小説
迅嵐
「永遠に変わらないものなんてないんだよ」
迅は缶コーヒーを手にしながらボソリと呟いた。
屋上からは市民たちの暮らしがよく見えた。少し冷たい風が髪の間をすり抜ける。
「…そうか?」
「あぁそうだよ。どんなものでもいつかは変わる」
どこか投げやりに聞こえるその言葉に俺は無言で耳を傾け続けた。
「ずっと変わらないで欲しいものも全部変わる。そりゃ確かに変わんなきゃダメな時もあるだろうけどさ、今は…寂しくなるから変わらないで欲しいんだよ」
それは、いつも上手く本音を隠してしまう迅の小さな綻び。手の中の缶を苦しげに握りしめる彼の背中は、いつもより少しだけ小さく見えた。
「嵐山は、そのままでいてよ」
「……」
「明るく真っ直ぐに、綺麗なままでいて」
「嫌だ」
俺は咄嗟に言葉を吐き出した。
「…え」
「明るく真っ直ぐはともかく、綺麗なままでなんていられない」
「…」
「綺麗なままなんて、面白くないだろう?」
「……」
「ちょっと汚れてたり、崩れてた方が愛着も湧くもんさ」
「…たしかに」
俺の目を見て神妙な面持ちで頷く様子がなんだかおかしくて笑ってしまった。
「永遠に変わらないものなんてない。それは俺もお前も同じだ。いつかは変わらなければならない。…なら一緒に変わっていけば、あまり差が開かずに二人で変わっていけるんじゃないか?」
俺はいつもしてもらうように、迅の頭を優しく、めいいっぱい撫で回す。
「そうすればきっと、寂しくない」
らしくなく迅は瞳を大きく揺らすと、困ったように、でも少しだけ安心したように笑った。
理想郷※自我
私にとっての理想郷は、お父さんお母さんがずっと元気に生きてて、仕事しなくて良くて、好きなことを沢山出来て、いっぱい寝れて、おなかいっぱいご飯が食べれて、戦争がなくて、病気がなくて、誰も傷つかない、みんなが笑顔で居られる世界。
あと勉強しなくて良くてテストがない世界。
明日テストなんだけどさ……ノータッチで寝てやるよ
…!2教科赤点だったから来週は再試まみれだけど強く生きるよ…!
ちなみに世界平和を願う私はINFJです。
小説
迅嵐※過去捏造
「ほら、大人しく寝てろって」
「うぅ…不覚……」
ピピ、と脇に差した体温計が軽快な音を奏でる。
数値を見ると38.6度。紛れもなく風邪をひいていた。
「…数字見たらもっと具合悪くなってきた…」
「あー見るな見るな」
自覚した途端頭が重くなった、気がした。いや絶対悪化した。
「もうだめだ…迅、俺のことは忘れて進むんだ…!」
「はいはいリンゴ切ってあげるからな」
百パーセント死ぬゲームのキャラクターのようなセリフを吐くと、迅は上手く躱しながらリンゴを剥きに下へ向かう。冗談はさておき、本当に具合が悪くなってきた。迅が戻ってくるまで少し寝よう…。そう思い、俺は目を瞑った。
時偶、懐かしく思うことがある。
俺は風邪なんて滅多にひかない、元気を体現したような子供だった。だから、たまに引く風邪は本当につらくて、怖くて、嫌だった。そんなときに、母はよくリンゴをうさぎ型に切ってくれた。そのリンゴは、ただのリンゴよりもずっとずっと美味しかった。
今は風邪をひくことも少なくなり、あのうさぎ型のリンゴも食べることが無くなった。
だから日常の中でリンゴを見ると時偶に、懐かしく思ってしまうのだ。
「……嵐山」
「…ん……?あ……寝てた……?」
「ごめんね起こして。ほら、リンゴ。食べな」
俺の目の前に置かれたリンゴは、うさぎの形をしていた。
「……」
「あれ、食べれない?やっぱ具合悪い?」
「…いや、食べれる。ありがとう」
リンゴを口に含むと昔食べたリンゴと同じ味がした。いつも食べるリンゴよりも、ずっとずっと美味しかった。
「んむ、うまい」
「そりゃ良かった……早く治せよ」
「うん」
素直に頷くと、迅は俺の頭を優しく撫でた。
……たまには、熱を出すのもいいもんだな。
悪ノ娘
※悪ノP様の楽曲です。世界一大好きな曲です。
むかしむかしある所に、齢14の幼い王女様がおりました。
王女様は傲慢で我儘で、いつも国の人々を困らせていました。
そのため王女様は、国の人々から『悪ノ娘』と呼ばれていました。
王女様には海の向こうの国に婚約者がおりました。
しかし婚約者は隣国の歌姫に恋をし、王女様との婚約を破棄してしまいました。
怒った王女様は、隣国の歌姫を殺してしまいました。
そんな王女様の行動に我慢ができなくなった国の人々は、遂に革命を起こしました。
赤き鎧の女剣士をリーダーに、人々は王女様を捕え、処刑することにしました。
王女様を処刑する時、彼女は最期にこう言いました。
『あら、おやつの時間だわ』
そうして王女様は処刑され、国には平和が訪れました。
………………しかしこれは表の物語。
実はこれには裏の物語、もう一つの物語があったのです。
王女様には顔のよく似た弟がおりました。
しかし王子様ではなく、召使いとして姉である王女様に仕えておりました。
召使いは王女様の願いをなんでも叶えました。
王女様のために召使いは、義父を殺し、愛した歌姫を殺しました。
王女様が喜ぶことが、召使いにとっての喜びでした。
歌姫を殺してしばらく経つと、王女様を殺すため、国の中で革命が起きました。
召使いは王女様を逃がすため、自らが王女となり死ぬことを決意しました。
『ほら僕の服を貸してあげる。これを着てすぐお逃げなさい。大丈夫、僕らは双子だよ。きっと誰にも分からないさ』
王女様は泣きながら召使いの服を着て、お城から逃げていきました。
王女様として捕まった召使いは、処刑される最期の瞬間、姉である王女様の口癖を言いました。
『あら、おやつの時間だわ』
こうして、姉と顔のよく似た召使いは、王女として処刑されたのでした。
逃げた王女様はどうしたのかって?
……
それはまた、次のお話で。
小説
迅嵐※友情出演:太刀川慶
「ん゙……??」
目を覚ますと、そこはどこかの隊室だった。...この広さと匂いは...
「お、起きたか。おはよう」
聞きなれた声で確信を持つ。
「ねえ嵐山、...なんでおれ嵐山隊の隊室で寝てんの...?」
寝る前の記憶が全くと言っていいほどなかった。嵐山隊に特段用があった記憶もなく、本当に何故こんなところで寝ているのか。
「...覚えていないのか?」
心外そうにこちらを見る視線が痛い。チクチク刺さってます嵐山さん。
「...覚えてません」
嵐山は無言でおれにスマホを差し出す。そこには一枚の写真が写し出されていた。
「なっ…!?」
そこには、真っ赤になりながら抵抗する嵐山と意地でも抱きつくおれの姿があった。
「ちょっとまって?なにしてんのおれ!!」
「こっちが聞きたい」
曰く、おれは嵐山を見つけた途端無言で抱きつき、反撃した嵐山の肘が見事にクリーンヒットして意識を持っていかれたらしい。どうりでみぞおちが痛いわけだ。
「太刀川さんと話してたらフラフラ歩いてきたのが見えて...呼んだら人目があるのに急に抱きつくし、何も言わないしで大変だったんだぞ」
この写真も太刀川さんが面白がって撮ったものだという。
「あー...なんかうっすら思い出してきた...ごめん……」
「全く...ほら、今日は送ってやるからもう帰ろう」
玉狛に着くと、勝手知ったる嵐山はおれの自室までするりと向かった。電気をつけないまま器用におれを寝かせる嵐山は、さすが長男だとぼんやりと思う。
「絶対に寝るんだぞ」
「はいはい...……ねえ嵐山、明日非番でしょ?...明日さ、一緒に映画観に行こうよ。...今日のお詫びってことで」
「...!……普通に一緒に行きたいって言えばいいのに」
そう言いながらも、暗がりの中でも分かるほど嬉しそうに笑う嵐山は本当に可愛くて、思わずその形のいい唇を奪う。
「っ...!もう寝ろ!」
「おぶっ...」
またもやみぞおちに入れられた衝撃により、おれは深い眠りにつかざるを得なかった。