彼女はとても清く正しい女性である。
いつも人の優しさの痕跡を辿ると彼女がいる。
今日はそんな彼女の願い事を叶えてあげようと思う。
下界に降りるのは久しぶりだな。
願い事叶えたらちょっと遊んでいこうかな。
あっ、いたいた。
「清子よ。私は神だ。そなたの素晴らしい行いは毎日見せてもらった。褒美として何でも願いを1つ叶えてしんぜよう」
よしよし。噛まずに言えた。威厳あるある。
「あの、すみません。私日本語しか話せないのですが、何かお困りですか」
えっ、どういう事。
「いや、私がそなたの願いを叶えてしんぜよう」
「えーっと、中国語かしら。何、困ってますか。日本語OKですか」
おっと、伝わってない感じね。
あれ、日本語で喋ってるよね。
「私、神。あなた、願い事、何」
「きっと分かりやすく言ってくれているのよね。どうしましょう。話せる人探した方が良いわよね。ちょっと待ってて。ここ、待つ」
「いやいや、言ってることは分かってるから。これ日本語、日本語。清子待って」
「すみませーん。どなたか中国語話せる方はいませんか」
いや、不味いよこれ。一旦姿消して仕切り直し。
「どうしました。僕話せますよ」
「すみません。こちらのおじいさんが困っているようで。あれ、いない」
「大丈夫そうですかね」
「わざわざ来てくださったのにすみません。探している間に行っちゃったみたいで」
「とんでもないです。大丈夫そうなら良かったです」
「ありがとうございました」
えー、何で。何で言葉通じないの。
「あれ、神様もう帰ってきたんですか。東京観光しなかったんですか」
「聞いてよ。清子に願い事聞いたんだけど言葉通じなくて」
「えっ、どんな感じに話したんですか」
「清子よ。私は神だ。そなたの素晴らしい行いは毎日見せてもらった。褒美として何でも願いを1つ叶えてしんぜようって。日本語話してるよね」
「いや、確かに日本語ですけど、どんだけ昔の日本語話してんですか」
「あら、やだ。うっかり」
『神様が舞い降りてきて、こう言った。』
終わりにしよう。これでもう終わりにするんだ。
そう思いながらもずるずると先延ばしにしまっている。
後悔するのは自分だとわかっている。
何度も同じ事で苦しめられてきた。
それでも終わりにできないぐらい魅力的なのだ。
いや、魅力というものではないな。
無意識に触れてしまう。
時間を忘れるほどに。
時計が目に入る。
「うわぁ、最悪…」
寝不足確定だ。
終わりにしよう。
スマホの画面を消す。
『終わりにしよう』
あそこの男どもは見た目だけが取り柄の女を囲んで、揃いも揃ってだらしない顔してる。
頼られてるんじゃなくてパシられてるの。
裏でなんて言われてるか知らんのね。
あっちの女どもは化粧塗りたくって“王子”狙い。
香水混ざり合って最悪。
スメハラだろ。
どいつもこいつも人によって態度変えやがって。
まあ別に、バカの相手するのは時間の無駄だから。
そっちは仲よろしくやってくださいよ。
『優越感、劣等感』
無理無理無理無理。
絶対に無理。
ほら、今笑ってた。絶対に私の事を笑っているんだよ。
ああ、もう辛い。嫌だよ。
何でよ、もう。あーーーっ。
人と関わりたくないよ。
嫌われたかも。変だと思われたかも。
自分が傷つけられるのが怖い。
自分が傷つけるのが怖い。
人と関わらなければ皆ハッピーでいられるかもしれない。
『怖がり』
〜♪♪♪〜
「もしもし?」
「何?どうしたの?」
「いや、何してるのかなって思って」
「ふふっ」
「えっ、何?なんで笑うの?」
「別にぃ」
「教えてよ」
「最近毎日かけてくるじゃんって思って」
「……だって」
「私は嬉しいよ」
「うん」
「ごめんね、会えなくて」
「ううん」
「………」
「なつ」
「うん?」
「呼んだだけ」
「ふふっ」
「ちゃんと待ってるから」
「ありがとう」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」
―――――――――
『寂しさ』