輝く夜、それは月を指しているのか、星を指しているのか、現代に至っては夜景を指しているのか。
静かな部屋から外を眺める。
「どうしたんだい、電気もつけないで」
「ううん、ここからの眺めはやっぱりいいなって」
「新しい部屋気に入ったようで良かったよ。いつでもおいで」
「ありがとう」
そう言って男に抱きつく。
ベッドに倒れ、覆いかぶさる男の後ろからは月が監視している。
いくら高い所へ登っても届かない。
今度はなぜ迎えに来ないのか。
大切な人はいなくなった。
寄ってくる者は皆私の身体が欲しいだけ。
私の気を引くために様々な物を用意する。
―早くかえりたい
月を睨みつける。
『月夜』
電車に揺られ家路につく。
まだ明るいが気温が下がり外は寒い。
車内は冷たい風が遮られ、足元から温風が送られてくる。
日差しが気持ちよく、体がぽかぽかする。
心地よい揺れ…
大きな揺れで目を覚ます。
窓の外は緑に囲まれている。
田舎暮らしはこんなもの。
見慣れた風景に再び瞼を閉じ…
―いや、待てよ。こんな木の生え方しているところないよな。
「次は〇〇」
―寝過ごした…
『遠くの街へ』
「あっ、あの、川田くん…」
「私、川田くんのことが好きなの。」
「えっ!?」
「もし良かったら…」
「ねぇ、川田くん聞いてる?先生呼んでたって。」
「ああ、わかった、ありがとう。」
―職員室へ行かないと。
―こんな寒いのに外で部活とかよくやるよな。
―ああ、廊下で広がって喋ってるなよ。
カキーンッ
「あっ!危ない!」
ドンッ
ガシャンッ
「キャーーーッ!」
「だっ大丈夫!?」
「…うっうん、だっ大丈夫、助けてくれてありがとう。」
「無事で良かったよ。」
「すみません、ちょっと通ります。」
「あぁ。」
「失礼します。大野先生いらっしゃいますか。」
「おお、川田!待ってたぞ。今回の模試も凄いな。満点とったやつはお前だけだったよ。」
「いや、そんな。」
「川田くん、また満点だったんですか?」
「そうなんですよ、木村先生。私も担任として鼻が高いですよ。」
「頑張ったわね、川田くん!」
「いえ、先生方のご指導あっての事ですから。」
「はっはっはっはっ」
「川田大丈夫か?」
「あっはい、すみません。」
「じゃあそういう事だから、このプリント配っといてな。」
「分かりました。失礼します。」
―あーあ、つまんないな。何か起きないかな。
『現実逃避』
君は今、ウキウキしているね。
デートの時は、普段しない髪のセットをするって知っているよ。
君は今、デートプランを思い出しているね。
昨日いっぱい調べていたし、さっきから返事が上の空だもん。
君は今、デザートを悩んでいるね。
ご飯は即決なのに甘党だからデザートはいつも決めるのに時間がかかるんだよね。
君は今、手を繋ぎたいと思っているね。
手ばっかり見て、自分の手を伸ばしては引っ込めてを繰り返してる。
君は今、もっと一緒にいたかったって思っているね。
優しいから笑顔で見送るけど、1人の帰り道で大きなため息ついてるもん。
君は今、デートを振り返っているね。
いい事があるとシャワーを浴びながら大きな声で歌うもんね。
君は今、いい夢を見ているね。
寝顔までニヤニヤしているよ。
私は君の今をずっと知っているよ。
早く“今”を共有しようね。
『君は今』
ある休日、目覚ましもなく目を覚ます。
薄暗い部屋の中、時計を見ると11時。
夜中の11時ではない。
リビングに降りても家族の姿はなかった。
皆出かけたのだろう。
空腹に気づき食事を探すが見当たらない。
コンビニまで徒歩10分、買い物に行こう。
外に出ると生暖かい空気に包まれた。
雨が降り出しそうな灰色の雲が頭上を覆い、盛りを過ぎた草花が項垂れている。
住んでいる人がいるのか分からない、中途半端な高さの建物。
人通りも無くモノクロの世界に取り残されてしまったような感覚だ。
情景を読み取る問題があれば、確実にハッピーな気持ちではない。
気だるそうな店員、店内放送はなんだか遠く聞こえる。
世界が灰色に感じるのは昨晩親とケンカをしたからではない。
テストの点数が悪かったからでも、名指しで怒られたからでも、あの子に彼氏ができたからでもない。
なんだか凄く既視感がある。
いや、長い人生生きていればこんな感じの日もよくあるだろう。
辺り一面が暗くなる。
ある休日、目覚ましもなく目を覚ます。
薄暗い部屋の中、時計を見ると11時。
夜中の11時ではない。
リビングに降りても家族の姿はなかった。
皆出かけたのだろう。
空腹に気づき食事を探すが見当たらない。
コンビニまで徒歩10分、買い物に行こう。
『物憂げな空』