愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
おばみつ



「うわぁ〜ん!ここどこ〜!?」

甘露寺蜜璃、19歳。迷子になりました。


遡る事一時間程前。闇の深まる山奥で鬼を仕留めたことが始まりだった。
いつものように鬼の首を刎ね、そこで終わりだと思っていた。しかし鬼が衝撃的な事を口にする。

「ワタシを殺して終わりだと思っているようだけど、それは大きな間違い。アンタはここから出ることは出来ないのよ!ふふ、せいぜい苦しみながら死ぬといいわ!」

そう吐き捨てた鬼の身体が崩れ去ると同時に、私の顔は真っ青に染まっていた。
確かにいつもならすぐに来てくれる隠の人たちが全く現れない。いつも近くに居る麗ちゃんが居る気配さえない。

「嘘ぉ…」

まあるい月が輝く山の中、私は途方に暮れていた。


「で、でも!あの鬼が嘘をついてたかもしれないし…!」

そう独言を漏らすと、私は元来た道を歩き出す。
草むらを抜け、木の横を通り過ぎ、坂を下る。しかし、何度か繰り返すうちに気がついてしまった。
あの鬼の言ったことは本当だ。どんなに歩いても一向に里は見えてこないことが、最大の理由だった。

「どうしよう…このまま私死んじゃうの…?」

どんどんと不安が増してくる。大切な人の顔が脳裏によぎり、ついに私は歩みを止めてしまった。

「…うぅ…嫌だよぉ…こんな所で死にたくないよぉ…」

涙で視界が滲み、頬には温かいものが伝う。ふと、同じ柱である彼の顔が浮かんだ。
もう二度と彼とも会えないのだろうか。まだ一緒に行きたい場所や食べたいものが沢山あるのに。
どうしようどうしよう!嫌よ嫌!

「うわぁ〜ん!伊黒さん!!助けて!!」

「……じ……!」

「…え…?」

どこから聞き覚えのある声が聞こえてきた。私は一生懸命耳を澄ます。

「どこだ……かん…ろじ…!」

「!!」

声のする方向へ目を向ける。

「甘露寺!」

「伊黒さん…!」

こちらが心配になる程焦りを滲ませ、彼がこちらに向かってきた。ひどく安心してしまったせいか、足に力が入らず地べたに座り込む。

「なんでここが…」

「君の声がすると鏑丸が教えてくれた。…大丈夫か?怪我はないか?」

彼の首元に巻き付く鏑丸くんも心配そうにこちらを見つめていた。

「混乱しているだろうから、詳しいことは後で話そう。…!甘露寺!」

段々と視界が暗くなっていく。私は彼の手の温かさを感じながら、ゆっくりと意識を手放した。


後に聞いた話だが、鬼を倒した後、隠の人たちや麗ちゃんが必死に探しても私は一向に見つからず、途方に暮れていたらしい。そのことをお館様に報告したとき、その場に偶然居た伊黒さんが捜索を願い出てくれたと言うのだ。その後、安心しきり意識を失った私は、なんと横抱きで運ばれたらしい。…気になる殿方に、横抱きで。

嬉しさと恥ずかしさと不甲斐なさでしばらく彼の顔を見れなかったことは、また別のお話。



(蛇さんは、体の表面に当たった振動が下顎等の骨や筋肉などを通して直接内耳に伝わって音を感知してるらしいよ。詳しく知りたい人は調べてみてね。蛇さんがそこまで探知能力が凄いのかは知らんけど、鏑丸くんは蜜璃ちゃんが結構遠くに居ても探せそうではある(個人の感想))

2/15/2025, 1:27:33 PM