんか?」
魔術師がそう語りかけてきました。

「ペットはいいですよ。余計な言葉を話さず、
飼い主に寄り添い、癒しを与えてくれますから」

魔術師は懐から青い色の小さな物体を取り出します。
「それは一体?」
「スライムです」

スライム?生き物なのでしょうか?
指で突くとぷるんと小さな身を揺らします。
私はお祭りで買ったスライムを思い出して、
なんだか懐かしい気持ちになりました。

「何を与えたらいいの?」
「なんでもいいですよ。この生き物は雑食ですから。
ただし、守ってほしいことが3つあります」

・水に濡らさないこと
・光魔法を当てないこと
・夜中の12時を過ぎてから食べ物を与えないこと

「守らなかったらどうなりますの?」
「よからぬ事がおこります」
よからぬ事ってなんですの??

それから私は魔術師に押し付けられるような形で
スライムを飼うことになりました。

夜更けに本を読んでいると、スライムがそろりと
近づいてきて私の指に縋り付きます。
「あら、お腹が空いているのかしら?」
時計の針を見ると11時の方角を指していました。
まだ大丈夫ですわね。

私はセバスチャンが夜食に焼いてくれた
クッキーをスライムに与えました。
するとスライムはその小さな体でクッキーを
包み込み、ゆっくりと時間をかけて
吸収していきました。

私はこの時気づいていなかったのです。
時計が壊れて動かなくなっていたことに。

翌朝、私は目を覚ますと
ある変化が起こっていました。
昨日まで1匹だったスライムが2匹に
増えていたのです。
分裂したのでしょうか?
本当に不思議な生き物ですこと!

2/20/2024, 6:43:56 PM

『同情』
路地裏で犬を拾いました

それはひどく汚れており傷だらけで
やせ細っていて骨が浮いていました

屋敷へ連れて帰った私はお風呂に入れて
毛並みを乾かしふかふかのブランケットに包みます

起きてからもその犬は何も口にせず
いつも部屋の隅に丸まっていました

近づこうとすれば牙をむき出しにして威嚇します
その金色の瞳は何かに怯えているようにも見えました

ある日のことです
犬の様子を見に行くとそこには人間がおりました

こちらを睨みつけているその瞳も髪の色も
あの犬のものだと私は気づきました

「なぜ助けた」
なぜ?私にもわかりません
同情、憐憫、興味、好奇心、或いは…

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
それが彼との出会いです
今では名前を呼ぶとすぐに私のもとへ
駆けつけてくれる頼もしい相棒です
ね、セバスチャン

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