愛し合う二人を、好きなだけ

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2/21/2025, 12:45:46 PM

小説
迅嵐



多くの人々が寝静まる真夜中。着信に震えるスマホを取り出すと、予想通り迅からだった。

「おつかれさーん」

「お疲れ様、今夜はこれで最後か?」

俺は足元の大型トリオン兵を見やる。電話口からは申し訳なさそうな声が聞こえてきた。

「いや、もう1回開きそうかな。てか嵐山、明日大学あるんだろ?今からでも変わって…」

「安心してくれ、大学は午後からだ。そもそも今俺が駆り出されてるのは、俺よりも迅の方が休んだ方がいいっていう上層部の判断だろう?」

「うっ…」

今現在、中高生は期末試験期間、そのうちの3年生は受験ときたことで、ボーダー内部は大学生以上の者が殆どだった。そのため任務は必然的に大学生以上が担う事になり、頻回に臨時部隊が組まれる事態となった。しかしあまりの忙しさにダウンする隊員が続出。そして極めつけはインフルエンザの流行だ。この極限の人手不足に、普段ならB級以上の隊が2チームで行う夜の見回りは、A級部隊の隊長クラスの者であれば1人で行う仕様になっていた。

そして今一番働き詰めなのは、嵐山の恋人である迅悠一であった。

大学に通わず、 未来予知を副作用として持つ迅は、人手不足のボーダーにとって必要不可欠と言ってもいい程の人材だった。しかし迅は本日で3徹目5連勤中。朝夜問わず働く迅を流石に休ませねばと悩んだ上層部は、迅が担当する予定だった夜の見回りを、急遽嵐山に変更を願い出たという訳だった。

「もうすぐ試験期間も受験も終わる事だし、あと少しの辛抱だ」

「…そうだな。……嵐山、あのさ…」

何かを言いかけた迅の声色が変わったことに気がつく。

「嵐山、来るよ。北。またかけ直す」

「嵐山、了解」

通話の終了を告げる音がゲート発生の音にかき消される。

銃を構え直し、夜空を駆ける。

夜が明けたら、会いに行っても良いだろうか。暫く会えていない恋人を想う。
声を聞いたら会いたくなってしまった。俺は自覚していないだけで、結構な寂しがり屋なのかもしれない。

星を背に宙を舞う。

俺はゲートから訪れるトリオン兵に向かって銃を向けた。

2/20/2025, 10:34:04 AM

ひそかな想い(ストック用)

2/19/2025, 10:05:19 AM

小説
甘露寺蜜璃(おばみつ)



目が覚めると、私は光を背に暗闇を見つめていた。
視線の先には、黒い髪を三つに編んだ髪をもつ振袖姿の少女。
その少女は顔を手で覆い、泣いているようだった。

「……大丈夫?」

「…え…」

顔を上げた少女の顔は驚きに染まってはいるものの、紛うことなき自分であった。

「……あなたは誰?」

少女に問いかけられ、どう答えようかと悩んでいると、後ろから声をかけられる。

「甘露寺」

光に包まれ、こちらを向いている顔は逆光で見えない。けれども分かった。愛しいあの人に呼ばれている。踵を返し彼の元へと向かおうとする。しかし思い留まり、不安そうに顔を歪める少女に向かって精一杯の笑顔で希望を伝える。

「私は未来のあなた。…きっと今のあなたは辛く悲しい現実で生きてるのよね。でも安心して欲しい。あなたはこれから沢山の仲間に巡り会って、一人の殿方に出会い、恋に落ちる。…あなたの夢は叶うわ」

今度こそ踵を返し、彼の元へと向かう。すると後ろから上擦った声が聞こえた。

「ねぇっ!あなたは今…幸せなの……?!」

私は歩みを止めず、光の中に居る彼に向かって手を伸ばす。彼にも、過去の自分にも聞こえるように、大きな声で問いかけに答える。

「世界一幸せよ…!」

2/19/2025, 10:01:21 AM

悪ノ娘※捏造



海の近くのちいさな孤児院
そこに住まうは老いた修道女と幾人かの孤児
皆仲良く平和に暮らしていた

ある時修道女は病に伏した
彼女は思う
あの手紙は届いたのだろうかと

幼き少女時代
罪を犯した少女時代
海に流した小さな小瓶
羊皮紙丸め
願いを込めて
波に揺られどこまでも流れてゆく
それを見つめる自らとナイフ隠し持つ白髪の女

苗木が大木に育つ程の時が流れ
手紙の行方は誰も知らず
少女は大人になり
そして老いていった

死ぬことに恐怖は無く
しかし手紙の行方が心残りだった

しばらく時が経ち
いよいよ神の元へ召される時

孤児がひとり
「手紙の返事があるよ」
孤児がひとり
「読んであげる」

修道女が耳を傾けると
拙く優しい返事
一生懸命考えたのだろうそれは
修道女への最期の贈り物だった

「ありがとう」

修道女は優しき想いと少しの寂しさを遺しこの世を後にする

光の中で彼女は思った

もしも生まれ変われるならば_________

2/17/2025, 11:20:05 AM

小説
オリジナル



『しーあわっせはーあーるいってこないー』

つい最近覚えた唄を口ずさむ。できるだけ明るい声で唄い、リズムをとる。
目の前には真新しい墓標がひとつ。

昨日、大好きだったキミが死んだ。


ボク達『天使族』には、その名の通り天使の様な羽が生えている。
肩甲骨辺りから伸びる白羽は、太陽にかざすとキラキラと輝き、星の様な光をもたらす。
飛ぶことも出来るこの羽は、世界の中でも希少価値が高いらしく、口にするのも憚られる程の残虐な略奪行為が成され、奪われてきた。そのため仲間は、ボクを合わせて13人。皆で仲良くひっそりと暮らしていた。

「イド」

名を呼ばれ、唄うのを辞め振り返る。仲間の中で一番仲の良い『フェル』が心配そうな顔をして立っていた。

「…フェル…」

「…もう『カレン』という娘は居ないのだろう?可哀想に。人間はこんなにも短い時間で死んでしまうのか」


ボク達『天使族』には、その名の通り天使の様な羽が生えている。
そしてボク達が『天使族』と呼ばれる由来はもうひとつ。

ボクらには、一万年という長い長い寿命があった。


「イド、そろそろ帰ろう」

「うん」

先に歩き出したフェルを追いかけようとして、ふと立ち止まる。

「……またね、カレン」

何も返ってこない墓標に向かって言葉を贈る。


『イド』

小さなベルを鳴らしたような声。耳の中で反響する、か弱く美しい声。

懐かしくて愛しい、ボクのカレン。

これは『人間』であるキミと『天使族』であるボクの、ささやかで、とても短い、とある恋の物語。




イド…天使族。約3000歳。白髪。
フェル…天使族。約3200歳。茶髪。
カレン…人間。15歳の時にイドと出会う。享年19歳。黒髪。

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