無気力

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11/14/2022, 12:02:54 PM

強い風が木々を揺らす。
「さむっ」
思わず女は声に出す。
ついこの前まで生暖かい風が吹いていたというのに。
再び冷たい風が彼女の肌を刺す。
「あーあっ、もう本当に寒いなっ」
彼女はやけくそになって大きな声を出す。
先日、付き合っていた相手から唐突に別れを告げられ、訳も解らぬまま振られてしまったのだ。
彼女が寒いのは体だけはでなく、心もだった。
――一人でいるのは寒いな。
彼女はそれまでの二人の温かい思い出を振り返っていた。
――だめだめ、せっかく落ち着いてきたのに、今思い出したら辛くなる。
そんな折、先程よりも一層強い風が吹く。
「あぁっ」
風が彼女の帽子を吹き飛ばした。
彼女は帽子を追いかる。
帽子は長身の男のもとに飛んで行った。
「大丈夫でしたか?風強かったですね」
そう言って男は笑顔で彼女に帽子を渡す。
彼女はその男の笑顔に見惚れ、ぽっかり口を開けている。
そう一目惚れだった。

秋の風、冷たい風の事を指すが、同時に男女の心の移ろいやすさも表す。


『秋風』

11/13/2022, 11:59:40 AM

今日はアプリで知り合った女の子と会ってきた。
会うまでは不安だったけど、最高に楽しかった。
しかも、めっちゃかわいかった。
初めて会うからランチだけだったけど、すごく盛り上がった。
俺の話しであんなに楽しそうに笑って、絶対相性良いよな。
あっという間だったけど、駅までの道もずっと俺のこと見てたし、
「また会いましょう」
って言ってたから、絶対脈あるわ。
次は水族館とかかな。うわぁ、楽しみだ。






今日はアプリで知り合った男と会ってきた。
メッセージのやり取りはいい感じだったけど、なんか微妙だった。
見た目は今どきって感じ。
初めて会うからランチだけ、あっちはすごく楽しそうだった。
自分の自慢話とか身内ネタばっかりで、とりあえず笑っておいたけど合わないわ。
やっと帰れると思ったら、駅までの道でど真ん中歩くし、人が来ても避けようとしないからガン見しちゃった。
最後には、電車来るのに次の約束を取り付けようとしてくるから、
「予定確認して連絡するので、また会いましょう」
って言ってなんとか帰ってきた。
いやぁ、もう次はないかな。


『また会いましょう』

11/12/2022, 12:46:30 PM

――残り14日――
若い男女が集められた部屋。
この集団を管理する男が話している。
「―期限は28日、遅れた者は――」
「なあなあ、今回の期限きつくね?」
後ろの奴が話しかけてくる。
「まあ何とかなるだろ」
「いや、お前はそうかもしれないけどさ」
「そうそう、俺たちには後がないもんな」
その隣の奴も話に入ってくる。

他の奴らも大体同じような事を話しているようだ。
だが実際に焦っている奴はいないだろう。

この日はいつも通り解散後、帰路についた。





――残り10日――
この数日、話題に挙がることはなかったが、今日になってお互いの進度の探り合いが始まった。
「どんな感じ?」
「全然だよ!」
本当の事を言っている奴はほとんどいないだろう。
「よっ!お前はどうよ?」
先日の奴らだ。
「ああ、ぼちぼちかな」
「まじか、俺やばいって」
「俺もまずいわ」
そう言っているが、危機を感じているようには見えない。
おそらく本当の事を言っていないのだろう、それは俺も同じだが。





――残り7日――
今日、ようやく俺は今回の案件の詳細を確認した。
これは厳しい。
血の気が引くようだった。
だが絶望を感じている場合ではない。早急に準備を整えなくては。





――残り3日――
集団の中で明らかに表情の違う者たちが出てきた。
おそらく奴らはこの案件を成し遂げたのだ。
俺もこの3日間で達成せねばならない。





――残り1日――
まずい。
心拍数が急激に上昇する。
手も震え始めた。
様々な感情が頭の中をかき回す。
集中しなくては。
今晩中に達成できなければ…
家族が何か言っていたようだが、内容は入ってこない。





――――
「はーい、授業はここまで。今日締切の課題、この箱に提出していってな」
ぞろぞろと教卓の上の箱にレポートを提出していく。

昼休み。
「いやー、俺今回の終わらないかと思ったわ。徹夜でギリ終わらせたわ」
「俺も、徹夜でなんとか。まじ眠いわ。お前はどうよ?」
「あー、大変だったよな」
「絶対余裕だったろ」
「お前顔が余裕だったし」
「いやいや、まじだって」

そう、俺は昨晩夕食も摂らずに徹夜で終わらせた。
毎回のレポート課題、もっと早くやっていればという後悔。
それでも毎度ギリギリの作業。
タイムリミットが迫る恐怖。
俺はこの極限の状態を毎回楽しんでしまっているようだ。

『スリル』

11/11/2022, 1:54:45 PM

――自分もそっちに行きたい。
――何故みんな簡単に飛んで行くの?






諦めてからどれくらい経ったのだろうか。
追い越される事にも慣れてきた。
嬉しそうで誇らしげな笑顔。
自分だけが取り残されている。

ふと横を見る。
――ああ、あの子もダメだったんだ。
――仲間だね。

声をかけようと側へ行く。
その子は強い眼差しで歩き始めた。

「待って君、どこへ行くの?」
「あっち側へ行くに決まっているじゃないですか。」
「やめておきな、僕はもう何度も挑戦しているけど無理だったんだ。」
「何度も?」
「そう。みんなと同じようにやっているのに僕はできなかったんだ。だから君も無駄足になるからやめておきな。だって君も僕と同じで――」
「違います。僕にこれは向いていない。だから別の方法で行きます。僕にあるのはこれだけではありませんから。あなたもそうでしょう?」

その子はそう言って進んで行く。

――そうか、これでなくても良かったのか。
浮かび上がる笑顔、軽くなった身体で走り出す。


『飛べない翼』

11/10/2022, 10:46:55 AM

久々に空いた時間ができた。
やりたいこともないし、走りにでも行くか。

着替えて靴紐を固く結ぶ。
念のため準備運動はしっかりやっておこう。

まずい、この時点で結構きつい。


ゆっくりと走り始める。
冷たい空気が体内に入ってくる。
呼吸の辛さとは裏腹に、高揚感で心臓がくすぐったい。


大分ペースが掴めてきた。
さすがに、あの頃のようには走れないな。

下り道、見える夜景は変わっていない。

山の麓を走る。お決まりのコースだった。
山の方を見上げる。ぼんやりとススキが月に照らされている。

山の大きさ、自分の小ささを感じる。
あの頃は先輩と話しながら走っていたから気がつかなかったな。

少しペースを落として、澄んだ空気を大きく吸う。
淀んだ空気をすべて吐き出す。



もうこんな季節だったのか。
目薬とポケットティシュ買わないと。

『ススキ』

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