愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐



これは、誰も知らない秘密。

「嵐山、今日玉狛泊まっていけよ」

夜九時半。そろそろ帰ろうと立ち上がった時だった。服の裾を控えめに引っ張られ、俺はゆっくりと座り直す。

迅は月に一度の頻度で俺を玉狛へ引き留める。

「あぁ、いいぞ」

にこりと笑ってみせると、迅は安心した様に服の裾を離す。
俺は迅の手を握り、肩に頭を乗せた。迅の匂いが俺に移るくらいぎゅうぎゅうに体を寄せると、迅も負けじと寄せてくる。

「ふふ」

猫のように体を擦り付けながら、幸せを噛み締めていると、迅から柔らかく声が漏れた。

「嵐山、あったかいね」

その声が迷子の子供のようで、俺は強く手を握り直してしまった。
しばらく無言の時間が流れ夜も更けた頃。

「…もう寝よ?おれ眠くなっちゃった」

歯磨きを済ませ部屋に戻ると、先にベットに潜り込んでいた迅が、布団を持ち上げ手招きをしていた。
素直に近づくと、がばりと引き寄せられる。

「わっ」

すっぽりと頭ごと抱えられ、迅の胸に顔を埋める。
抗議をしようとするが『おやすみ』と頭を撫でられ、俺は抵抗を辞めざるを得なかった。すぐに小さな寝息が聞こえてきて、抱えられている腕の力が緩む。その隙に顔を上げ迅の顔を見ると、薄らだが隈が出来ていた。
やはり何かあったのだろう。最悪に近い未来でも視たのかもしれない。

迅は月に一度の頻度で俺を玉狛へ引き留める。自惚れかもしれないが、きっとそれは俺への小さなSOSなのだ。だからこうして俺を取りこぼさぬ様、抱えて眠るのだ。

大丈夫、大丈夫だから。
絶対に独りにはしないから。
だから、

____そんな哀しい顔をしないで。

俺は迅の胸に顔をもう一度埋めると、意識を手放したのだった。

2/8/2025, 8:27:16 AM