刹那

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7/24/2025, 1:03:45 PM

もしも過去へと行けるなら

こんなに辛くて悲しい別れなら、出会わなければ良かった。
二人で愛を育んてきたのに、終わるのはあっけない。
永遠なんてない。ずっと一緒にいようなんて、子供の口約束でしかない。それでも最期の日まで一緒にいたかったよ。

「愛してくれて、ありがとう」

それが最期の言葉だった。
彼女はもうこの世にいない。
出会わなければ良かった。本当に?
違う。
過去に、出会った日に戻れるなら、もう一度恋をして、今までよりもっと、数え切れないほど沢山の幸せを二人で分かち合いたい。
そして君の心臓が止まる1秒前に、僕が先に待っていたい。
天国で、君が迷子にならないように。

8/14/2024, 12:05:34 PM

自転車に乗って

強い日差しが照りつける帰り道、ただでさえ暑いのに、坂道は本当に嫌になる。
直射日光と上り坂、この組み合わせは最悪だ。
そんなことを考えながらも、1歩ずつ足を踏み出して坂を登るしかない。

「やっほー」
気楽な声が背後から飛んできた。
「後ろ、乗ってく?」
電動自転車に跨る彼は、暑さを微塵も感じていないかのように爽やかで、羨ましい。
私は二つ返事で自転車の荷台に跨った。
二人分の重さを感じていないかのように、電動自転車はスイスイと坂道を上っていく。
今日は家に帰るまでの時間が短くて嬉しい。
だけど、彼の背中にくっついていられる時間は短すぎて寂しい。

「ねぇ、寄り道してかない?」

10/27/2023, 8:35:07 AM

愛言葉

好き。
愛してる。
一生離れない。

言葉なんて、その場だけ。
次の瞬間には、ふっ、と消えて無くなるもの。
何が本当で何が嘘か、後にならないとわからない。
贈られた言葉を信じた分、深い傷が自分に刻まれる。

もう何も聴きたくなくて、私は心に蓋をした。
耳に入る言葉はそのまま聞き流し、心で受取るのはやめた。

だけれど、態度で示してくれる貴方の言葉は心地よかった。
信じてもいいかもしれないと、私の心を惑わせた。


「死ぬ時は、一緒だよ」

私はいつもそう言って、貴方の愛を確かめた。
互いに愛し合っていることを確認する、合言葉だった。

あぁ、なぜ今こんなことを考えているのだろうか。
赤く染まった視界がぼやける。
愛しく握りしめた手は、とうに冷たくなっていた。

8/12/2023, 1:52:49 PM

君の奏でる音楽

雨降りの日、君は決まって家の庭で雨宿りをしている。
声をかけてもそっぽをむく君を、私はそっと抱えて家の中に入った。
濡れた体を優しく拭いてやり、温かなミルクを振る舞うと、君は少し安心したような顔をする。
何度か同じようなことを繰り返すと、君はいつの間にか毎日家の庭にやってくるようになった。

私は君を見かけたら窓を開けて、快く君を招き入れた。

君の感情表現は、まるで音楽のようで心地よい。
嬉しい時は、エンジン音のように大きな低音で喉を鳴らす。
怒っている時は、唸り声を出しながら、シャーッと威嚇する。
寂しい時は、小さくニャオンと鳴いてみる。
美味しい時は、ご飯を食べながらニャムニャムと舌鼓をうつ。

これからもその小さな体で、私の耳に幸せな音色を届けておくれ。

8/9/2023, 11:03:50 AM

上手くいかなくたっていい

――あなたは本当に出来損ないね。
幼い頃から何度も何度も、親に言われて続けてきた。
決まって兄と比べられる時に。
兄は何でもできた。生まれ持った才能。天からの贈り物。
それに比べ、私は平凡。何をやっても兄に敵うことはなかった。
それでも私にとって、兄は憧れであり目標だった。

大人になってからも、しばし兄と比べられる機会はあった。
しかし、子供の頃と違い、能力や実力の差は開くばかりで、もう私は兄と比べられる対象ですらなくなっていった。

「でも私は、例え兄より劣るあなたでも愛してる。
 私にとってはあなたが世界一、素敵な人だから」

そう言って微笑むパートナーを、私は優しく抱き締めた。
私は兄に憧れると共に、常に自分に劣等感を抱いて生きてきた。上手くいかない自分を責め続けた。
でも、そんな自分でも、認めてくれる、見ていてくれる人がいた。

私はとても、幸せ者だ。

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