たくさんの炎が揺らめく部屋の中、数名の男女が語り合っている。
「―――そして、こっそり見てみると、そこに写っていたのは―――だったんだって」
そう1人の女が話し終わると同時に炎を1つ吹き消す。
順々に話していき、1人が話し終わるごとに炎を消していく。
「いやぁ、そんな事あるんだね」
「それは怖すぎるわ」
各々の話を聞き、皆思わず言葉を漏らす。
最後の1人が話し始める。
「あのさ…、水を差す用で悪いんだけど…、これは何?」
他の人たちは顔を見合わす。
「えっ?何って?」
「いやいや、この集まりだよ!何でこんなにアロマキャンドル焚いて、怪談話風に恋愛トークしてるの!?色々焚きすぎて臭いわ!」
「えーっ、今回のテーマ聞いてないの?」
「聞いてないよ!」
「あっ、ごめん。俺伝え忘れたわ」
「ちょっと、言っといてよ」
「悪い悪い。今回は恋愛百物語するんだって」
「そうそう。恋愛の恐怖体験を語っていくの」
「なんて下世話な…。普通の百物語でいいじゃん」
「だって私心霊系無理だもん」
「そうだとしても、このキャンドルは?普通の蝋燭でいいだろ?」
「こっちの方が可愛いじゃん」
「……」
「まっ、諦めて続きやろうぜ」
最後の1人は長いため息をつくと、語り始めた。
『キャンドル』
「本日はお忙しい中、取材をお受けいただきありがとうございます」
「いえ、大したお話はできませんがよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします。早速ですが、お部屋が広くて、とても明るいですね」
「そうなんです。主人のこだわりで、光の入り方に合わせた内装をしてますの」
「そうでしたか。お庭も綺麗ですね」
「ええ、庭の方は私の自由にさせてもらっているの―――」
――――――
「いやぁ、本当に素敵なご夫婦ですね。最後に、夫婦円満の秘訣も伺ってよろしいでしょうか」
「うーん、秘訣と言えるかわかりませんが、主人からもらったものはどんなものでも大事に保管しておりますの」
「ええっ、ご結婚されてから全部ですか」
「いえ、付き合いはじめてからですわ。ご覧になります?」
「それは是非」
「こちらです。この一室にあるものは全て主人からもらったものですの」
「こんなに沢山…。このカップは?」
「主人とデートで食べたアイスのカップですわ」
「この紙は」
「連絡先を書いてくれたメモですわ」
「すごいですね…。綺麗に整頓されてますし…。えっ?この瓶に入っているのは…」
「主人がくれた1番大切なものですわ。もっと大きくなった姿は見られませんでしたが、こうしていつまでも3人でいられますのよ」
「えっ…」
「ここにいたのかい」
「あら、あなた、おかえりなさい」
「ただいま。おや、お客さんかな。こんにちは」
「こっ、こんにちは」
「それは…」
「ええ、あなたからのプレゼントをお見せしていましたの」
「そうだったんだね。ちょうど今日もプレゼントを買ってきたんだ。下にあるから見に来てくれるかい。」
「あら、嬉しい。何かしら」
「………えっと、あなたは取材に来たのだったかな。」
「あっ、はいっ、そうです」
「彼女変わっているだろう?それは僕がハロウィンに驚かそうと買ってきたものなんだ。わかるね?」
「はっ、はいっ。本日はこれで失礼いたします。あっ、あっ、ありがとうございました」
『たくさんの想い出』
今日は会えるかな?
もし今日会ったら何話そう?
そんな事を考え浮かれている。
特別な感情ではないと思う。相手には好かれていない事を知っているし。
でも、嬉しいとか楽しいが溢れてくる。
その人のことばかり考えてしまう。
でも、その人にバレてはいけない。もっと距離をとられてしまうだろうから。
暖かくなればこの気持ちはふわっとなくなるのに、寒くなると現れてどんどん大きくなる。
この気持ちは特別なものではない。
認めてはいけない。
年々気持ちは膨らんで、相手も同じならいいのにと思う。
暖かくなるまで耐えなくては。
『冬になったら』
いつもの道を全力で走る。
見慣れた景色がどんどん流れて行く。
頑張って間に合わせないと。
これが最後だってわかっていたのに。
何故あの時素直に行かなかったのだろう。
自分を責めたところで状況が変わる事はない。
時計の針は進んでいく。
ただ前へ前へ足を進めるだけ。
もう少し。
改札を抜ける。
「待って!」
バタンッ、プシュー
待っては貰えなかった。
さよなら、終電。
『はなればなれ』
うちの子猫ちゃんは気性が荒い。
今日は帰るのが遅くなってしまった。
「ただいま、遅くなってごめんよ」
そう言って玄関に入ると、駆け寄ってきて小さな手で叩いてくる。
そんな小さな手で叩いても痛くないよ。自然と笑みが溢れる。
急いで夕飯の準備をする。
その間もずっと僕の周りをウロウロしている。
きっと僕が帰ってきて嬉しいのだろう。
夕飯を前にして様子がおかしい。
どうやらお気に召さないようだ。
しかし、怒りながらもしっかり食べている姿は可愛くてしょうがない。
今日はプレゼントを買いに行っていたから遅くなってしまったのだが、これを渡したらご機嫌は直るかな。
ツンと離れて座っている彼女に新しい首輪のプレゼントをつけてあげる。
「可愛いなぁ、ずっと一緒にいようね」
そう言いながら撫で回す。
ご機嫌は直ったようだ。今日も一緒の布団で眠る。
「あれ?先輩、こんな時間まで大学にいるの珍しいですね」
「ああ、今日は彼女の方が長くてね」
「ちょっと!終わったんだけど!」
「おっと、終わったみたいだ。うちの子猫ちゃんがお呼びだから行くね。君たちも気を付けて帰るんだよ」
「はーい」
「お疲れ様でしたー」
「あの先輩ってイケメンで優しいけど変わってるよね」
「ね、彼女さんのこと子猫ちゃんって呼んでるし」
「いやいや、それだけじゃないのよ。彼女さんを軟禁してるって噂!」
「えー?あの気性の荒い人が軟禁されてるなんて嘘でしょ」
「先輩と付き合い始めてからバイトも辞めたし、先輩以外と話してる様子がないんだって!連絡も繋がんないらしいよ!」
「ええ?何それ。でもブランドの新作ネックレスしてたじゃん、バイトしてないと買えないでしょ」
「先輩がプレゼントしたんじゃない?」
「ええ、いいな!だったら私もあのイケメン先輩に飼われたい!」
『子猫』