愛し合う二人を、好きなだけ

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2/16/2025, 11:52:52 AM

小説
迅嵐



時間よ止まれ…!止まってくれ…!

そう願ったのはいつぶりだろうか。
おれは脇目も振らずに走り出していた。


時は遡ること半日。

「んんー?」

「どうした?」

妙に引っかかる未来を視た。目の前の嵐山が不思議そうな顔をする。彼の瞳には、苦虫を噛み潰したように顔を顰めるおれが映り込んでいた。

嵐山がトリオン兵に負ける…?

未来は嵐山がいつも戦っているはずの普通のトリオン兵に敗北することを告げていた。ありえない。嵐山の実力でトリオン兵に引けを取るなど、ましてやラービットよりも数段格下のトリオン兵に負けるなど、あるはずがなかった。

「…迅?」

「……今日南の方でトリオン兵が3体くらい来るっぽい。嵐山隊が担当だったよね」

「あぁ。今から引き継ぎだ」

「あのな嵐山、実は…」

その言葉に訝しげな表情をした嵐山が口を開こうとする。

「嵐山さん、そろそろ時間です」

嵐山隊の一員である時枝の声にはっと振り向き、嵐山は申し訳なさそうに迅の肩を軽く叩く。

「すまない迅、また後で」

「っ…」

迅の口から言葉は発されることなく、息と共に喉元に押し込まれた。


言うべきだったとモヤモヤ考え込みながらぼんち揚を頬張る。
未だに消えず、ほぼ確定している嵐山の敗北を、視続けること約半日。
おれは衝撃的な内容を受け止めきれずにいた。

「待て待て…おい嘘だろ…?!」

嵐山の未来が視えない。真っ黒に染まった嵐山の結末を、混乱する脳みそが必死に理解しようと働く。

嵐山が…死ぬ…?

しかも太陽の位置的にそう遠い未来ではない。大体30分後といったところか。

おれは確信すると同時に走り出す。基地の窓を開け、大きく踏み出した。常人ならば死一択の距離を下りながら、感じる。
時間が止まって欲しいと、いつぶりに思うだろう。
地面に降り立ち、南方向を目指して駆け抜ける。

嵐山、お前を助けることを許して欲しい。お前は守られるべき弱い存在なんかじゃない。でも、お前はおれにとって失いたくない、大切な存在だから。
好きな人を守りたい、それだけなんだ。

民家を避けるように宙を舞う。すると眼下に数人の人間が、トリオン兵と戦っている最中だった。最後の一体を仕留め終わった、そう見えた時だった。

民家の影から、小さな男の子と女の子が飛び出してくる。きっと間違えて警戒区域に入り込んでしまったのだろう。2人の後ろからもう一体のトリオン兵。嵐山がそれに気が付き、銃を構えるも間に合いそうになかった。他の隊員も応戦しようとするが、どうやっても嵐山や子供たちを巻き込む形になってしまう。嵐山は手を伸ばし、男の子と女の子をトリオン兵から庇う形で抱きしめる。

その瞬間、おれはスコーピオンを両手に作り、トリオン兵目掛けて投げつける。核に命中し、トリオン兵の動きが止まった。

「っ…!嵐山…!」

声を荒らげると、驚きに染まった顔の嵐山と視線が合う。
嵐山の未来は、続いていた。

間に合った。その事実は、全身の力を奪い、おれは地面に倒れ込む。もう悪い未来は視えない。

「迅!どうしてここに?!」

おれを覗き込むようにして傍に座った嵐山の手を握る。子供たちは他の隊員に任せたようだった。嵐山以外誰もこちらに近づいて来ないのは、時枝の判断と指示だろうか。サンキューとっきー。

「…はぁー…嵐山だ…」

「嵐山だが。いやなんでここに…」

「うーん、好きな子に会いたかったからかなぁ」

「んなっ…!誤魔化すな!言え!」

「あっはっは」

ひとしきり笑うと、未だに繋がれている手に力を込める。
少し眉を釣り上げた嵐山と目が合った。

「帰ろっか」

そう言うと、おれは嵐山に笑顔を向けるのだった。

2/15/2025, 1:27:33 PM

小説
おばみつ



「うわぁ〜ん!ここどこ〜!?」

甘露寺蜜璃、19歳。迷子になりました。


遡る事一時間程前。闇の深まる山奥で鬼を仕留めたことが始まりだった。
いつものように鬼の首を刎ね、そこで終わりだと思っていた。しかし鬼が衝撃的な事を口にする。

「ワタシを殺して終わりだと思っているようだけど、それは大きな間違い。アンタはここから出ることは出来ないのよ!ふふ、せいぜい苦しみながら死ぬといいわ!」

そう吐き捨てた鬼の身体が崩れ去ると同時に、私の顔は真っ青に染まっていた。
確かにいつもならすぐに来てくれる隠の人たちが全く現れない。いつも近くに居る麗ちゃんが居る気配さえない。

「嘘ぉ…」

まあるい月が輝く山の中、私は途方に暮れていた。


「で、でも!あの鬼が嘘をついてたかもしれないし…!」

そう独言を漏らすと、私は元来た道を歩き出す。
草むらを抜け、木の横を通り過ぎ、坂を下る。しかし、何度か繰り返すうちに気がついてしまった。
あの鬼の言ったことは本当だ。どんなに歩いても一向に里は見えてこないことが、最大の理由だった。

「どうしよう…このまま私死んじゃうの…?」

どんどんと不安が増してくる。大切な人の顔が脳裏によぎり、ついに私は歩みを止めてしまった。

「…うぅ…嫌だよぉ…こんな所で死にたくないよぉ…」

涙で視界が滲み、頬には温かいものが伝う。ふと、同じ柱である彼の顔が浮かんだ。
もう二度と彼とも会えないのだろうか。まだ一緒に行きたい場所や食べたいものが沢山あるのに。
どうしようどうしよう!嫌よ嫌!

「うわぁ〜ん!伊黒さん!!助けて!!」

「……じ……!」

「…え…?」

どこから聞き覚えのある声が聞こえてきた。私は一生懸命耳を澄ます。

「どこだ……かん…ろじ…!」

「!!」

声のする方向へ目を向ける。

「甘露寺!」

「伊黒さん…!」

こちらが心配になる程焦りを滲ませ、彼がこちらに向かってきた。ひどく安心してしまったせいか、足に力が入らず地べたに座り込む。

「なんでここが…」

「君の声がすると鏑丸が教えてくれた。…大丈夫か?怪我はないか?」

彼の首元に巻き付く鏑丸くんも心配そうにこちらを見つめていた。

「混乱しているだろうから、詳しいことは後で話そう。…!甘露寺!」

段々と視界が暗くなっていく。私は彼の手の温かさを感じながら、ゆっくりと意識を手放した。


後に聞いた話だが、鬼を倒した後、隠の人たちや麗ちゃんが必死に探しても私は一向に見つからず、途方に暮れていたらしい。そのことをお館様に報告したとき、その場に偶然居た伊黒さんが捜索を願い出てくれたと言うのだ。その後、安心しきり意識を失った私は、なんと横抱きで運ばれたらしい。…気になる殿方に、横抱きで。

嬉しさと恥ずかしさと不甲斐なさでしばらく彼の顔を見れなかったことは、また別のお話。



(蛇さんは、体の表面に当たった振動が下顎等の骨や筋肉などを通して直接内耳に伝わって音を感知してるらしいよ。詳しく知りたい人は調べてみてね。蛇さんがそこまで探知能力が凄いのかは知らんけど、鏑丸くんは蜜璃ちゃんが結構遠くに居ても探せそうではある(個人の感想))

2/15/2025, 12:07:31 PM

ありがとう
(ストック用)

2/14/2025, 7:22:29 AM

小説
迅嵐



2月14日、バレンタインデー。三門市のみならず、世界全体がほんのりとピンク色に染まっているかのような、少しだけ特別な日。

そんな素敵な日、とあるA級部隊が持つ一室では異様な空気が放たれていた。

「……まさかこれ、全部チョコなんですか?」

「……そのまさかだ」

部屋の中には色とりどりの可愛らしい箱が見上げるほど積み重なっていた。
木虎が箱の宛名を確認すると、なんと7割が嵐山宛であった。

「おーい嵐山ー…」

入口の方を振り返ると、迅が顔を真っ青にしながらチョコの山を見上げていた。

「…迅、視えてなかったのか?」

「あれぇ……この量…すごく低い確率だったんだけどな…」

本当に低い確率だったらしく動揺を隠しきれていない迅に、俺は力無く笑みを返すことしか出来なかった。

「ところで何か用か?ここに来るなんて珍しい」

「んぇ?!…いや…その…」

迅が気まずそうに何かをポケットに隠す所を俺は見逃さなかった。素早く迅の手前まで来ると、両腕を掴み勢いよく引っこ抜く。『う゛っ』と情けない声が聞こえてきたがお構い無しだ。
彼の手中には甘い香りのする小さな赤い箱。

「……チョコ?」

「あっ」

成行きを見守っていた木虎が驚きの声を上げる。振り向こうとすると、小さな声で『ちょっと外出てます』と言って横をすり抜けて行ってしまった。少し顔が赤く見えたが大丈夫だろうか。

「うぅ…こんなにあるなんて…」

視線を戻すと、情けなく顔を顰めた迅がチョコの山を見つめながら呟いていた。そういえば、これと一緒の物が結構積み重なっていたような。きっと人気商品なのだろう。

「………こんなにあるなら他の人にあげようかな…」

「っ?!ダメだ!」

予期せぬ言葉に俺の口が無意識に動く。驚きに見開かれた迅の瞳の中で、俺もまた驚いた顔をしていた。

「っ…とにかくそれは俺が貰いたい。…ダメか?」

焦ったことを見透かされないように、言葉を重ねる。少し恥ずかしくなって顔を下に向けてしまう。

「いいけど…同じの後ろにいっぱいあるよ?」

「…これがいい」

「…………じゃああげるからさ、これと同じチョコは受け取らないでよ」

視線を戻すとにんまりと笑った迅と目が合った。けれどその笑みの中で、とてつもなく真剣に迅は何かを願っているようだった。迅の要望を、俺は小さく頷いて了承した。

「わっ」

瞬間、わしゃわしゃと頭を撫でられ驚きの声が漏れ出す。その後、迅は呼び出されるのが視えたと言いながら颯爽と隊室を後にした。俺は撫でられた頭を触りながら、赤い箱を見つめていた。


その1時間後、食堂に設置されているテレビを観て、俺はわなわなと震えていた。

『全国の恋する皆様必見!直接じゃなくてそっと伝えたい、そんなあなたに!箱の色によって意味が変わるチョコレート!大人気、赤色の箱は‪”‬愛するあなたと一緒に生きていきたい‪”‬!是非お買い求めください!』

顔に熱が集まり、先程迅に言われた言葉がぐるぐると全身を巡る。

『これと同じチョコは受け取らないでよ』

きっと今の俺はチョコレートのように甘く、惚けた顔をしているに違いない。

「……っ!」

想いの込められた赤い箱を抱きながら、俺は食堂に背を向け、いじらしく愛しい人の元へと走り出したのだった。

2/13/2025, 7:17:59 AM

小説
迅嵐



「小さい頃さぁ、大人のおれが見た未来の記憶が届いてるって思ってたんだよね」

「?何の話だ?」

「おれの副作用の話」

外は大雪で、迅の副作用が本日のゲート発生はもう無いと告げた昼下がり。報告も終わり、久しぶりに迅とランク戦を楽しんでいた最中だった。

突然の話題に意識が逸れ、スコーピオンが弾き飛ばされる。まだまだだな、とでも言いたそうに笑う迅と目が合った。開発者なだけあって、スコーピオンの性質を知り尽くしている。
瞬間、トリオン供給器官を貫かれ、俺の身体は柔らかいマットレスに倒れ込んだ。


んでこの後自販機の横に備え付けてある椅子(あのよくあるソファみたいなやつ)に座りながらお話しちゃうんだよネ〜^^ランク戦する前に負けた方が飲み物奢るとか話してたら可愛いネ〜^^この世界線のミニ迅ちゃまは(大人のおれが見た未来の記憶をテレパシーかなんかでおれに届けてるんだー!おれすげー!)とか思ってたりしたのかナ〜^^それ聞いたじゅんじゅんは(可愛いな)なんて思ってたりするのかナ〜^^迅ちゃまも人並みにおれすげー期あっただろうナ〜^^くぅ〜〜〜〜〜^^KAWAII〜〜〜〜〜^^ビッグラブすぎるんだよナ〜^^その後は内心悔しいじゅんじゅんがもう一戦お願いしちゃうんだよネ〜^^まぁこいつらは何かと理由つけて一緒に居たいだけなんだよネ〜^^見せつけてくれちゃっテ〜^^はよ結婚しろ〜^^

↑どうしても暗くなっちゃうから心の声を織り交ぜないと書けなかった可哀想な迅嵐オタクの鳴き声

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