愛し合う二人を、好きなだけ

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11/7/2024, 3:17:02 AM

小説
千ゲン



実験に薬草が必要になり、場所を知っていた俺が案内していた時だった。

「...あれ?」

ぽつ、と鼻先に水滴が落ちる。見上げると、空は明るいものの柔らかい雨が降り出していた。

隣では千空ちゃんが俺と同じように空を見上げている。

「狐の嫁入りだ」

「...ただの天気雨だな」

一人言に返ってきたのは現実主義の千空ちゃんらしい回答だった。

「もー千空ちゃん夢がないねぇ」

「あぁ?天気雨に夢も雨もねえだろ」

「全く...ほら、足元」

「...?あ゙?おいゲンてめぇもっと早く言え」

千空ちゃんの足元には探していた薬草がしっかり生えていた。雨水が落ちる度、ここにいるよと言わんばかりに葉がぴょこぴょこ動いている。

「千空ちゃ〜ん、ちょっと視野が狭いんじゃないの〜?」

おちゃらけて言ったその言葉に千空ちゃんはムスッとした顔をする。ちょっと意地悪しすぎたかな?


「……逆にメンタリスト様は視野が広すぎて、目の前がおざなりになってんじゃねえのか?」

「えっ」

気がつけば目の前に千空ちゃんの顔があった。瞬きする間もなく、俺の口は千空ちゃんの口に塞がれていた。

「!?」

「……さっさと集めて帰るぞ」

「...っ...この前まで純情少年だったくせに!」

あっさり形勢逆転された俺は顔が真っ赤になっている自覚をしながらも反撃を試みる。

でも千空ちゃんの顔を見た瞬間、白旗を上げざるを得なくなった。

「……そっちからやったくせに何赤くなってんのさ」


雨はいつの間にか止んでいて、薬草集めは問題なく続けられそうだった。

…いや、やっぱ無理、恥ずかしい!千空ちゃんのばか!!!!

11/5/2024, 1:36:07 PM

小説
おばみつ※最終決戦後



一筋の光が君の元へ差し込む。

まるでスポットライトのよう。光に照らされた髪の一本一本がキラキラと輝いた。

ふと、君が俺の視線に気がつく。ふわりと笑いこちらを向く彼女の姿は、天使と見間違えるほど美しかった。

「伊黒さん!」

鈴を転がすような声で俺を呼ぶ。

嗚呼、なんて愛しい、なんて可愛い。

世界一愛しくて可愛いあの子を俺は抱きしめた。


「…………いぐろ、さん」

はっと我に返る。目の前は、何も見えなくなっていた。腕の中には確かな重みと微かな温かさ。声は、その腕の中から発せられていた。

「……もう……ねむいわ…………」

息も絶え絶えに声を紡ぐ彼女を支えることが精一杯で、俺は彼女の頭を自らの胸元へ引き寄せる。

「…あぁ……あったかい…………あったかいなぁ…」

彼女の命はもう長くはないだろう。呼吸の音が、心臓の動きが、段々と弱く小さくなっていることに気がついた。

「大丈夫だ甘露寺。最期まで一緒だ」

「………………うん…………いぐろ…さん……」

「…どうした?」

「………………」

「……甘露寺?」

「………………」

辺りがしんと静まり返る。

最後の力を振り絞り、精一杯抱きしめる。二度と離さないように。

俺の見えなくなった目からは、とめどなく涙が溢れた。


意識が朦朧とし、自らもすぐに甘露寺の後を追うことが分かった。きっとあの子は待っててくれる。そうしたら一緒にいこう。あの鈴を転がすような声でまた名前を呼んでくれるだろうか。


_______今いくよ


一筋の光が、俺たちを優しく照らした。

11/4/2024, 1:04:21 PM

哀愁を誘う

今日は書きたくない気分なの

おやすみ

11/3/2024, 1:57:53 PM

小説
おばみつ



カラン。

染め粉の入った底の浅い皿に、無造作に櫛を落し入れる。
手は染め粉で黒く染まり、爪の中まで色が入り込んでいた。

やおら視線を上げると、そこには顔色の悪い少女がいた。

「……私、こんなにやつれてたっけ?」

ろくに食べず、無理して笑い、もう既に限界は近かった。あんなに食べることが大好きだったのに。あんなに笑うことが楽しかったのに。今はもう、何をしても私でないみたい。

それでも、それが素敵な殿方との結婚へと繋がるのならば。

鏡の中の自分に向かって手を伸ばす。

鏡に触れ、真っ黒に染まった手を下へとずり下げてゆく。鏡面に残る黒線は、さながら涙のようだった。

「……さぁ笑って。そうしないときっと、だぁれも私のことを好きになってはくれないわ」




「君は、とても美しい髪色をしているのだな」

隣に並ぶ彼は、目線を合わせずそう答える。いつものように、私が髪色の話をしていた時だった。初めて会った殿方は皆、この奇抜な髪色に戸惑いを表情に滲ませるのが常だった。今回もそうだと思っていた矢先、彼は予想外の返答をした。

「…え…」

「……すまない。初対面の女性に失礼なことを言った」

初めて家族以外から髪色を褒められた。

その後に一緒に行った食事でも、私は気が抜けて沢山食べてしまったのに「沢山食べることはいい事だ」って言ってくれた。

初めて家族以外からそんなことを言われた。

…貴方と出会ってから、初めのことが沢山あるの。

屋敷に戻り、鏡の中の自分を見つめる。

「……私、こんなに嬉しそうだったの?」

沢山食べ、心の底から笑い、仲間から認められた。
そして、私の髪色を美しいと褒め、沢山食べる姿を優しく見ていてくれる素敵な殿方と出会うことができた。

鏡の中の自分に向かって手を伸ばす。



そこには頬を桃色に染め、一人の青年に恋する普通の女の子がいた。

11/2/2024, 2:18:28 PM

小説
迅嵐※友情出演:弓場



最近、眠りにつく前に、嵐山はいつもうつ伏せになって枕の下に手を入れる。
何故だかはよく知らなかった。ただ、安心するからかな、とかひんやりして気持ちいいのかな、とか思ってた。

ある日、何となしに聞いてみた。

「嵐山ってさ…なんで最近寝る前に枕の下に手入れんの?」

「えっ…………いや別に」

普段とは違う歯切れの悪い返しに、おれはモヤモヤしていた。おれに隠さなきゃいけない物があるってこと?まさか浮気…?その枕の下に浮気相手の何かが隠されているとか…?いやいやそんなまさか。

だけどその日からずっと、頭の中では枕の下に何があるのかばかりを考えてしまっていた。

任務が終わり帰路に着く。部屋を覗くと、嵐山は既に寝息をたてていた。

ふと、頭の方に目を移すと枕がズレており、そこから一枚の紙がはみ出ているのに気がついた。

「…」

悪い未来は視えないけれど、浮気相手の何かだったら嫌だし。まぁ、嵐山に限ってそんなことないだろうけど?確認するだけだし。

嵐山が見せたがらなかった物を勝手に見るという最低な行動の言い訳を頭の中で呟きながらも、そっと紙をつまみ上げてみる。

「……え」

それは写真だった。しかもそれは今しがた写真をつまみ上げた張本人、おれの写真だった。…この画角の撮り方は弓場ちゃんか…?しかも写真の中のおれは締りのない顔をしている。

「……ん……じん…?」

おれの声で起こしてしまったのか、嵐山は眠たそうな目を擦りながら身体を起こす。

「…あれ、……ん?……あ!いや待て迅、それ!!」

おれの手の中にある写真に気づくと眠気が飛んだのか、嵐山はこちらに勢いよく手を伸ばしてきた。

それを視越してひらりと躱す。

「嵐山、これ、なぁに?」

「……」

手を伸ばした状態でぴたりと固まる嵐山。
目の前でひらひらと写真を揺らすと、困ったように眉を下げほんのりと顔を赤く染める。

「…………お前の、写真」

「なんで枕の下に入ってるの?」

「…………」

なかなか答えようとしない嵐山に、おれはゆっくりと顔を近づけてみる。

距離にして数センチ。嵐山の瞳に映る自分が中々に締りのない顔をしていて、もしかして写真の中のおれは嵐山を見てたのかな、とぼんやりと思った。

「…………会えない日が多いから…枕の下に入れたら……お前の夢が…みれるかと思って……」

おれから目を離さず、健気に瞳を揺らしながら答えるその姿は、あまりにも可愛くて心が蕩けそうだった。

「……っはぁ〜。浮気じゃないのか、良かった…」

「…浮気?そんなのする訳ないだろう?」

ぼふ、と嵐山の身体に顔を埋め息をつく。そりゃそうだ。だって嵐山だもん。そんなことする訳がない。
………でも、

「ちょっとだけ、心配になっただけだよ」

「というか、勝手に見るな。せっかく隠してたのに…」

「悪かった。ほら、生の悠一くんですよ〜」

嵐山の程よい筋肉のついた細い腰を抱くと、上からチョップが降ってくる。

「今日はもう寝るぞ」

「えー」

「えーじゃない」

「ちぇ」

渋々起き上がり、部屋着に着替えると嵐山の待つベッドへと向かう。

子供体温の嵐山が入るベッドの中は暖かかった。

「あ、こうすれば夢みれるんじゃない?」

「…………」

嵐山の頭を俺の胸元に押し付けてしばらくすると、背中に温かい手が回ってきた。

「ちなみにどんな夢をみたかったの?」

「……言わない」

「素直にイチャイチャする夢って言えばいいのに」

直後、俺は背中をつねられ、非常に情けない声をあげるのだった。

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