『たった1つの希望』
「魔術師さま、どうかあの娘を
元の姿に戻してくれませんか」
村人に連れてこられた小屋の中には、
虚ろな目で宙を見上げる一人の女性がいた。
頬は痩けて手足は枝のように細く
力を入れたら折れてしまいそうだ。
「美しい娘だったのに、
悪い男に捕まって薬漬けにされた挙句
壊れたら捨てられてしまって可哀想に」
女性はこちらに気がつくと細い身体を引きずりながら
甘い声を出して近寄ってくる。
「あぁ、やっと迎えに来てくれたのですね」
女性の鳶色の瞳には何も映してはいない。
村人はそんな娘を見て溜息を零す。
「ずっとこんな調子で困ったもんですよ」
ふと彼女の足元に目をやると、
鎖のちぎれたロケットが落ちていた。
中を開くと溌剌とした顔立ちの女性と彼女より少し
幼い顔立ちの子供、そして二人の肩を抱く男性が
笑顔で映る写真がはめ込まれていた。
女性と同じ鳶色の目をした子供と男性は
きっと彼女の家族なのだろう。
虚空に向かって笑いかけ何かを囁く女性を
魔術師はじっと見つめる。
彼女は今どんな夢を見ているのだろうか。
自分を捨てた男か、あるいは家族か。
彼女の瞼の奥に宿る希望を覗いてみたかった。
3/2/2024, 4:49:52 PM