刹那

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7/24/2023, 2:58:49 PM

友情

――君はさ、恋人と友達どっちを優先する?

酔っ払いの特段意味の無い会話の中で、急に真剣な目を向けられた。
相手は友達でも恋人でもない、たまに来るカウンターバーで、たまたま隣に座った初対面の女性。年上だろうか。身なりはとても綺麗なのに、乱暴にアルコールを摂取する様子はどこか寂しげな雰囲気が漂っていた。

――友達はそう簡単に離れないけど、恋人はその時の熱量が大事だと思って恋人を優先してた。でも、それは間違いだった。私は結局どちらも失うことになったわ。

自分にも古くからの友人が何人かいるが、そういえばもう何年も連絡を取っていない。心から友達、と言える人が本当にいるのだろうか。

――君、さっきから考えてばかりで一言も喋らない。実は友達いないんじゃないの?まだ若いのに可哀想ね、仕方ないからお姉さんがお友達になってあげるわ。

そう言って、隣に座る女性はひらひらとスマホを揺らし、連絡先交換を促した。友情というものは、いつ生まれるのか、大人になると不思議なもので、自分の思うタイミングではないことが多々あるようだ。

7/23/2023, 1:50:53 PM

花咲いて

毎年この時期になると、庭先の花壇に綺麗な花が咲く。

私はその花の名前を知らない。

覚えているのは、ただ君がその花の世話をしていた後ろ姿だけだった。
鼻歌交じりに毎日世話をして、花が咲くと嬉しそうに花に向かって語りかけていた。
君は本当に草花が好きだったんだね。

主のいない花たちが、どこか寂しげに見えた。
私は花壇の前にしゃがみ込み、小さな声で呟いた。

「今年もまた、君に会えた」

7/21/2023, 12:39:00 PM

今一番欲しいもの

カーテンの隙間から陽の光が差し込み、いつもと同じ音が隣の部屋から聞こえてくる時間。

廊下をそわそわと歩き回り、音が鳴り止んだ部屋の扉が開くのを今か今かと待ち構える。
ガチャリと扉が開くと、部屋から大好きな人が寝ぼけ眼を擦りながら出てきた。眠たそうに大あくびを一つして、私のことを優しく撫でる。

「おはよう。ご飯にしようね」

うん!と大きな声で鳴いて、私は大好きな人の後ろをついていく。今日の朝ごはんは何かな?

7/20/2023, 3:24:36 PM

私の名前

ふとした瞬間に、自分が何者なのかを見失う。
雑踏の中で立ち止まり、行き交う人々の中に一人立ち尽くす。

皆、自分が自分である事を疑いもせずに生きている。
それもそのはず、自分は他の誰でもない、自分自身なのだから。当然の如く。そもそも、自分が何者なのかなどという愚問が脳裏に浮かぶ人間が、自分以外に存在するのだろうか。

「あぁ、こんなところにいた。―――、帰ろう」

振り返ると、自分の名を呼ぶ声の持ち主がいた。
相手の笑顔を見て、自然と笑みが溢れる。

私はあなたに名前を呼ばれるために生きる者。

7/19/2023, 3:26:44 PM

視線の先には

私はあなたの事が好き。
それはもう、世界で一番大切に想うくらい。
朝起きて夜寝るまで、更に言えば夢の中まで、一日中あなたの事で頭の中が埋め尽くされてしまうほどに。

あなたを見つめるだけで胸がときめいた。
あなたと話を出来るだけで心が満たされた。
あなたに抱きしめられるだけで私は幸せだった。

それなのに。
私が落とす視線の先にはもう笑わない、喋らない、動かない、あなたが横たわっている。

あなたの声はもう二度と聞こえない。
もう一度、私の名前を呼んでよ。

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