ノブメ

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1/27/2023, 8:55:01 AM

それは解放の時

音は止み
時は止まり
空間が凍結する

白日の下に自らの罪が暴かれる事を恐れる数多の動物が
塒より這い出て動き回る
植物は夜の黒を背負って新たな姿を纏う

天空には星々が自在に瞬き
白い月が、太陽の陰に追いやられる事の無い一時を楽しむ

人々は、夢の中で己が望む己になる

此処は解放区

飛ぶ時間だ

「−ミッドナイト−」

1/25/2023, 10:34:00 PM

真っ暗闇に浮かぶ一本道を歩いている
手にもったランタンが煌煌と
歩く少しだけ先の道を照らしている

先に道がある事だけは分かる

もしかすると、ランタンが照らす更にその先で
この道は途切れているかもしれない

途切れた道を見たことは無いので
ここに書き記す事は出来ない

一寸先は闇

歩く速度
歩く方向
歩く能力
歩いてきた跡

それらの変数を基に、この道の行く末を導出する
計算式が正しい保証はない

安らかな時は常に過去となる
不確かな未来が確かに此処に在る

今日も歩く

「−安心と不安−」

1/24/2023, 1:57:27 PM

今日は久しぶりに会えて良かった

私達の思い出が詰まったこの街を離れて
これは修行なんだと言って
君だけが上京してから三年

時間も無くて、お金も無くて
あと、大人になった君に会う勇気もなくて

やっとの思いで私は君との時間を拾い集めた

肌寒い季節に映える
毛先が緩く巻いた暖かな茶色の長い髪が揺れて
胸元にリボンのついた
大人っぽいグレーのブラウスが似合う君

私は少し背伸びをして買った黄色いニットを合わせるのが精一杯で
君の隣を歩くのは、ほんの少しだけ居心地が悪かったけど

さよならの時間、私は夕日に見惚れる君が振り向く瞬間を
首から提げた一眼レフで撮った

写真の中の君は、屈託のない笑顔で笑っている

笑っている
笑っている
笑っている

だけど

夕日の影に隠れた君の笑顔の半分は
笑っていたのに
泣いていたんだ

「−逆光−」

1/23/2023, 3:10:52 PM

子供の頃、私は獣医さんになりたかった。

物心ついた時から、ニンゲンのお友達が怖かった。
いつも、中庭にある小屋で飼われているウサギやニワトリを眺め、お話しする事が大好きだった。

家ではイヌやネコと一緒に過ごす事は出来なかったけど、カメやキンギョを飼うことは出来た。
学校から帰ってくると、親には隠れて彼ら・彼女らにその日あった事をずっと教えていた。

当然のように、私は動物のお医者さんになりたいと思った。そのためにはとてもお勉強が出来る人にならないといけなかった。
お勉強は大嫌いだったけど、誰よりも努力しようとした。

頑張って
頑張って
頑張って

画用紙に思い通りに描いた未来は、真っ黒いクレヨンで塗り潰した。

私は、大人になった。
ビルとアスファルトに挟まれて、人間が作り出した冷たい森の中で、人間に擬態して生きた。

鳥や熊や兎や魚のものだった世界を踏み潰して出来た無機質な林で、私は多くの命を消費した。
生きているだけで罪を重ねた。

私は動けなくなった。
身体中に、今まで命を奪った生き物達の手が纏わりついているみたいだ。

気がつくと、目の前に画用紙が落ちていた。
クレヨンで拙い絵が描かれている。
私は、その絵に見覚えがあった。
そして、その絵を見ると無性に腹が立ってきた。
その絵をめちゃくちゃにしてやりたかった。

私は黒いクレヨンを手にし、叫びながらその絵を塗り潰した。
もうどこにも余白が無いほどになっても、何層にも黒を塗り重ねた。

遂に、クレヨンがもてなくなるほどすり減ってしまった。
私はクレヨンの残骸と真っ黒に塗り潰された画用紙の前にへたり込み、声をあげて泣いた。

地面に突っ伏して咽び泣く私の肩を誰かが叩いた。
私は顔を上げた。

小さい頃の私が、私を見下ろしていた。
「お姉ちゃん、泣かないで」
小さい私はそう言って私の前に座った。

彼女は画用紙を見つめ、何処からともなくナイフを取りだした。
「お姉ちゃん、見てて」
彼女はそう言うなり、手にしたナイフを画用紙に突き立てた。
ナイフを画用紙の上で直線に動かし、表面を削る。
何十回、何百回、彼女は線を引き続けた。

線を引き終わると、彼女は立ち上がった。
「次はお姉ちゃんだよ」
彼女はたった一言、そう言って霧のように消えた。

私は、彼女が消えたあとの画用紙を覗き込んだ。

そこで、目が覚めた。

「−こんな夢を見た−」

1/22/2023, 10:35:02 PM

街に季節外れの雪が降り積もった日
君は逝った
僕には宝物を1つだけ遺して

君が逝って
僕は君を忘れた

君は、少しずつ崩れていった
砂浜に建てた僕らの城は
打ち返す波に攫われ
世界へ希釈されていった

君の声の響きを忘れた
君の髪の香りを忘れた
君の肌の熱を忘れた
君の表情の移ろいを忘れた
君の唇の味を忘れた

だけど

君は君を遺した
久しぶりに会った君のお母さんが
君の欠片を僕に届けてくれたよ

どうして?

世界が君を連れ去っても
世界が僕の中の君を薄めてしまっても
僕が再生ボタンを押すたびに
君は何度だって甦る

あの砂浜に君が現れる

今度、あの子に君を逢わせたいんだ

君の声を聴かせてよ、ずっと

「−タイムマシーン−」

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