小説
迅嵐
「永遠に変わらないものなんてないんだよ」
迅は缶コーヒーを手にしながらボソリと呟いた。
屋上からは市民たちの暮らしがよく見えた。少し冷たい風が髪の間をすり抜ける。
「…そうか?」
「あぁそうだよ。どんなものでもいつかは変わる」
どこか投げやりに聞こえるその言葉に俺は無言で耳を傾け続けた。
「ずっと変わらないで欲しいものも全部変わる。そりゃ確かに変わんなきゃダメな時もあるだろうけどさ、今は…寂しくなるから変わらないで欲しいんだよ」
それは、いつも上手く本音を隠してしまう迅の小さな綻び。手の中の缶を苦しげに握りしめる彼の背中は、いつもより少しだけ小さく見えた。
「嵐山は、そのままでいてよ」
「……」
「明るく真っ直ぐに、綺麗なままでいて」
「嫌だ」
俺は咄嗟に言葉を吐き出した。
「…え」
「明るく真っ直ぐはともかく、綺麗なままでなんていられない」
「…」
「綺麗なままなんて、面白くないだろう?」
「……」
「ちょっと汚れてたり、崩れてた方が愛着も湧くもんさ」
「…たしかに」
俺の目を見て神妙な面持ちで頷く様子がなんだかおかしくて笑ってしまった。
「永遠に変わらないものなんてない。それは俺もお前も同じだ。いつかは変わらなければならない。…なら一緒に変わっていけば、あまり差が開かずに二人で変わっていけるんじゃないか?」
俺はいつもしてもらうように、迅の頭を優しく、めいいっぱい撫で回す。
「そうすればきっと、寂しくない」
らしくなく迅は瞳を大きく揺らすと、困ったように、でも少しだけ安心したように笑った。
11/1/2024, 1:50:37 PM