愛し合う二人を、好きなだけ

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小説
迅嵐※過去捏造


「ほら、大人しく寝てろって」

「うぅ…不覚……」

ピピ、と脇に差した体温計が軽快な音を奏でる。
数値を見ると38.6度。紛れもなく風邪をひいていた。

「…数字見たらもっと具合悪くなってきた…」

「あー見るな見るな」

自覚した途端頭が重くなった、気がした。いや絶対悪化した。

「もうだめだ…迅、俺のことは忘れて進むんだ…!」

「はいはいリンゴ切ってあげるからな」

百パーセント死ぬゲームのキャラクターのようなセリフを吐くと、迅は上手く躱しながらリンゴを剥きに下へ向かう。冗談はさておき、本当に具合が悪くなってきた。迅が戻ってくるまで少し寝よう…。そう思い、俺は目を瞑った。


時偶、懐かしく思うことがある。

俺は風邪なんて滅多にひかない、元気を体現したような子供だった。だから、たまに引く風邪は本当につらくて、怖くて、嫌だった。そんなときに、母はよくリンゴをうさぎ型に切ってくれた。そのリンゴは、ただのリンゴよりもずっとずっと美味しかった。
今は風邪をひくことも少なくなり、あのうさぎ型のリンゴも食べることが無くなった。
だから日常の中でリンゴを見ると時偶に、懐かしく思ってしまうのだ。

「……嵐山」

「…ん……?あ……寝てた……?」

「ごめんね起こして。ほら、リンゴ。食べな」

俺の目の前に置かれたリンゴは、うさぎの形をしていた。

「……」

「あれ、食べれない?やっぱ具合悪い?」

「…いや、食べれる。ありがとう」

リンゴを口に含むと昔食べたリンゴと同じ味がした。いつも食べるリンゴよりも、ずっとずっと美味しかった。

「んむ、うまい」

「そりゃ良かった……早く治せよ」

「うん」

素直に頷くと、迅は俺の頭を優しく撫でた。
……たまには、熱を出すのもいいもんだな。

10/30/2024, 11:42:17 AM