最初から決まってた
貴方はいつも私の一歩前を歩いていた。
無口で感情の読み取れない貴方を、怖いと思ったこともあった。
それでも時折、後ろを軽く振り向き私の存在を確かめる。
その行為だけで、私はあなたの優しさを感じることができた。
貴方がよく喋りよく笑うようになったのは、丁度一年前くらい。
突然の変化に驚きを隠せなかったけど、それまでほとんど貴方の笑った顔なんて見たことなかったから、私は嬉しくて仕方なかった。
それまで一緒に過ごした日々も、もちろん楽しかったけれど、貴方と一緒に笑い合える日々は今まで以上に幸せを感じられた。
当たり前に続くと思っていた日常が、一瞬で崩れてしまうなんて。
仕事中に掛かってきた一本の電話。
それは彼の死を告げるものだった。
彼は先天性の難病を患っていたらしい。私にそんな話をしてくれた事は一度もなかったけど。
思えば貴方には何度も振られていた。理由はいつも曖昧で、納得がいかない私は何度も何度もアプローチをして、半ば諦めたような形で貴方は私と一緒にいてくれるようになった。
貴方に変化が訪れたタイミングで、貴方は余命宣告されていたのね。貴方は私より先に逝ってしまう事をずっと知っていたから、最初から私を遠ざけていた。それでも不器用な優しさや愛情はたくさん感じていた。最後の一年は、貴方が最後に私に残してくれた精一杯の優しさだったのね。
8/7/2023, 12:37:40 PM