強い風が木々を揺らす。
「さむっ」
思わず女は声に出す。
ついこの前まで生暖かい風が吹いていたというのに。
再び冷たい風が彼女の肌を刺す。
「あーあっ、もう本当に寒いなっ」
彼女はやけくそになって大きな声を出す。
先日、付き合っていた相手から唐突に別れを告げられ、訳も解らぬまま振られてしまったのだ。
彼女が寒いのは体だけはでなく、心もだった。
――一人でいるのは寒いな。
彼女はそれまでの二人の温かい思い出を振り返っていた。
――だめだめ、せっかく落ち着いてきたのに、今思い出したら辛くなる。
そんな折、先程よりも一層強い風が吹く。
「あぁっ」
風が彼女の帽子を吹き飛ばした。
彼女は帽子を追いかる。
帽子は長身の男のもとに飛んで行った。
「大丈夫でしたか?風強かったですね」
そう言って男は笑顔で彼女に帽子を渡す。
彼女はその男の笑顔に見惚れ、ぽっかり口を開けている。
そう一目惚れだった。
秋の風、冷たい風の事を指すが、同時に男女の心の移ろいやすさも表す。
『秋風』
11/14/2022, 12:02:54 PM