小説
迅嵐
多くの人々が寝静まる真夜中。着信に震えるスマホを取り出すと、予想通り迅からだった。
「おつかれさーん」
「お疲れ様、今夜はこれで最後か?」
俺は足元の大型トリオン兵を見やる。電話口からは申し訳なさそうな声が聞こえてきた。
「いや、もう1回開きそうかな。てか嵐山、明日大学あるんだろ?今からでも変わって…」
「安心してくれ、大学は午後からだ。そもそも今俺が駆り出されてるのは、俺よりも迅の方が休んだ方がいいっていう上層部の判断だろう?」
「うっ…」
今現在、中高生は期末試験期間、そのうちの3年生は受験ときたことで、ボーダー内部は大学生以上の者が殆どだった。そのため任務は必然的に大学生以上が担う事になり、頻回に臨時部隊が組まれる事態となった。しかしあまりの忙しさにダウンする隊員が続出。そして極めつけはインフルエンザの流行だ。この極限の人手不足に、普段ならB級以上の隊が2チームで行う夜の見回りは、A級部隊の隊長クラスの者であれば1人で行う仕様になっていた。
そして今一番働き詰めなのは、嵐山の恋人である迅悠一であった。
大学に通わず、 未来予知を副作用として持つ迅は、人手不足のボーダーにとって必要不可欠と言ってもいい程の人材だった。しかし迅は本日で3徹目5連勤中。朝夜問わず働く迅を流石に休ませねばと悩んだ上層部は、迅が担当する予定だった夜の見回りを、急遽嵐山に変更を願い出たという訳だった。
「もうすぐ試験期間も受験も終わる事だし、あと少しの辛抱だ」
「…そうだな。……嵐山、あのさ…」
何かを言いかけた迅の声色が変わったことに気がつく。
「嵐山、来るよ。北。またかけ直す」
「嵐山、了解」
通話の終了を告げる音がゲート発生の音にかき消される。
銃を構え直し、夜空を駆ける。
夜が明けたら、会いに行っても良いだろうか。暫く会えていない恋人を想う。
声を聞いたら会いたくなってしまった。俺は自覚していないだけで、結構な寂しがり屋なのかもしれない。
星を背に宙を舞う。
俺はゲートから訪れるトリオン兵に向かって銃を向けた。
2/21/2025, 12:45:46 PM