刹那

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8/7/2023, 12:37:40 PM

最初から決まってた

貴方はいつも私の一歩前を歩いていた。
無口で感情の読み取れない貴方を、怖いと思ったこともあった。
それでも時折、後ろを軽く振り向き私の存在を確かめる。
その行為だけで、私はあなたの優しさを感じることができた。

貴方がよく喋りよく笑うようになったのは、丁度一年前くらい。
突然の変化に驚きを隠せなかったけど、それまでほとんど貴方の笑った顔なんて見たことなかったから、私は嬉しくて仕方なかった。
それまで一緒に過ごした日々も、もちろん楽しかったけれど、貴方と一緒に笑い合える日々は今まで以上に幸せを感じられた。

当たり前に続くと思っていた日常が、一瞬で崩れてしまうなんて。
仕事中に掛かってきた一本の電話。
それは彼の死を告げるものだった。

彼は先天性の難病を患っていたらしい。私にそんな話をしてくれた事は一度もなかったけど。
思えば貴方には何度も振られていた。理由はいつも曖昧で、納得がいかない私は何度も何度もアプローチをして、半ば諦めたような形で貴方は私と一緒にいてくれるようになった。

貴方に変化が訪れたタイミングで、貴方は余命宣告されていたのね。貴方は私より先に逝ってしまう事をずっと知っていたから、最初から私を遠ざけていた。それでも不器用な優しさや愛情はたくさん感じていた。最後の一年は、貴方が最後に私に残してくれた精一杯の優しさだったのね。

7/28/2023, 1:00:09 PM

お祭り

君が私を出掛けに誘ってくれたのは初めてだった。
特に、人が多く集まる場所へは行きたがらない君が、この街で一番大きな祭りの日に一緒に行こうだなんて。

私は二つ返事で答えたが、正直緊張している。
こうして君を待っている間も、落ち着かない。
本当に君は来るのだろうか?

――ごめん、お待たせ。
  このりんご飴、人気ですぐ売り切れちゃうんだ。
  今日しか出店しないから、どうしても一緒に食べてみたくて。

りんご飴を両手に持ち、駆け寄ってくる君。
愛おしさがこみあげてきた。私はそっと顔を伏せる。
今の私の顔、きっと林檎よりも赤い。

7/27/2023, 11:59:44 AM

神様が舞い降りてきて、こう言った

意識が遠のく中で、耳障りなサイレン音がやけにうるさく感じた。
家族で楽しくドライブしていただけなのに。
何が起きたのかわからないけど、一瞬でとてつもない痛みが体中駆け巡り、至るところから出血し、叫び声が周りから聞こえてきた。
なんとなく、死ぬんだなって思った。
ぼんやりそう思うだけで、考える余裕なんて無いけど。

意識を手放し、次に目を開けると1面真っ白な世界だった。
誰もいないのに、声が聞こえた。

――大きな事故だったね、誰も助からなかった。
――とても残念に思うよ。でもここに来た君に、慈悲を。

まさか、神様?
姿はどこにも見えないけれど、きっとそうなんだと思えてならない。

――君にだけ、大きな力がある。
――君を生き返らせるか、君が犠牲になり家族を全員生き返らせるか。選びなさい。

きっと今までの人生で一番難しい選択。
それでも私は迷わず叫んだ。

「神様、お願いします!私の―――……」

7/26/2023, 3:26:47 PM

誰かのためになるならば

貴方様に、生涯この身を捧ぐと誓った。
あの日から、私の全ては貴方様のために。
貴方様の笑顔が、優しい眼差しが、私の名を呼ぶ綺麗な声が、私にとっては全て宝物です。

しかし最近の貴方様は、どうも思い詰めているように見えた。理由を尋ねても、にこりと笑うだけ。
風の噂で、貴方様は重い難病を患っている事を知った。
それも、寿命はあとわずか。

私は純白のベッドに横たわる貴方様の手を握っていた。
もう、長くはない。
直感的にそう感じた。

「ねぇ、お願いがあるの。
 私の命を、あなたの手で終わらせて」

消え入るような声で、貴方様は懇願した。
聞き間違えかと思いたかったが、貴方様の瞳に迷いはなかった。
大切な人の命をを、自分が奪うなんて。
躊躇う私の手を、貴方様は優しく握りしめ、微笑みを浮かべながら私の手を首元まで持ってきた。
残酷だ、と思った。
それでも、これが貴方様の幸せになるならば。

――どうか、安らかに、お眠りください。

私の涙は暫く止まらなかった。

7/25/2023, 1:26:08 PM

鳥かご

今日も私はいい子のフリ。
汚い言葉を吐き捨てられて、暴力を振るわれる。
心も体もボロボロ。
あと何日、何年、私はこの状況に囚われ続けるの?

ふと、窓の外を見ると、1羽の鳥が空を飛んでいるのが見えた。
あの鳥は、私よりもたくさんの自由を知っている。
私の生活は、鳥かごの中と同じ不自由な世界。
私もあの鳥の様に飛び立てば、自由を手に入れられる?

小さく息を呑み、窓の縁にそっと手をかけた。

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