愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐



時間よ止まれ…!止まってくれ…!

そう願ったのはいつぶりだろうか。
おれは脇目も振らずに走り出していた。


時は遡ること半日。

「んんー?」

「どうした?」

妙に引っかかる未来を視た。目の前の嵐山が不思議そうな顔をする。彼の瞳には、苦虫を噛み潰したように顔を顰めるおれが映り込んでいた。

嵐山がトリオン兵に負ける…?

未来は嵐山がいつも戦っているはずの普通のトリオン兵に敗北することを告げていた。ありえない。嵐山の実力でトリオン兵に引けを取るなど、ましてやラービットよりも数段格下のトリオン兵に負けるなど、あるはずがなかった。

「…迅?」

「……今日南の方でトリオン兵が3体くらい来るっぽい。嵐山隊が担当だったよね」

「あぁ。今から引き継ぎだ」

「あのな嵐山、実は…」

その言葉に訝しげな表情をした嵐山が口を開こうとする。

「嵐山さん、そろそろ時間です」

嵐山隊の一員である時枝の声にはっと振り向き、嵐山は申し訳なさそうに迅の肩を軽く叩く。

「すまない迅、また後で」

「っ…」

迅の口から言葉は発されることなく、息と共に喉元に押し込まれた。


言うべきだったとモヤモヤ考え込みながらぼんち揚を頬張る。
未だに消えず、ほぼ確定している嵐山の敗北を、視続けること約半日。
おれは衝撃的な内容を受け止めきれずにいた。

「待て待て…おい嘘だろ…?!」

嵐山の未来が視えない。真っ黒に染まった嵐山の結末を、混乱する脳みそが必死に理解しようと働く。

嵐山が…死ぬ…?

しかも太陽の位置的にそう遠い未来ではない。大体30分後といったところか。

おれは確信すると同時に走り出す。基地の窓を開け、大きく踏み出した。常人ならば死一択の距離を下りながら、感じる。
時間が止まって欲しいと、いつぶりに思うだろう。
地面に降り立ち、南方向を目指して駆け抜ける。

嵐山、お前を助けることを許して欲しい。お前は守られるべき弱い存在なんかじゃない。でも、お前はおれにとって失いたくない、大切な存在だから。
好きな人を守りたい、それだけなんだ。

民家を避けるように宙を舞う。すると眼下に数人の人間が、トリオン兵と戦っている最中だった。最後の一体を仕留め終わった、そう見えた時だった。

民家の影から、小さな男の子と女の子が飛び出してくる。きっと間違えて警戒区域に入り込んでしまったのだろう。2人の後ろからもう一体のトリオン兵。嵐山がそれに気が付き、銃を構えるも間に合いそうになかった。他の隊員も応戦しようとするが、どうやっても嵐山や子供たちを巻き込む形になってしまう。嵐山は手を伸ばし、男の子と女の子をトリオン兵から庇う形で抱きしめる。

その瞬間、おれはスコーピオンを両手に作り、トリオン兵目掛けて投げつける。核に命中し、トリオン兵の動きが止まった。

「っ…!嵐山…!」

声を荒らげると、驚きに染まった顔の嵐山と視線が合う。
嵐山の未来は、続いていた。

間に合った。その事実は、全身の力を奪い、おれは地面に倒れ込む。もう悪い未来は視えない。

「迅!どうしてここに?!」

おれを覗き込むようにして傍に座った嵐山の手を握る。子供たちは他の隊員に任せたようだった。嵐山以外誰もこちらに近づいて来ないのは、時枝の判断と指示だろうか。サンキューとっきー。

「…はぁー…嵐山だ…」

「嵐山だが。いやなんでここに…」

「うーん、好きな子に会いたかったからかなぁ」

「んなっ…!誤魔化すな!言え!」

「あっはっは」

ひとしきり笑うと、未だに繋がれている手に力を込める。
少し眉を釣り上げた嵐山と目が合った。

「帰ろっか」

そう言うと、おれは嵐山に笑顔を向けるのだった。

2/16/2025, 11:52:52 AM