小説
迅嵐
『永遠の花束をあなたに』
その言葉と共に恋人が雑誌の表紙に写っていた。
「おぉ〜」
ソファの上でくつろぎながら雑誌をめくる。
ボーダーと婚活雑誌のタイアップで、ぜひ雑誌の表紙を飾って欲しいという話の中、広報部隊である嵐山隊に白羽の矢が立ったのだ。
そこで隊長であり、一番知名度のある嵐山が表紙に抜擢され、現在に至る。
もちろん時枝や木虎、佐鳥も雑誌の中に登場しているらしい。
純白のスーツに身を包み、美しい花束に負けない程の笑顔を浮かべ、こちらに目線を向ける嵐山。きっと三門市中のファンがその姿を見て、感嘆を漏らすだろう。
そんな人気者の嵐山が俺の恋人だということは、誇らしくもあり、寂しくもあった。
お前の想いは勘違いじゃないのか?おれの気持ちにあてられているだけじゃないのか?
雑誌の中の嵐山に優しくキスをする。
…お前は普通の未来を歩めるんだよ。
「ただいま」
「どわっ」
突然の声にびくりと肩を震わす。視逃していたせいで、おれの心臓は早鐘を打っていた。
「嵐山?お、おかえり。…いつ帰ってた?」
振り向きながらおれは気持ちを落ち着かせようとする。
「迅が『おぉ〜』って声出してる時から」
最初からじゃんか!
「声かけろよ!」
「いやぁ、あまりにも熱心に読んでたから、つい」
後ろから嵐山が抱きついてくる。少しの花の匂いが俺の鼻腔をくすぐった。
「本物の俺にはしてくれないのか?」
「?何を?」
「キス」
普段おねだりなんて滅多にされないおれは驚いて、嵐山の顔を見ようとする。がしかし、がっちりとホールドされていてギリギリ見ることができない。攻防を繰り返し、ちらりと見えた耳は真っ赤に染っていた。
「…妬いたの?」
おれの首筋に埋もれている嵐山が微かに頷く。なんと可愛いことか。
…あぁ、この気持ちは本物だ。勘違いでもあてられていた訳でもない。本当に俺の事を好いてくれている。
心の中にじんわりと広がった温かい気持ちが、おれを心地よくさせた。
「おいで、嵐山」
素直におれの前に来た嵐山を膝上に乗せる。火傷しそうな程熱い頬に手を添えると、ぴくりと小さく跳ね、その愛らしさに堪らず唇を重ねた。
好き、好きだ、愛してる。
互いの唇を離す頃には息が上がっていて、二人同時に吹き出した。
「はぁーあ。…ねぇ嵐山、結婚しようか」
「えっ」
嵐山が驚いた顔で固まって数十秒。中々返事が返ってこないもので不安になってくる。
「……」
「………ごめん、嫌だった?」
その瞬間、嵐山の綺麗な瞳から大粒の涙がひとつ、こぼれ落ちた。
「……嬉しい…」
そう言った嵐山の笑顔は花束のように色付き、輝いていた。おれはこの笑顔をずっと忘れられないだろう。
おれはもう一度、愛しき伴侶に口付けをしたのだった。
2/5/2025, 6:10:48 AM