小説
オリジナル
「遠く…そう……海がいいわ… 私が死んだら……海へ捨ててちょうだい…」
病室の窓から潮風の乗った風が入り込んでくる。栗色の瞳を外に向けながら、リナリアは静かに呟いた。
「急にどうしたのさ」
「急じゃないわ。私、多分明日までには死ぬと思うの」
「それが急だって話じゃないか。君が死ぬなんて、お医者さんから聞いてないよ」
僕は中断していた読書を再開する。だって医者からも、あと数日安静にしていれば良くなるとお墨付きを貰っているのだ。リナリアの勘は鋭いけど、自分の死期までは分かるはずがない。
「そうね……でも約束よ?アレン、私が死んだら海に捨ててね」
「…縁起でもない…。まあ、覚えておくよ」
この会話の数時間後、リナリアは茎を切ってしまった花のように段々と、静かに息を引き取った。
「リナリア…どうして……」
僕は今、海の上の崖に立ってる。下を見ると岩に波が打ち付けられ、大きく水飛沫を上げていた。
手の中には小さくなってしまったリナリア。骨とは、こんなに軽いものなのか。
『約束よ?アレン、私が死んだら海に捨ててね』
耳の奥でガラス細工の様な美しい声が聞こえた。
君を捨てるなんてとんでもない。けれども約束を破ることも出来ない。
それなら答えはただ一つ。
「待っててねリナリア。すぐ行くよ」
嗚呼、僕のリナリア。愛するリナリア。
僕はゆっくりと足を前に出し、鋭い飛沫の中へと飛び込んだ。
2/9/2025, 10:36:15 AM