お題:この世界は
あまりに主語が大きすぎる。
「この世界は」それを語れと言うのか、無謀だ。
しかし、私は問いに対して、何かしらの答えを出さずにはいられないタチである。この悪癖は時に誠実と言われるが、その本質は自己顕示欲だ。また厄介なのは他者からの評価を求めないということである。私は、誰かに拍手を送られるのも指を指されるのもごめんだ。
私が書いた言葉は私だけのもので、読まれた言葉は読者のものだ。だから評価するなら己を評価したら良い。
私にとって世界もそういう構造をしている。世界が与える事実はそれでしかなく、様々な側面があり、一概にこれだと断定できるようなものはないが、その日の私が楽しいと思えば楽しいのだ。逆も然り、私が苦しいと思えば苦しいのだ。
だから世界は無数にある。もしかしたら、文章とは数多の世界を覗き見ることなのかもしれない。私の世界や貴方の世界が記号で表され、読まれ、読者の中で意味ある言葉になりまた新たに世界が生まれる。
大袈裟だ。神様にでもなったつもりか。神秘的に捉えるのはやめたまえ。言葉も世界も、それでしかないさ。意味や意義を見出さずとも人間は人間だ。それらは必要なものにとっては必要であって、資格じゃない。
全く、こんな難しいお題は偶ににしてくれ。
こんな文章は見るに堪えない。
お題:どうして
人間は死ぬ、それがどうしても受け入れられない。
なぜ、どうして、死ななければならないのか。
最悪のネタバレだと思う。生まれました、生活しました、いずれ死にます。なんだ、この映画は。レビューすらつかない駄作じゃないのか。やめてくれ、まだわからないじゃないか、不老不死かもしれない、それか長命種でこれから1000年生きるかもしれないじゃないか。
そんな物語なら、良かったのに。ここは現実だった。
受け入れ難いが人はいずれ死ぬ。生きる他にそれに抗う術はない。だから生きることでしか生きれないのだ。こんな文字も言葉も本当は何の意味もない。所詮、娯楽でしかない。
何も残らない。何も残せない。だから生きることをしなければならない。悲しさを無理矢理流し込んだら、目眩や吐き気に襲われた。その残響みたいな頭痛に生を見出して安心する。馬鹿馬鹿しい。こんな気持ちになるのも、人間が死ぬ構造をしているせいだ。
どうして。君は、俺は、死ぬんだろうか。
お題:夢を見てたい
この夢というのは、睡眠中の体験のことだろうか?
それなら、夢は見てたくないな。
私は夢がそんなに好きじゃない。というのも、良い夢の内容は忘れるのに悪夢は頭にこびりつくからだ。
あれが嫌い。落ちる夢。浮遊感で目が覚める感覚が嫌でしかない。しかも、落ちるまでのシュチュエーションも毎度変えてくるから悪趣味だと思う。突き落とされたり、橋が壊れたり、細かすぎて伝わらないモノマネ選手権の穴が出てきたときは流石に頭を抱えた。そこまでして落としたいんか。
願望という意味での夢なら見続けていたいと思う。
というより見続けるべきだ。
この世界はどこにいっても不安だらけだ。問題を解決したとしてもまた新しい問題が現れる。悲しいかな、それに終わりはない。疲れるよな。もう、どうにでもなれって思ってしまうことがあるよ。
だから、己への縛りとして夢を見続けたいと思う。それはいつまでも変わらない馬鹿をやるため、若さを持ち続けるため、心を生かすため、と色々あるが、私のためだ。
私の夢を見続けていたい。
お題:ずっとこのまま
『ずっとこのまま』に続きがあるのなら、
どんな言葉が相応しいだろう。
『時が止まれば良い』は無難だと思う。この夜が明けることを望まず、永遠の闇の中で過去だけを想起する。食卓の匂い、家族の笑い声、初めて握った手、その何とも言えない温度、愛しい日々、「過去だけで良い」と人生に幕を下ろす。それは、未来への諦観だろうか。反して、懐古だろうか。
『変わらないでいてほしい』はニュアンスが変わる。世界を固定するのではなく、誰かを固定する願いだ。言い換えるなら、その人らしくいてほしいと祈ることなんだろう。ただその言葉が呪いにならないとは言えない。その人が『その人らしさ』を問い続けるのなら、この言葉は澱になる。
『生きていてほしい』なら前述したものよりも切実で健気な願いになる。ただ生きていてくれるだけで良い、とも言い換えられるかもしれない。それは他の全てを赦す代わりに、死だけは赦さない紛うことなき呪いだ。それが吉と出るか凶と出るかは、受け取り手に委ねられる。言葉の真骨頂だ。
「と、考えるのは無粋だね」
僕は彼の遺書を読むのをやめ、眼鏡を掛け直す。そして、彼の最後の言葉を三つ折りにし封をした。
『最後に君へ、ずっとこのまま』
彼の物語の最後は、この文章で締めくくられた。何通りかの解釈はあれど、その続きなどありはしない。あるとすればそれは幽霊で、僕たち生者が生み出した錯覚だろう。それはただの言葉であった最期を捻じ曲げるという面もあるのだ。
けれども幽霊にこそ物語がある。届いてこその言葉で、錯覚するほどの愛だろう。僕はそれが読みたい。
「『ずっとこのまま』……なんちゃって」
独り言が夜に溶ける。その情景にいつか自分の言葉が文字になることを望まずにはいられなかった。
◯✉️の話
お題:寒さが身に染みて
暖かい部屋にいても、着込んでも、布団を被っても、身体が震えて「寒い」と訴えてくるから、私の身体は寒さに染まりに切ってしまったのだと思う。
錯覚だった。指先が冷えていくように心根までも冷えて、瞬きがゆっくりになり、そのまま瞼を閉じたら凍ってしまうような恐怖と安穏。
寒さには魔力がある。
「何も考えたくない」とか、
「余裕がない」とか、
「優しくされたい」とか、
「抱きしめられたい」とか。
「それが手前の全部だ」と
思わせられるからこの魔力は厄介だ。
そんなことを考えていたらまた身震いをした。寒くてしょうがない。左手で右手の指先を擦った。少しも温まらない。寒さの前では私は無力で、どうすることもできないまま魔力に染まっていく。
黒や藍の水滴が染み、模様を作って、何かになる頃には私は眠りについていることだろう。そして目が覚めたら、鼻先が冷たい。いつも通りの朝が来るのだ。