小説
オリジナル
「遠く…そう……海がいいわ… 私が死んだら……海へ捨ててちょうだい…」
病室の窓から潮風の乗った風が入り込んでくる。栗色の瞳を外に向けながら、リナリアは静かに呟いた。
「急にどうしたのさ」
「急じゃないわ。私、多分明日までには死ぬと思うの」
「それが急だって話じゃないか。君が死ぬなんて、お医者さんから聞いてないよ」
僕は中断していた読書を再開する。だって医者からも、あと数日安静にしていれば良くなるとお墨付きを貰っているのだ。リナリアの勘は鋭いけど、自分の死期までは分かるはずがない。
「そうね……でも約束よ?アレン、私が死んだら海に捨ててね」
「…縁起でもない…。まあ、覚えておくよ」
この会話の数時間後、リナリアは茎を切ってしまった花のように段々と、静かに息を引き取った。
「リナリア…どうして……」
僕は今、海の上の崖に立ってる。下を見ると岩に波が打ち付けられ、大きく水飛沫を上げていた。
手の中には小さくなってしまったリナリア。骨とは、こんなに軽いものなのか。
『約束よ?アレン、私が死んだら海に捨ててね』
耳の奥でガラス細工の様な美しい声が聞こえた。
君を捨てるなんてとんでもない。けれども約束を破ることも出来ない。
それなら答えはただ一つ。
「待っててねリナリア。すぐ行くよ」
嗚呼、僕のリナリア。愛するリナリア。
僕はゆっくりと足を前に出し、鋭い飛沫の中へと飛び込んだ。
小説
迅嵐
これは、誰も知らない秘密。
「嵐山、今日玉狛泊まっていけよ」
夜九時半。そろそろ帰ろうと立ち上がった時だった。服の裾を控えめに引っ張られ、俺はゆっくりと座り直す。
迅は月に一度の頻度で俺を玉狛へ引き留める。
「あぁ、いいぞ」
にこりと笑ってみせると、迅は安心した様に服の裾を離す。
俺は迅の手を握り、肩に頭を乗せた。迅の匂いが俺に移るくらいぎゅうぎゅうに体を寄せると、迅も負けじと寄せてくる。
「ふふ」
猫のように体を擦り付けながら、幸せを噛み締めていると、迅から柔らかく声が漏れた。
「嵐山、あったかいね」
その声が迷子の子供のようで、俺は強く手を握り直してしまった。
しばらく無言の時間が流れ夜も更けた頃。
「…もう寝よ?おれ眠くなっちゃった」
歯磨きを済ませ部屋に戻ると、先にベットに潜り込んでいた迅が、布団を持ち上げ手招きをしていた。
素直に近づくと、がばりと引き寄せられる。
「わっ」
すっぽりと頭ごと抱えられ、迅の胸に顔を埋める。
抗議をしようとするが『おやすみ』と頭を撫でられ、俺は抵抗を辞めざるを得なかった。すぐに小さな寝息が聞こえてきて、抱えられている腕の力が緩む。その隙に顔を上げ迅の顔を見ると、薄らだが隈が出来ていた。
やはり何かあったのだろう。最悪に近い未来でも視たのかもしれない。
迅は月に一度の頻度で俺を玉狛へ引き留める。自惚れかもしれないが、きっとそれは俺への小さなSOSなのだ。だからこうして俺を取りこぼさぬ様、抱えて眠るのだ。
大丈夫、大丈夫だから。
絶対に独りにはしないから。
だから、
____そんな哀しい顔をしないで。
俺は迅の胸に顔をもう一度埋めると、意識を手放したのだった。
小説
おばみつ 千ゲン 迅嵐
夜明けには様々なものがあるだろう。
蛇を連れる青年は恋しい乙女への文を書いている。
桜色の髪を持つ恋多き乙女は人喰い鬼を一切り。
心に希望を携えた科学屋の少年は、人々を救う発明をして。
人の心を知り尽くしたマジシャンは、そんな科学屋の横ですやすや夢の中。
空色の瞳を持つ青年が少し先の未来を告げ、
赤き衣を纏い、ヒーローである青年が空からの刺客に銃を向けた。
彼らの迎えた夜明けは、皆等しく静かだった。
蛇を連れる青年は、恋した乙女の無事を願いながら。
桜色の髪を持つうら若き乙女は、恋した青年の安息を願った。
遊び心を携えた科学屋の少年は、横で眠る安らかな顔に少しのイタズラ。
人の心を知り尽くすはずのマジシャンは、知らずに少年との楽しい日々の夢の旅。
空色の瞳を持つ少しだけ特別な青年と、赤き衣というヒーローの象徴を脱いだ普通の青年は仲睦まじく寄り添いながら、短い短い幸せな休息を。
静かな夜明けは、彼らを優しく照らしていた。
heart to heart
だから英語系やめてって!成績2だから!!!
ちなみに今日友人関係しっぱいしたから。
友達に自撮り送ってまだ返信返ってきてないから。
おわった、、嫌われた、、もうやだ、、
考えすぎとか言ったら処す(INFJ)
小説
迅嵐
『永遠の花束をあなたに』
その言葉と共に恋人が雑誌の表紙に写っていた。
「おぉ〜」
ソファの上でくつろぎながら雑誌をめくる。
ボーダーと婚活雑誌のタイアップで、ぜひ雑誌の表紙を飾って欲しいという話の中、広報部隊である嵐山隊に白羽の矢が立ったのだ。
そこで隊長であり、一番知名度のある嵐山が表紙に抜擢され、現在に至る。
もちろん時枝や木虎、佐鳥も雑誌の中に登場しているらしい。
純白のスーツに身を包み、美しい花束に負けない程の笑顔を浮かべ、こちらに目線を向ける嵐山。きっと三門市中のファンがその姿を見て、感嘆を漏らすだろう。
そんな人気者の嵐山が俺の恋人だということは、誇らしくもあり、寂しくもあった。
お前の想いは勘違いじゃないのか?おれの気持ちにあてられているだけじゃないのか?
雑誌の中の嵐山に優しくキスをする。
…お前は普通の未来を歩めるんだよ。
「ただいま」
「どわっ」
突然の声にびくりと肩を震わす。視逃していたせいで、おれの心臓は早鐘を打っていた。
「嵐山?お、おかえり。…いつ帰ってた?」
振り向きながらおれは気持ちを落ち着かせようとする。
「迅が『おぉ〜』って声出してる時から」
最初からじゃんか!
「声かけろよ!」
「いやぁ、あまりにも熱心に読んでたから、つい」
後ろから嵐山が抱きついてくる。少しの花の匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
「本物の俺にはしてくれないのか?」
「?何を?」
「キス」
普段おねだりなんて滅多にされないおれは驚いて、嵐山の顔を見ようとする。がしかし、がっちりとホールドされていてギリギリ見ることができない。攻防を繰り返し、ちらりと見えた耳は真っ赤に染っていた。
「…妬いたの?」
おれの首筋に埋もれている嵐山が微かに頷く。なんと可愛いことか。
…あぁ、この気持ちは本物だ。勘違いでもあてられていた訳でもない。本当に俺の事を好いてくれている。
心の中にじんわりと広がった温かい気持ちが、おれを心地よくさせた。
「おいで、嵐山」
素直におれの前に来た嵐山を膝上に乗せる。火傷しそうな程熱い頬に手を添えると、ぴくりと小さく跳ね、その愛らしさに堪らず唇を重ねた。
好き、好きだ、愛してる。
互いの唇を離す頃には息が上がっていて、二人同時に吹き出した。
「はぁーあ。…ねぇ嵐山、結婚しようか」
「えっ」
嵐山が驚いた顔で固まって数十秒。中々返事が返ってこないもので不安になってくる。
「……」
「………ごめん、嫌だった?」
その瞬間、嵐山の綺麗な瞳から大粒の涙がひとつ、こぼれ落ちた。
「……嬉しい…」
そう言った嵐山の笑顔は花束のように色付き、輝いていた。おれはこの笑顔をずっと忘れられないだろう。
おれはもう一度、愛しき伴侶に口付けをしたのだった。